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脱力の恩恵 [演奏技術]

演奏における脱力というのも,ピンとこない方もいると思います。

演奏における脱力が市民権を得たのは割と最近の事です。数十年前のギター界でもそれに気づいていた芳志戸幹雄さんのような方もいましたが,当時はごく少数派だったはずです。

最近出た「成功する演奏家の新習慣」では,脱力は練習時留意する最優先事項といった取り上げられ方です。

成功する音楽家の新習慣 ~練習・本番・身体の戦略的ガイド~

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  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 単行本
力が抜けてくると,力を入れて弾いていた時には気が付かなかった指のムダな運びなどが見えてきます。合理的に考えた運指のはずなのにスムーズに弾けない,あるいはそこだけ力が入ってしまうという事は,やはりそこは合理的でないか,ムダな力が入って自分で手の動きを阻害しているかいずれかだろうという事になります。

ガンガンに力を入れて弾いていると,それがムダな力なのか,必要な力なのかの区別もつきません。大概はムダな力なのですが,一般論を言っていても全く分からないと思いますので,具体例を出してみます。

バッハのパルティータBWV1006aのロンド風ガヴォットの9小節目からです。良く知られたAのテーマを繰り返した後のBのエピソードの入り部分です。色んな運指が考えられますが,今回当方が決めたのは,以下の通りです。

BachGavotteRondeau.png
BWV1006aのロンド風ガヴォットの5小節目から。9小節目に注目(クリックで拡大)。
ジャンプする1拍目に続く2拍目,3拍目はのびやかに続けたいですし,バスは音階的に降りて来ますからそれもはっきりと弾きたい。そのように考えて,なるべく手が楽になるように決めたつもりですが,弾いてみると3拍目に移行する部分で力が入ってスムーズに移行できません。「あれー,何でだろう?」と思うわけですが,ゆっくりさらってみますと,ONのままで引きずろうとしている事に気づきます。B#音のところでB#音を押える1指以外をOFFにして,軽く押さえ直せば何でもありません。いわば1指をピボットにするわけですが,力を入れたまま引きずりますと,スムーズに移行できないだけでなく「キュッ」という擦過音も入ってしまいます。以前弾いたときとは運指も異なると思いますが,そのような弾き方をしていたものと思われます。のべつ力が入っていると,そこだけの問題だとは気づきません。そしてスムーズに弾けないのは練習が足りないせいだと考えて,ひたすら練習を繰り返す。手が慣れて来て何となく力が抜けて何とかなるという状態だったと思われます。

また,この組曲の様にホ長調だと少々指の拡張も必要になります。以前ですと,手の拡張は力を入れて広げる様にしていましたが,現在はクローズドフォームで極力力を抜いて必要な指のみ伸ばすというスタイルにして,かなり楽になりました。

何れにしても,かつての様に至るところで力が入っていると,どこで抜いたら良いかも分かりませんので,ひたすら弾くだけでしたが,全般的に力が抜けてきますと,譜読みや練習初期の段階でムダな力みに気づく事で,逐次早めに取り除いて行くことが出来るという効用があります。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

私も9小節目は一度同じ運指を考えたことがあります。今はまだ白紙ですが、選択肢の一つではあります。10小節目の頭へつなぐのが私には少し厳しいです。(^^;

by たこやきおやじ (2022-02-16 01:21) 

Enrique

たこやきおやじさん,
この組曲のプレリュードには至るところにそういう箇所があるので敢えて取り上げませんでしたが,分かりやすいところを取り上げてみました。
スムーズな移行のためには力を抜く必要があります。力の抜け具合で運指も変わってくると思います。今回当方は前後は全く問題がなかったので,この部分で自分の悪い弾き方に気が付いたということです。
by Enrique (2022-02-16 07:30) 

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