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初見奏・視奏・暗譜奏とEHS [演奏技術]

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前報にて,EHSの話を書きました。
プロは多めの先読みが安定していると。
では,そのようになるにはどうしたら良いのでしょう。

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まずはケーデンス(カデンツの事ですね)をおさえるのがポイントでしょうか。
メカニカルな技術練習と共に,音楽の流れを理解する事が重要でしょう。時代ごとにお約束のパターンがありますので,いろんな時代の楽曲に親しんで,それぞれのスタイルの課題を実施(バス課題やソプラノ課題に和声付けする作曲の演習)できるくらいになっていれば楽でしょう(私はできませんが)。

当然楽典・楽式の知識・経験も重要です。拍子・テンポ・調,譜ズラを見れば自ずと曲想は見えて来ます。その上で,楽式名がある場合はその情報も大きいと思います。例えばバルカローレなら,元祖?メンデルスゾーンのものを知っていればタンスマンでもクレンジャンスでも,和声は近代的になっているにせよ,雰囲気は想像出来ます。トッカータとかタランテラとかといった特徴的な舞曲名なら,曲想はわかった様なものです。これに限らず色々ある舞曲名は大いにヒントです。もちろん作曲家名もです。初めて取り組む作曲家の場合は,未知なる探検のようなドキドキ感があるでしょう。

音楽の歴史の大きな流れは,様々なスタイルの確立とその熟成脱皮新しいものへのチャレンジやり過ぎてまた先祖返りと言ったような歴史の繰り返しです。これは何も音楽史に限った事ではないでしょうから,かりに学校の音楽がキライだった人でも,知るべき知識でしょう。

音大で作曲の勉強をする際には,様々な作曲家のスタイルで課題を「実施」するのだそうです。もう古い話題になりましたが,佐村河内守氏のゴーストライターをしていた新垣隆氏にしてみたら,あの「作品」は,ワグナーの課題を「実施」しただけだったようです。

そういえば,私が独学でギターを弾いていた頃,1年間にわたって現代ギター誌に二橋潤一氏の手による「大作曲家にみる音楽様式のポイント」が載りました。バッハから始まって各大作曲家のスタイルでの書き下ろしギター曲が毎月変わって行くのです。あれも「実施」しただけだったのかも知れませんが,素晴らしい教材だったと思います。弾きこなすまでには至りませんでしたが,少なくとも曲の雰囲気は学んだ記憶があります。あの作品はどうなったのか,あのバックナンバーが欲しいなと思うこの頃です。

練習曲の場合は,表題は普通は無いですから,曲想を感じ取る練習でもあるのでしょう。ですから特に練習曲を音を聞き込んでから臨むのは,少なくとも読譜や曲想をつかむ練習にはならないと思います。近現代曲だと,技術的に難しいこともある上,予想外の転調などでフェイントが掛かります。フェイントという現象自体,演奏に予測を伴っているからに他なりません。余りにも変な音のつながりの場合は,よほど先読みしないと追っつかないですが,そもそも予測パターンにはまらないわけですから,先読み量自体が増やせません。結果,経験者でも初心者のような状態になってしまいます。

技術的音楽的難易度はどれだけ先読み量を確保できるかと言い換えることが出来るかもしれません。
ゆっくりで音の少ない曲は易しいとすれば,先読み量が十分確保できるからでしょう。支出(弾く音)以上に如何に収入(先読み量)を増やすかが,ポイントです。ゆっくりな曲は支出自体が少ないので,先読み量が確保できるはずです。余りにも混みいった和音だと間に合わないかもしれませんが,よく出来たもので,速い曲は音自体は少なく,和音の複雑な曲はゆっくりなことが多いと思います。

ただ,和音に関して言えば模様読みは必須でしょう。コードフォームで押さえるようなもので,和音を漢字の様にカタマリで読めれば(見れれば)スムーズだと思います。ひらがなの多い文章が極めて読みにくいのと同じようなものです。和音のバリエーションは漢字よりもずっと少ないはずです。

演奏は全て初見奏・視奏・暗譜奏の3つに分けられるでしょう。
後に行くにつれ,楽譜から離れ,より楽器の技術面に関わって来ます。初見奏の場合ですと,楽譜の先読みが重要ですが,暗譜奏になれば演奏で動かす手の位置の先読みが重要になるでしょう。

ですから何もEHSは,初見奏や視奏の場合にのみ必要なわけではなく,暗譜奏で演奏の確実性を上げる段階においても,先読み対象は替わるものの重要なことと思われます。

ギターでミスる,音が出損なうのは多くの場合左手の押弦が不確実な状態で右手を弾いてしまうからで,わずかに右手が先に弾いてしまうこともあるようです。このことは,今秋「ギターの弾き方」で書いて来たことですので繰り返しは避けますが,ミスる箇所は,ありていに言ってしまえば,準備動作が不十分ということになるでしょう。もう少し絞って言えば,最小先読み量を最大にする必要があるのでしょう。余裕の無いところの余裕をどう確保するかです。余裕のあるところをさらに余裕持たせてもあまり意味はありません。演奏のどのステージにおいても,ミニマムEHSを如何に確保するかがポイントかもしれません。難しい箇所ほど十分な準備動作が出来るよう対策しておく必要があるでしょう。
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