フーガ形式(2) [音楽理論]
ここから,石桁真礼生「楽式論」より,この形式について概観することにする。
フーガ形式は,ソナタ形式と共に複雑巧緻な基礎形式である。しかしこれは,楽式的な配列による形式ではなく,対位法的技巧によるものであり,対位法学習の最終目標である。また,その技法的基礎はカノンであるので,まずこれについて見ておく。
・カノンについて
輪唱。先に出る旋律を後に出る旋律が模倣しながら進む複旋律の楽曲の総称である。音楽形式としては,1部・2部・3部の何形式でもよい。楽式とは何の関係もない。カノンの種類は,大略以下の6種類。1.並行カノン,2.反行カノン,3.拡大カノン,4.縮小カノン,5.逆行カノン,6.逆比例のカノン。このうち,1.並行,2.反行の2種が最も多い。
1.並行カノン
追行声部が並進行で先行声部を模倣するもので,譜例164のようなもの。この場合オクターブで追行するので,8度の並行カノンと呼ばれるべきもの。
譜例165は5度の並行カノン。
2.反行カノン
反進行するもの。譜例166はヘ音を支点に鏡映の対称形態をとっている。この,支点となる音をその調の第3音にとるのが,調性を確保する上で最も良好であり,3度の反行カノンが多く使われる。
3.拡大カノン
模倣する音符の長さ(歴時)を2倍,4倍などに拡大したもの。譜例168は8度の平行カノンだが,低音部は2倍に拡大されている。ほかにも度数の違いや反進行との組み合わせにより,多くのカノンの可能性がある。
4.縮小カノン
上とは逆に,音符の歴時を縮小したもの。譜例169は3度の反行縮小カノンである。
5.逆行カノン
譜例170バッハの「音楽のささげもの」のカノンはこの種類。後退カノンとも言われ,追行声部が先行声部を後退(時間反転)したものであるのでこの名称がある。
6.逆比例のカノン
拡大と縮小を混合して組み合わせたもの。ある一定の比率で先行旋律と追行旋律との音価の長短を逆にしたもの。
このほかに,謎のカノンというものがあるが,省略。カノンに関しては以上。ただし,カノンの作法は対位法の技法によって習得しなければならない。
補足:ちなみに,有名な「パッヘルベルのカノン」は,模倣旋律の音高も形も同じなので,1度(ユニゾン)の3声部による並行カノンと言うことができる。謎のカノンは,特定の様式を指すものではなく一種の記譜法である。(つづく)
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