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祝・はやぶさ帰還 [科学と技術一般]

もう3日前の事になるが,これは純粋に人類の進歩に寄与する,画期的業績だと思う。
一部の動画サイトなどでは大変盛り上がっているようだが,新聞テレビの従来メディアの方では落ち着いた報道ぶりだ。これだけのニュース,こともなげにあっさり報道している。何と日本は超先進国!と思ったら,サッカーの初戦突破(これはこれでヨイが)とか,お相撲さんが野球賭博をやっていた件など,それ以上に報道されているようだ。

いずれにせよ,小惑星イトカワに着陸して帰還したはやぶさの成功は,梅雨空を吹き飛ばす,久々の素晴らしいニュースだった。JAXAのホームページに,航行の記録が逐次公開されていた。その業績からして,日本人がノーベル賞をとったというよりもずっと大きなニュースではないか。チームワーク,人と技術の勝利だからだ。もちろんサッカーとは比べるべき次元ではない。苦難の成功物語は,これからも色々語りつがれるだろう(ことを期待する)。

このニュース,あながち当ブログと無関係ではない。小惑星にその名がついた日本のロケット開発の父・故糸川英夫氏は,演奏やバレエなど趣味は多彩だったようだが,ヴァイオリンの楽器音響にも並々ならぬ意欲を示し,楽器イトガワ号を完成させた。その件は,昨年の記事で少しふれた。小惑星と,自作ヴァイオリンにその名を残すというのも氏らしいロマンチックなものだ。戦闘機・隼の設計でも知られ,今回のミッションとも並々ならぬ関係があることがわかる。

成功のキーの一つは,超低燃費のイオンエンジンだった。不活性ガスをイオン化し電界で加速した後中性化して後方に噴出して推進力にする。燃やすわけでない(使うXeガスはもともと燃えない)ので,酸素も酸化剤もいらない。電気自動車ではないが,これも電気推進だ。燃焼型のロケットエンジンと違い,イオンを高速に加速できるためきわめて効率が良い。予定外の長期運用で故障はしたが,プログラミングで補修してぎりぎりの推力を得たとのことだ。この辺のいきさつはJAXAの過去の記事にある。イオンエンジンは,微弱な推力だが超低燃費なので深宇宙航行(なんともロマンな言葉)にぴったり。機器の小型軽量化も限られた予算内での成功のカギとなっているようだ。いわば省エネ技術と小型軽量化。日本の得意な技術を使って,一点突破ながら宇宙開発の大先輩アメリカの先を行ったのだ。小さなカプセルのみの帰還とは言え,人類初の快挙である。もし,カプセルの中に小惑星イトカワの砂粒がわずかにでも入っていれば,これはもう夢物語である。

60年代の米ソは冷戦下で宇宙開発戦争に明け暮れ,国家の威信をかけて張り合っていた。アポロ計画は総額で当時の日本の国家予算ほどを費やした。はやぶさプロジェクトではその0.何%使ったのだろうか?星の砂より,今日の飯。では余りにも情けない。人はパンのみに生くるに非ず。逆境にめげず,偉業を達成したJAXAほか受注の民間各企業の科学者・技術者の方々の努力に深く敬意を表したい。

やや古い資料だがH16年の科学技術白書によれば,日本は科学技術立国のはずなのに,なぜか大人の科学リテラシーが先進国中下位だ。理科離れといわれるが,大人社会からそれが始まっているのだ。さらに,H17年の同書によれば,興味関心は年々低下しており,特に若年層にそれが顕著だという。原因は色々あろう。複合要因があり一筋縄では行かないはずだが,様々な責任を科学者側に求めるのは間違いだろう。これは科学者を甘やかすのではなくて,本来の仕事をさせるということだ。

図らずも,今回のはやぶさの今回の予想以上?の成功は,色々な事を教えてくれる。
技術面では,はやぶさまでの通信は片道20分もかかる。だから,いちいち指示を出していたのでは絶対にうまく行かない。いわば自律的に判断させる事も成功のキーだったようだ。いわば自律ロボットだ。それから,システム各所にかなり冗長性を持たせていたため,危機に際しプログラム変更で乗り切れたのだろう。そもそもそれを熟知した企業のエンジニアの存在が大きい。このような生々しい成功ドラマが科学技術の政策面でも生かされることを望みたいものだ。

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yablinsky

理系の人間は
1、給料が低い。(文系ほど出世しないから。商社、銀行は給与がいい)
2、大学を卒業するのがたいへん。(大学生が遊んでいるイメージは文系)
3、もてない。わけのわからない話をするから。

日本は理系に行く方が、おかしいのではという社会です。

by yablinsky (2010-06-16 21:53) 

Enrique

yablinskyさん,nice&コメントありがとうございます。
いろいろ原因があるわけですが,ご指摘のものは大きいでしょうね。
国際比較で,日本で高収入を得ている理系職種は医師とパイロット(これも最近怪しい)くらいらしいですね。歯科医ももう儲からない職種のようですし。理系は3K(この言葉も死語)なのですね。
おおもとは,官吏の技官よりも文官を上にしたところから,来ているらしいです。文理と言いますが,理文とは言いませんし,文武両道なんていいますが,文理両道もしくは理武両道なんて言いません。文が学問を代表してるのでしょう。
正しい科学知識が無いものだから,似非科学やスピリチュアルが流行ったり,わけ分らない人がものづくりだITだとか言い出すのも困りものです。理系の後退の直接的悪影響も出ていますし,論理でなく空気という,いわばものの考え方の後退という間接的な影響も出ています。
人のふんどしで相撲をとる人ばかり増えても困るのですがねー。
by Enrique (2010-06-16 23:19) 

nyankome

大学の学部数を考えると、圧倒的に文系の方が多いです。
学問分野も文系の方が幅広いので仕方のないところでしょうか。
それと昨今、理系大学を卒業しても仕事が無く、仕方なく大学院に進学するものの、大学でも職を見付けるのが難しいと聞きます。
理系受難の時代ですね。
私は理系と言っても数学なので、更に就職先は限られます(ました)。(^_^;)
今のままでは技術立国日本の将来は暗いと言わざるを得ませんね。
by nyankome (2010-06-17 23:12) 

Enrique

nyankomeさん,nice&コメントありがとうございます。
国立大学の授業料を50倍にし,大学院重点化で一部の大学では学部定員よりも大学院定員を増やし,大学設置審大綱化で子供が減るのにどんどん新設大学・学部数を増やした。真に国の将来をにらんだ施策とは言えないですね。博士の多くが職にありつけない現状です。経済バブルなら崩壊とともにいつか収まりますが(それさえ後遺症に苦しんでいるわけですが)。国際比較でまだ博士の数が足りないといっている人がいますが,日本では修士で十分(のほうがバランスがとれている)という考え方が根強く,そもそもDr.誰それという言い方をしませんので,小学校の校長先生もDrであるアメリカとは比較できないのですね。アメリカでは修士はぱっとしないので,Drとらないと社会が認めないのですね。日本ではDrとると社会から相手にされなくなる。大学が国家を作ったところの制度を,国が大学を作っているところがまねても,ダメなのです。修正させたいですね。
by Enrique (2010-06-18 06:56) 

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