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ウォークマン誕生の鍵 [電気音響]

前記事で触れたウォークマン。その誕生の鍵は何だったのでしょう?当方が語れるのは要素技術面ですが,例えば現在LED照明が普通になりつつあるのは,青色LEDの素材GaN(窒化ガリウム)の製法が確立して量産できるようになったからですが,ウォークマン誕生の鍵になった要素技術は何だったのでしょうか?

案外知られていないのが強力磁石の存在です。これを使ったヘッドホンがイヤホンの大きさでまともな音質になったことが大きいです。むろんプレーヤ本体をカセットケースサイズにした小型化技術は大きいですが,本体が小さくても,巨大なヘッドホンでは,とてもヒットは望めなかった事でしょう。

現在世界最強力磁石は,Nd2Fe14B*(ネオジウム鉄ボロン;通称「ネオジム」)磁石ですが,70年代当時はまだこれが開発されていませんでした。60年代アメリカで開発されていたものの弱かったSmCo5(サマリウムコバルト)磁石を日本で改良して開発されたSm2Co17**が世界最強でした。無機化学系の方ならばピンと来ると思いますが,軽希土類と強力な方向性(磁気異方性)を持った強磁性体を特定比率で組み合わせた(金属間化合物)素材で,磁石の原理(高保磁力発生原理)としては同一です。「ネオジム磁石」開発の基礎になったのは言うまでもありません。

HDDから取り出したNdFeB磁石の再利用
現在,室温での強力さではNdFeBが勝りますが難点は耐熱性です。これにはキュリー温度という素材の本質的な量が寄与しますので耐熱性で勝るSmCoも現在使われています。

ウォークマン開発当時はこのSmCo系磁石,俗称サマコバ磁石が強力磁石の代名詞でした。これを磁石に使う事でイヤホン型の小型のヘッドホンで高音質が得られたわけです。そこはフェライト磁石の様な弱い磁石では無理でした。強力磁石の開発はモーター類の小型化にも寄与しています。現在HDD装置のトラッキングのボイスコイルモータには,NdFeB磁石が使われていますが,使い終わったHDDからこれを取り出せば,ディスプレイ用の強力なマグネットになります。

電磁ピックアップにNdFeB磁石を使ってみたことがありますが,強すぎて却って感度が低下した記憶があります。鉄芯を磁気飽和させてしまったのでしょう。

*佐川眞人氏の開発
**歌人の俵万智さんの父上,俵好夫氏の開発
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たこやきおやじ

Enriqueさん

昔はスピーカー用マグネットで”アルニコ”と”フェライト”の音質論争があったのを記憶しています。(^^;
スマホ用に買ったソニーのイヤホンを調べてみると”ネオジウム”の記載がありました。全く気が付きませんでした。(^^;
オーディオ分野では、回路技術に目が行きがちですが、材料分野の進歩にも注目しないといけませんね。(^^;

by たこやきおやじ (2021-01-07 11:57) 

Enrique

たこやきおやじさん,
アルニコとフェライト磁石を比べたら磁石性能ではアルニコのほうがずっと上ですが,スピーカーの音質となると,必ずしも強いほうが良いというわけでもないのでしょう。強すぎて非線形動作になってはひずみますね。当然磁石特性に合わせて設計するのでしょうが。
ブレークスルーがない環境下で同じ素子を使っていれば,回路技術がセールスポイントでしょうが,新しい素子が出ると,工夫した回路技術が全く過去のものになるケースがよくあります。
例えば,LED以前の蛍光灯照明インバーター点灯が高級でしたが,全く無用の長物となり,直結で良くなったので却って原始的なグロー点灯方式のほうがまだマシになってしまいました。
私は素材開発のほうに先に目が行きます。
by Enrique (2021-01-07 14:45) 

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