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リゲティのミクロポリフォニー [音楽理論]

17日のNHK-FM「現代の音楽」でフランスの現代作曲家ジョルジュ・リゲティが取り上げられていました。

同番組はいつも聴くとは無しにきいています。先週はクセナキス。「いかにも」現代曲という感じのピアノ曲を思い出しました。
17日のリゲティではミクロポリフォニーという作曲技法を取り上げていました。
最後に掛けられた作品は「ロンターノ」。

「オーケストラのチューニングでA音が重ねられて行くような」と西村氏が説明していました。
確かに非常に美しい音響空間です。

この曲はA音よりも少し低い,G#音くらいから始まって,大体その音のままいろんな楽器が重ねられていくようでした。わずかの音の揺らぎですから,不快な不協和音ではありません。

この曲の題名になっている(ふつうの楽語の)"lontano"というのは,なかなか表現の難しい指定です。

こんな微妙な指定は古典曲にはありません。ギター曲では例えばタンスマンのカヴァティーナ組曲のサラバンドで三連符で始まるモチーフが曲の終わりで再現された場所(下の譜例)とか,ポーランド風組曲のRêverie(夢想)の冒頭に現れます。
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「音の大小」ではなく,「遠くから」というのですから。イメージとしてはわかっても,具体的にどう弾いたら良いのでしょうか?むろん具体的な指定ではないので,「遠くから」を感じて弾けば良いのでしょうが,普通遠くからのものは音は小さいです。しかしどうでしょう?単にppという場合は,むしろ緊張を込めて小さな音ではっきり聞こえる様に弾くべきと思います。

それに対して,「遠くから」の音は,茫洋として,かすんで,音はくもります。といえ,小さくくぐもって弾くと全く聞こえなくなるかも知れません。そうするとlontanoは音の大小では無くて,やはり「遠くから」なのです。むろん大きく弾くわけではなく小さく遠くからです。

ギターで音質を変えるには,弦の弾く位置と,タッチの角度とがあります。同じタッチで音質を変えるには,ブリッジ側のsul ponticelloと12F側のsul tastoがありますが,単にこれでは表現できない様に感じます。タッチの角度を付ければ柔らかいくもった音になります。ブリッジ側で普通に弾けば硬くなる音をタッチで柔らかく弾いたような音ではないかなと勝手に想像しています。

音楽表現には,何も具体的な弾き方ばかりではないでしょう。
微妙な表現においては,こういう現代曲でも参考になることはあるのだろうと思います。

あと,前の記事で和声学や楽典の話をしていたついでに言えば,「ポリフォニー」とは多声音楽のことです。普通の音楽?は全て多声ではないか?といわれると,そうではなく,ポリフォニーが出てきたのはルネサンス以降です。グレゴリオ聖歌の時代は,単音の音楽「モノフォニー」でしたので,それ以降に出て来てバッハで大成された音楽技法が「ポリフォニー」です。一言で言えばこれを扱う音楽理論が対位法です。それ以降,古典派の音楽はポリフォニーとは言わずハーモニーです。

音楽史のながれば「モノフォニー」→「ポリフォニー」→「ハーモニー」です。古典派からロマン派へかけての「ハーモニー」が現在の和声学の基本です。長調と短調が確立したのも古典派前後です。しかし時代を経ると「ハーモニー」がワグナーのいわゆるトリスタン和声から崩壊し,それまでの三度で重ねた和声から,ドビュッシーやラヴェルの四度和声が出て来て,長調と短調の縛りから抜け出した近代的な旋法が使われだし,ついには調性の崩壊を招いたと。

当然「マイクロポリフォニー」はバロック時代のポリフォニーの名前を現代に借りた別物です。ちょうどドビュッシーが古典派以前の教会旋法ならぬ近代的な旋法を用いた様に,いわば古い皮袋に入れた新酒です。20世紀は平均律の音程に飽き足らず微分音などが盛んに用いられた時代です。バロック時代の元来のポリフォニーは2声以上の音の織りなす綾です。単純に音響学的に言えば,音の周波数が低次整数比で構成される様に音を選ぶわけです。対位法は禁則などを含んでカノンやフーガがうまく響く様に音楽技法としてまとめられたものですが,現代のマイクロポリフォニーでは,重ねる音が微分音程程度ですから,響きがきれいな低次整数比で表される様なものではなく,むしろ重ねた音自体はユニゾンでその微妙なゆらぎに美を見出しているようです。実際にその響きは,通常の音楽というよりは音響として美しいものはあります。
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Cecilia

リゲティ、聞き覚えのある作曲家だと思い、交流あるブログを確認したらやはりありました。
無理な注文をする作曲家のイメージですが、また聴いてみたいと思いました。

by Cecilia (2021-01-18 20:33) 

Enrique

Ceciliaさん,
特に現代の作曲家の場合,よほどのことが無いと真面目に聞かないですが,FMの「現代の音楽」はそんな中での情報源です。西村氏の解説を聞くと,受け入れられるかどうかは別として「なるほど」と思う事はあります。
by Enrique (2021-01-19 09:35) 

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