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音の遠達性について(つづき) [楽器音響]

遠達性について,怪しげな理論を展開したが,では実際どのような楽器がそれが優れているかを考えてみる。

表面板は厚くて堅いほうが,遠達性は良いように思われる。これは以前紹介したベラスケスの考え方(マヌエル・ベラスケス(7))でもあった。反面,揺れの絶対量は小さくなる。揺れの絶対量をかせごうとするのがスペイン製の楽器で,表面板を薄くする。しかしブレースはそれなりに設けなければならない。剛くて軽くを両立させたのがラティスブレースやダブルトップなわけだ。

さて,この遠達性,英語では"Projection"だ。意味は,投射,投影であり,日本語の「遠くまで届く」という語と意味的には同じになるのだろうが,このProjection一言で,下手な理論を越える力を持っている。それだけ聞けば「遠達性」には,なにか得体の知れない理由で遠くまで届くという雰囲気があるが,"Projection"には楽器が聞き手に直接音を投げかけるという単純さがある。音が曲がらずまっすぐ聴衆に届けばよいのである。トルナボスの効果はスピーカ・ボックスのダクトと同じく,表面板裏から出た音の位相調整(空気のロードを増やし空洞の共振周波数を下げる効果がメイン)なので,うまくいけば前回の図1の状態実現に寄与し,遠達性が高まるかもしれない。以前ボール紙で試した時,感覚的には遠くで鳴っているような気がした。しかし近接録音ではそれほどはっきりした差は認められなかった。

サイド・バックの役割は音量に関してはっきりしないにしても,少なくとも音質には関連しているはずだ。完全に太鼓の胴の様にすれば,表面板の振動効率は高まるだろう。オーストラリア製のギターに多い,彫り込みによる堅いサイド・バックである。頑丈なフレームで作るピアノと同じ考え方だ。サイド・バックを樹脂で作ったオベーションやDrカーシャ設計のシュナイダーギターなどもそうなのだろう。一方多くの楽器でバックからも結構音は出ているのも事実である。ギターはピアノやチェンバロに比べ振動板の面積がかなり小さいので,バックも多少しなって,振動面積を稼いだ方が得のような気もする。実際バイオリンやチェロは裏板もかなり鳴っているようである(魂柱で表裏をつなぐなどの構造上の違いもある)。しかしギターの場合は,かなりの面積を演奏者が抱え込んでその振動を必ずしも生かせないと言うことも言える。最もセンシティブに見える表面板の厚さ一つ取っても,厚めのもの,薄めのものが共存する。サイド・バックの堅さ問題にも,こちらを立てればあちらが立たぬというトレードオフの関係があるのだろう。設計思想の問題である。

ケネス・ヒル製作の楽器だったか,サイドにホールがついたギターもある。これの意味は全く知らないが,ひょっとしたら,遠達性を高めると,近くではあまり鳴らないように感じるので,演奏者が聞くそば鳴り性?を確保する為だろうか。そうだとすれば,いわばアコースティック・モニターである。

以上,独断に基づく全く想像上の議論をした。

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