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ブラームス編曲シャコンヌ [日常]

12/4のNHK教育「芸術劇場」に,右手が不自由になり,35年ほどの闘病を経て近年両手演奏に復帰したアメリカの巨匠的ピアニスト,レオン・フライシャーが登場した。「羊は安らかに草を食み」からスタート。これは聴衆をバッハの世界にひき入れるためだという。シャコンヌは,「旅立つ最愛の兄に思いを寄せる奇想曲 BWV992」,「半音階的幻想曲とフーガ BWV903」と続いたバッハ・プログラムの末尾を飾るもの。長年弾いてきたのだろう。この編曲は,やはり右手をいためたクララ・シューマンのためにブラームスが編曲したものだとのこと。編曲といっても,音を1オクターブ下げただけで,何も手を加えていないとのこと。シャコンヌは超有名曲なので,色んな楽器への編曲があり,セゴビアがこの編曲演奏で脚光を浴びたのも有名な話である。ピアノではブゾーニ編曲が有名で,イエペスのシャコンヌが独特なのは,バイオリン原曲からでなく,このブゾーニ編曲をベースにしているからだ。音の追加が多く,いわゆるピアニスティックに変貌しているが,ブラームス編曲は音が少ない。ペダルも余り使わず(見えないので多分)に左手一本だが,これが実に豊かである。

左手だけで良く弾くものだと思う。冒頭の和音をアルペジオ風に弾く。モダン・バイオリンの奏法を模倣かなとも思ったが,そうと言うよりも,同時に弾いたのでは間が持たないし,片手では同時に弾けないところが多いからだろう。これを両手で弾いたのでは,余裕が有りすぎてつまらないから,音を足したくなる。ギターでも,バイオリンやチェロの無伴奏をやる場合,対旋律を入れることが多い。しかし,バッハの無伴奏はやはり楽器の制約された中での小宇宙というべきものだろう。盆栽などにも通じる美だと思う。単なる省略ではない,その楽器の中での適切なおさまりがあるのだ。むしろ,音の伸びるバイオリンでは,同時に弾く方が良い(と思う)。以前書いたバッハ・ボウによるこの曲の演奏が好きだが,モダン・バイオリンでは楽器の制約でアルペジオ風にしか弾けない。音の伸びないギターやピアノではなおさらアルペジオ風が正解だろう。

脳卒中でやはり右手不自由になられた館野泉さんの演奏もまた感動的である。演奏内容は音の多さではないことがわかる。音が多いとごまかしがきくのである。これはギターにも共通する。ギターは多声楽器であるが,鍵盤楽器ほどには自在に多声を操れない。少ない音で美しさを出す。だからこそ一音一音を大事にしないといけない。プログラムはバッハの他にシューベルト/ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調D.960だった。81歳。枯れたというよりも,静かな中にも透徹した強さを持つ演奏と思う。通して譜面を置いた演奏。さすがに後半は集中力が持たなかったのか少しミスはあったが,きっちり弾ききった。高齢,長年の闘病の後リヴァイヴァル,来日して聴衆の前でフルプログラムを演奏するだけでも驚異的である。
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てですこ

私も視ました。左手のシャコンヌを聞いて、私もむしょうに弾きたくなり、セゴビアの楽譜から音を少し省略して弾いてみましたが、やはりバッハはいいですね。たぶん聴くに耐えない演奏ですが。
by てですこ (2009-12-06 09:54) 

Enrique

コメントありがとうございます。てですこさんも視られ,弾いて見られたとのこと。
私もピアノでちょっとまねをしてみましたが,左手だけではセゴビア版でもかなり音が多く弾けないですね。やはりバイオリンの譜面そのものが良いようです。バッハはずっと好きですが,若いころは正直シャコンヌの良さが分からず,軽い舞曲の方が好きでしたが,だんだん良さが分ってきました。
by Enrique (2009-12-06 14:38) 

ぎんぢ

芸術劇場の放送で初めてフライシャーの演奏に触れました。
また、左手のためのシャコンヌを聞くのも初めてでした。
ギターともヴァイオリンとも違う響き、勝手にイメージしていたピアノ版の響きとも違うストイックで美しいシャコンヌでした。

正月の間、家にある無伴奏ヴァイオリン・パルティータのCDを全部聴きなおしました。フライシャーのCDも買って聴きましたが、それよりも芸術劇場での演奏が、静かな躍動感があり気に入っています。
by ぎんぢ (2010-01-11 09:34) 

Enrique

ぎんじさん,コメントありがとうございます。私も彼の演奏を聴くのはこれが始めてでした。これに触発され,フライシャーの続報(12/27-12/29)や元旦などの記事になりました。もしまだでしたら,こちらもご覧いただけると光栄です。無伴奏はバッハの世界が凝縮されたくめども尽きぬ泉のようです。
by Enrique (2010-01-11 10:48) 

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