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火力発電所が進相運転する真相? [科学と技術一般]

火力発電を切り上げるにあたって,ちょっとおやじギャクです。

発電所は通常遅相運転をします。しかしながら,夜間などの軽負荷時は進相運転する事があります。このことは,発電所の運転に関わる人には常識事項なのでしょうが,当方含めそうでない人にはすこしややこしい知識となっています。

まずは,進相(進み位相)と遅相(遅れ位相)の有効無効電力の事は理解している前提です。負荷には誘導性のものが多いので,通常発電機から流れ出す電流は容量性としています。別の言い方をすれば,負荷の遅れ無効電力を発電機が回収していると言えます。ここで注意しなければならないのは,発電機側から見る進み遅れは,負荷側で見る電圧に対する電流の進み遅れと逆だということです。

夜間などは需要家の誘導性の負荷が減り,力率が100%に近づきますが更に負荷が減ると逆転して容量性負荷となる事があります。これは,近年需要家側には電力コンデンサ(力率改善コンデンサ)が導入されていることや送電線の充電容量とも相まって発生します。そうすると,送電端電圧よりも受電端電圧の方が上がってしまう現象(19世紀に発見されたフェランチ効果)が発生してしまいます。受電端電圧が定格よりも上昇してしまう現象は,絶縁破壊など厄介な問題を引き起こします。

そのために,発電機側では同期発電機界磁の励磁電流を減らして進相運転を開始します。容量性負荷の無効電力を回収するためです。電圧を一定に保つ調整には,電圧を直接制御する装置もありますが,効率や安定性の面で位相の調整で行うのが常道です。同期発電機界磁の励磁電流を減らして進相運転ができるのは,同期器の励磁電流と電機子電流とのV字特性(図1参照)を利用します*。同期機を位相調整専用にしたものは,回転調相機**とも呼ばれパワーエレクトロニクスが進歩した現在でも用いられています。

発電機の進相運転は,いわば発電機そのものを調相機とするわけで,通常は強励磁で発電側から見て遅れ位相(負荷側からみて進み位相)運転とするものを,弱励磁で発電側から見て進み位相とするものです。
優れた方法ですが,弊害もあります。定格時よりも弱励磁で用いる事により,界磁の磁気回路の磁束分布が大幅に変わって来て,定格運転時には問題にならない固定子コア端部の発熱などが起こるとの事です。発電機そのものに弱励磁運転を想定した磁気回路設計の最適化が必要でしょう。

V字曲線.png
図1 同期電動機のV字特性。発電機として見ると谷を挟んで左側が進相領域になる(「電気工学ハンドブック第6版」より)。

*V字特性の発生原因は,同期機の電機子反作用から理解する必要があります。同期機内では,電機子電流が界磁に影響を与えて,いわゆる電機子反作用を生みます。同期機の場合装置内の磁界分布の変化により発電電力の位相変化を生みます。電機子反作用は厄介な現象でもありますが,界磁の励磁電流の調整で発電電力の電流位相を調整できるという,いわばパワーフェイズシフターの働きをします。
**いわば同期機を電力用コンデンサや分路リアクトルの役目に用いるわけで,しかもそれらが界磁電流の調整で連続的に可能です。
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