「ドビュッシーの墓」聴き比べ [演奏批評]
速度標語の解釈には幅がありそうですが,ひどい場合は作曲家の指定が演奏家に無視されることもあると書きました。
近現代の作曲家はそれを嫌ったのか,速度指定される事も多いです。
先に取り上げた,ファリャのギター曲「讃歌 ドビュッシーの墓」は,いろんなギタリストに演奏されるポピュラーな曲になっています。
標語がMesto e calmoでその後に♩=60とついています。意味は「悲しくて穏やか」です。指定よりもずっとゆっくりな演奏が多い印象です。リズムからハバネラである事は明らかです。終わりでちょこっと引用されるドビュッシーの「版画」からの「グラナダの夕べ」もハバネラでした。スペイン的なテンポの揺れはあるにしろ,バックに流れる淡々としたリズムが「穏やかさ」を演出するのではないかと思います。これが作曲されたのが1920年とすると,1918年のドビュッシーの死から2年ほど経っています。ドビュッシーが好んだハバネラのリズムを使っているのですから,それがはっきり分かる演奏にすべきと思います。
当方は人の演奏を聴いてから弾くのは嫌いです。上手い下手は別として,音楽は自分で表現するものだと思うからです。大家の演奏と言え(むしろ大家の演奏だから)人の演奏を聴いてからその様に弾くと言うのは,いわばカンニングしている様なものです。それも自分のカンペでなく,人の答案でそれが必ずしも正解ということもありえませんから,二重の過ちになります。ある程度自分の演奏が出来上がってから,人の演奏を聴いてみるということはたまにしますが,それによって人の上手なところや自分の下手さ加減も分かるわけで,それがはっきりするという効能もあります。それが嫌なので聴かないというのもありますが。
さて,この曲の演奏はYouTube上に溢れていますので,当方普段は滅多にしないことではありますが,色んなプロの演奏を聴き比べをしてみます。
演奏1. ブリーム | 演奏2. イエペス |
演奏3. セルシェル | 演奏4. バルエコ |
演奏5. レナータ・タラゴ | 演奏6. セゴビア |
演奏7. ぺぺ・ロメロ | 演奏8. ディラ |
演奏9. 西本夏生さんのピアノ | 演奏10. オケ版 |
テンポにばかり注目しました。ギターではゆっくりな演奏が多いとばかり思っていましたが,必ずしもそうでもないようです。どうもブリームとイエペスの演奏の影響が大きいのではないしょうか。古いタラゴやセゴビアの演奏でもそんなにゆっくりなものではありません。
楽しく聴き比べさせていただきました。やはりバルエコくらいのテンポが良いと思いましたが、ゆっくりの演奏もそれぞれ良かったです。
ファリャ、と言えば「火祭りの踊り」が一番に浮かんできます。
by Cecilia (2021-02-16 19:21)
確かにファリャは「火祭り」,ピアノでも弾きますね。あと,恋は魔術師,三角帽子ですか。「はかなき人生」のスペイン舞曲第一番も有名です。強烈なスペインのリズムをオケで表現しています。
テンポに関しては,やはり作曲家の指示通りが良いと思いますが,作曲家は頭の中だけのこともあるので,パフォーマーの意見もありますね。
by Enrique (2021-02-16 20:23)