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2オクターブの小宇宙に遊ぶ [雑感]

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ギターの音域は3オクターブ半ほどですが,常時用いるのは2オクターブほどです。

ローポジションで開放弦で使って弾く場合,セーハをして音を高める際でもだいたい2オクターブの感覚(間隔)です。

もちろんギターが得意な調で開放弦が多く用いられる場合は3オクターブほども可能です。
端的な例が,「禁遊」の5小節目でメロディが①弦12フレットのE音を弾くところは,バスが⑥弦開放ですから3オクターブ下です。

バッハのリュート組曲第4番ホ長調(BWV1006a)のプレリュード冒頭もE音での3オクターブ始まりです。
まるでギターの為に作られたような曲ですが,リュートのオリジナル調弦では弾けないのですが,リュート曲に整理されます。同曲はヴァイオリンパルティータ第3番ホ長調(BWV1006)の編曲と言われていますから,むしろヴァイオリンの得意な調がギターと重なるため起こる現象でしょう。
(むしろ無伴奏チェロ組曲からの編曲の第3番(BWV995)などのほうがリュートには向いているのでしょう。原曲の無伴奏チェロの第5番(BWV1011)はハ短調,リュート第3番はト短調,ギターではイ短調の編曲が大半です。)
いずれにしても,ギターの演奏では大体2オクターブから3オクターブの範囲で使っているとみて良いでしょう。

弦間の音程は2オクターブで,さらにそこからの音程の移動をフレットの押さえで行っている楽器です。
鍵盤と弦楽器との間を行くような楽器です。和音を押さえてアルペッジオを弾けば文字通りハープ的になり,弦を押さえてポジション移動すれば弦楽器的になり,ポルタメントやヴィブラートが掛かります。

ピアノやハープの音域からしたらずっと狭く,その音域は半分ほどしかありません。
音域はハーモニクスを使えば多少広がりますが,それでも4オクターブをやや超える程度でしょうか。限られた音域でのデリケートな音色変化やニュアンスの表現が持ち味でしょうか。

その為というか,ギターの弦楽器的魅力を発揮しようと,気合いを入れたヴィブラートが多用された時代もありました。正規に習い出した頃「ヴィブラートはこう掛けるんです」と,右手を弾くと同時に(あるいは弾く前から)気合いで小刻みに揺すぶるヴィブラートを教わりましたが,現在では余りこれ見よがしなヴィブラートは好まれないでしょう。独学時代はヴァイオリン等のかけ方を模倣していましたが,むしろそのほうが現代風だったわけです。私が独学してから3年目,NHKの芳志戸幹雄氏は激しくゆするヴィブラートを諫めていたのを思い出します。生徒の女性はかなり上級者で,ヴィラ=ロボスの練習曲第11番やデラマーサのペテネーラを弾いていましたが,その時の芳志戸さんの指摘には(いずれも情緒の濃い曲ですので)ヴィブラートが無いのでは物足りない印象を持ったものですが,氏はりきみが入るのを問題にしたのでしょう。

ヴィブラートの入れ方は,音程が定まってからというのが真っ当でしょう。
ギターではどうしても音が伸びませんので,早めに入れてしまいそうになりますが,そこはがまんです。 ヴィブラートは普通譜面には記されませんが,ギターでは奏法的なスラーやアラストレ,ポルタメントが記譜される場合があります。奏法的スラーに関しては基本記譜通りですが,アラストレやポルタメントとなると,記譜でやるよりも感覚面が多いのではないでしょうか。いずれも効果的に用いられれば優れた効果を発揮すると思いますが,下手をすると大変品の無いものになりますので,現在の演奏ではあまり用いられないでしょう。

ギターを弾かない作曲家の作品の場合,奏法的スラーを書き込んでいるとはまず考えられないので,書き込まれた譜面の取扱いには注意が必要でしょう。一か所スラーを入れるだけで滑らかに聞こえるのがギターという楽器です。ギタリストの運指付けや校閲の結果でしょうから,有難く頂戴するか過剰なものは省くかなどの選択が必要でしょう。
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コメント 6

たこやきおやじ

Enriqueさん

ヴィブラートはどんな楽器でも、演奏者の音楽性が現れると思います。かけかたには決まりは無いと思いますが。技術的には色々なやり方があると思います。曲想に合うように上手くかけるのはアマチュアにはなかなか難しいですね。(^^;
by たこやきおやじ (2018-11-03 08:42) 

Enrique

たこやきおやじさん,
確かにヴィブラートは記譜されるわけではありませんので,どう掛けても良いとは思いますが,音程が定まってから音程より高めに掛けるのが基本だと思います。
歌でも,演歌などでは音程でなく強弱だったり,やたら細かかったりします。いわゆる縮緬ヴィブラートは嫌われますね。
かつてギターでは最初から(音を弾く前から)細かくかけまくる縮緬ヴィブラートが主流でしたが,今時の演奏でその様なビブラートはあまり見聞きしませんね。変なヴィブラートなら掛けないほうが得策ですね。私は独学時代のビブラートに戻しました。
by Enrique (2018-11-04 06:25) 

たこやきおやじ

Enriqueさん

私は最近、昔の記憶が曖昧ですが(^^;

>かつてギターでは最初から(音を弾く前から)細かくかけまくる縮
 緬 ヴィブラートが主流でしたが,

私もこのヴィブラートは、昔は見たことはありますが、それが「主流」であったとの認識はないのですが。あくまでも、その様なヴィブラートは演奏者の音楽的表現方法の一種だと思いこんでいました。私の認識がおかしかったのですね。勉強になりました。(^^;
by たこやきおやじ (2018-11-04 08:55) 

Enrique

たこやきおやじさん,
「主流」というのは言い過ぎでしたか。おそらく皆セゴビアの演奏スタイルに倣っていたのだろうと思います。セゴビアとは演奏スタイルの異なる人でも,ヴィブラートに関しては細かく掛けていた様な印象です。「多かった印象」くらいの個人的見解です。
by Enrique (2018-11-04 12:49) 

アヨアン・イゴカー

バイオリンの場合のビブラートは低いほうに指先を倒しますが、ギターは逆なのですね。
by アヨアン・イゴカー (2018-11-04 15:26) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
ヴァイオリンの技術はわかりませんが,ヴィブラートの音は,本来の音程に少し上がるようにするのではないかと思うのですがどうなんでしょうか?音として下がると気持ちわるい様な気がします。
ヴァイオリンなどは指先の触れる位置で弦長が変わりますが,ギターではフレットがあるため,テンションの変化で掛けますので,掛かりにくいため昔は気合いで縮緬ヴィブラートを掛けたのではないかと思います。あと音程の変化というよりも,音の伸びを少しでも稼ぎたいとか,特定の音にアクセントをつけるという意味合いもあったのだと思います。
by Enrique (2018-11-04 16:05) 

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