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送配電に関して~有効・無効電力の物理的意味~ [科学と技術一般]

有効・無効電力は分かったようで分からないものではないでしょうか?
単純な電流電圧の積で表される皮相電力(単位は[kVA])に対して,有効電力は電圧電流の掛け算に位相角のコサイン分,無効電力はサイン分とされます。

交流理論では電圧や電流はもちろん,インピーダンスまでもがベクトルで表現されます。電力は電圧ベクトルと電流ベクトルの掛け算と考えれば,有効電力は両者の内積,無効電力は両者の外積で表されます。むろん皮相電力はスカラー積です。

交流理論ではそれらのベクトルはいずれも複素演算で処理されます。皮相電力Sは有効電力Pと無効電力Qとのベクトル和S=P+jQとしてパワーの次元でも複素表現されます。交流理論では交流の電流電圧や電力を,ツールとして複素数とベクトル図を用いて整然と捉える事ができるのですが,逆に少々分かりにくくなるのが具体的なエネルギーのやり取りでしょうか。その辺の様子を見るには,いきなりベクトル図を使わずに,もとの交流電流電圧に遡って検討してみるのが良さそうです。

図1に最も基本的な,交流電源e(t)を負荷Zにつないだものを示します。
負荷回路.png
図1 正弦波交流電源e(t)を負荷Zにつないだもの。E,Iはそれぞれ電源電圧(起電力[V]),負荷電流の実効値[A]。ωは角周波数[rad/s],tは時間[s],θは電圧に対する負荷電流の位相差角,Φは任意角,ともに[rad]。
ベクトル図を使った説明に入る前に(多分昔講義の最初に教わったのでしょう),交流の瞬時値による電力の状態を見ておきます。皮相電力は電圧電流の掛け算*で,その値の瞬時値p(t)は図2の上段の波形で表されます。グラフのプラス側が正の電力,すなわち消費する電力で,マイナス側は負荷から電源に戻される電力です。中段は有効電力pa(t)は負荷で消費される電力のみを表し,下段の無効電力は負荷と電源とを行ったり来たりする電力で,平均するとゼロです。
有効無効電力.png
図2皮相電力,有効電力,無効電力のそれぞれを瞬時値で表したもの。
無効電力の発生原因は回路中にインダクタLやコンデンサCがあるからです。電力を消費するのは抵抗R分であり,インダクタLやコンデンサCは電力を一時的に貯蔵する素子だということです。力学系で質量とバネがそれぞれ運動エネルギーと弾性エネルギーをやり取りしながら振動するのと同じです。Lは磁気エネルギーをCは静電エネルギーを蓄えます。

物理的な意味もさることながら,電力はコストのかかるものです。需要家が消費するのは有効電力のみですが,供給側はそれに加え需要家の負荷に含まれる無効電力分と送電線路で発生する有効・無効電力分も送電しないといけないので,供給側から見たら無効電力のハンドリング(トータルの力率改善)は切実な課題になります。その辺の様子はやはりベクトル図を描いてみると分かりやすくなります(図3)。

電力ベクトル図.png
図3 (a)遅れ力率cosθの負荷Zに送電線路z=r+jxを介して電力を供給している様子。送電側は負荷の有効電力EIcosθに加えその無効電力のEIsinθ,さらに送電線の有効無効電力を含めたE0Iの皮相電力を送らなければならない。(b)負荷の力率が1の場合。送電側が送る余分な電力は送電線路の有効無効電力となる。(c)送電線路と負荷をあわせて力率を1とした場合(理想的に調相したと仮定)。送電側の余分な電力は送電線路の抵抗損失のみ。

*なぜ電流[A]と電圧[V]を掛けると電力(仕事率)[W]になるかというのは,簡単には単位を見ればわかります。電流[A]は電荷[C]の1sあたりの流れなので[C/s],電圧(電位差)[V]は1Cの電荷を持ち上げるエネルギー落差なので[J/C],両者の積は仕事率[J/s]=[W]です。また,電流という示量変数と電圧という示強変数の積と考えることもできます。両者の積で仕事[J]や仕事率[W]になる組み合わせの物理量は色々あります。
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コメント 2

たこやきおやじ

Enriqueさん

懐かしいですね。この辺の事は電気学会編の「電気回路論」の教科書で習いました。今も大事にとってあります。(^^;


by たこやきおやじ (2021-09-17 20:03) 

Enrique

たこやきおやじさん,
初歩の初歩ですね。

by Enrique (2021-09-17 20:32) 

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