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エレキ化の功罪 [科学と技術一般]

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様々な分野でメカからエレキ化が進んでいます。

自動車のエンジンから電気モーターへの流れはその大きなものですが,駆動が電気モーター化する以前から,エンジン自体は機械的装置であっても,その制御部分はどんどんエレクトロニクス化され,近年ではその動作がコンピュータプログラムによって制御され,エンジン性能の生殺与奪を握るまでになっています。まるでクルマもアプリでどうにでもなってしまうスマホの様なものですが,勿論そのためには様々なセンサー類やきめ細かに操作できるアクチュエーター類が完備していないといけません(画像は特に記事とは関係ありません)

あれこれ経緯はあるようですが,船でも電気推進が取り入れられています。機関で発生した動力で直接スクリューを駆動するよりも,発電させた電気でモーターを回した方が色々メリットがあるというわけです。
エネルギー収支面で言えば,わざわざ機関で電気を起こしてモーターを回すよりも,直接駆動した方が良いに決まっていますが,それを補って余りあるメリットがあるのでしょう。メリットの一つは速度制御の容易さでしょう。燃料バルブやスロットルをメカ的に動かすよりも,電気制御の方がはるかに細かな制御が可能だからです。それに,エンジンとモーターではトルク特性が全く異なりますから,一旦電気化してモーター駆動にするというのは,沢山のギヤを使って減速しなくてもよいというメリットがあるわけです。

音楽関係で思いつくのは,オルガンの電気化です。
ここでいうオルガンとは電子オルガンの事では無く,教会や音楽ホールにあるパイプオルガンの事です。鍵盤はいわばパイプに空気を送るスイッチの役目を果たすわけですが,文字通り鍵盤を電気スイッチにしてしまうわけです。沢山のワイヤーで機械的に引っ張るよりも,電気仕掛けにしてしまえばスッキリ楽です。なお,パイプに空気を送るふいご自体はかなり前から電気送風機が使われています*し,電気仕掛けにより,アクションが軽くなって弾きやすくなっているようです**

クルマのみならず,自転車にもエレキ化の波が訪れている様です。
電動アシスト自転車は周知の通りですが,かつてタイヤの外縁部に装着されたダイナモと豆電球によるライトでしたが,現在の主流は車軸部に装着された発電機によるLED点灯です。これは,殆ど点灯時の負荷を感じさせません。かつてのダイナモはヒューヒューと,まるでエンジンブレーキを掛けながら走っていた様な状況でした。もし電力のロスが1/10,機械的なロスが数分の1だとすれば,数十分の一程度の負荷で済んでいるのではないかと思われますし,従来より明るくしても悠々お釣りが来ます。自転車のライト点灯による安全性が格段に上がったと思います。このごろ研究開発がなされているのは,機械的なワイヤーで引っ張っているブレーキや変速機構の操作を電気仕掛けにするものです。例えば,自転車の変速機構はどう使って良いか分からない人がいるようなので,こぐ力がムダにならない様最適なギヤ比に自動的に切り替えるなどという事も,電気仕掛けにすれば出来る訳です。自動車のオートマの様なものです。

まあ,何でもかんでも電気仕掛けにするというのもあまり賛成は出来ません。
電池が無いと何もできなくなってしまうからです。明らかに電気化してシンプルになり便利になるのであればそれもOKかなとは思うわけです。パイプオルガンの仕掛けも,少なくとも17世紀にフローベルガーが味わったような屈辱が無用になれば大いに進歩だろうとは思いますが,そうすると,そもそもふいご係という仕事も無く,取り付くしまも無く,うっぷん晴らしの曲も生まれなかっただろうというのも,また善し悪ししではあります。


フローベルガーがロンドンでその憂鬱を紛らわすために書いたであろう曲。
*初期バロックの著名な作曲家フローベルガーは,パリからフランスのカレーに向う際に追いはぎに遭い,更にカレーからロンドンに向かう船旅の途上でも海賊に襲われて身ぐるみはがされ,ぼろぼろの体でロンドンに上陸。音楽を聴きたいと申し出て,お代代りにオルガンのふいごを動かす作業をしたが,それが気まぐれな作業だったのでオルガン奏者から平手打ちを食らったなどという言い伝えがあります。その際の憂鬱な気持ちを払うために作曲した音楽「ロンドンで憂鬱を吹き払うために書いた不平(Plainte faite à Londres pour passer la melancholie)」というのがあります。当代一流の鍵盤奏者だったフローベルガーが,おそらくは凡庸な奏者の弾くオルガンのふいごを動かし続けている状況は如何に屈辱的であったかは(かなりの体力も要求された事でしょう)想像するに余りあります。 **もちろん音は機械仕掛けの時と変わりません。電気仕掛けでアクションが軽くなって弾きやすくなる効能のみです。
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REIKO

アクションを電気仕掛けにしたパイプオルガンは、楽器本体に組み込むしかなかった演奏台とは別に、移動式の演奏台をステージ上に出して使えるようになったのが画期的なことだと思います。
(例えばサントリーホールには「移動式」があります)
移動式演奏台と楽器をつなぐ太いケーブルの中を電気が流れて、鍵盤のON・OFFやストップ操作の信号を伝えてるんですね。
組み込み演奏台とほとんど遜色ない制御ができるようです。
ところがこの仕組みを知らない人が多数いて、コンサートで移動式演奏台を使うと「電子オルガンで代用している」と勘違いされるケースがあるんだそうです。
まだまだ日本では(パイプ)オルガンって理解されてないんだなあと思います…(残念)
by REIKO (2018-10-04 18:03) 

Enrique

REIKOさん,そうですね,電気式の産物として演奏者の位置に自由度が出ますね。ヨーロッパの古い機械式アクションの楽器ではものすごく重いものがあって,奏者を苦しめるらしいですが,電気式アクションで楽に弾ければ音楽は確実に良くなるはずですが,楽器の仕組みへの理解よりも,電気の力を借りているというのはイメージが悪いのかもしれませんね。「ラクをするのは悪いことだ」と言うドグマがあるのかもしれません。
日本ではオルガンの歴史が,一般には電気オルガンだったり電子オルガンから始まっているからかもしれませんね。
by Enrique (2018-10-05 06:45) 

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