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音の遠達性について [楽器音響]

客席からはステージのギターは点音源とみなせるから,音の強さ(音圧)は距離の2乗に反比例して減少する。構造が殆ど同一のギターと言う楽器が,製作家の違いによって,音の届き方に明確な差があると言うのは信じられない,そんなことがありえるのかというのが正直なところだった。

ネットで検索してみると,遠達性について書かれたページも少し存在し,楽器による違い等あるらしいが,説明自体は雰囲気的なものである。ギター以外でも管楽器や人の声でも遠くに届く音とそうでないものが存在するらしい。点音源で音の強さ(音圧)は距離の2乗に反比例というのもあまりにも単純化した考え方のようだ。しかし,遠達性の度合いは演奏家や製作家の感覚のみである。単純に楽器の近くの音圧と,離れた点での音圧を比較測定すれば分かるはずだが,あまり普遍性が無いためか,定量的に調べたという研究例をあまり知らない。単純に比較測定すると言っても,場所の問題は大きい。反射により,特定の場所で音がフォーカスしたり弱まったりするすることも考えられるので,ホールで測定してもあまり意味が無い。野外でやっても,地面の反射がある。無響室内で測定しないといけない。そう巨大な無響室は聞いたことがないが,通常のサイズの無響室内でも,距離による音圧の違いを調べても十分面白いデータになりそうだ。

しかし,現状,実験データがない状態で何か言おうとすれば,理屈(というか空想)で攻めるしかない。

まず単純に考えて,理想的な平面振動板から全く音の広がりが無いとすると,距離により音の拡散による音圧の低下は無い。実際,現在平面スピーカと言うものが開発されていて,音が遠くまで届くようだ。しかし,音の広がりが全く無くても,楽器から出た音は,空気での減衰を受けながら進む。仮に空気による音の減衰が距離に比例するとすれば,音圧は距離に反比例するはずである。まずこの効果は基礎にありそうだ。

次に音の広がりである。冒頭述べたように点音源というのを単極子と考えれば,これの作るフィールドは距離の2乗に反比例する。しかしこのような単純化では楽器の差が出ないはずだった。ヒントは,トップ(表面板)の振動モードにある。トップが1次モードで平面的に振動していれば,平面波となりそうだが,まあこれは無理で,トップの大きさよりも十分距離が離れ,音が立体的に広がっていけば,ほぼ二乗に反比例の形になるだろう。図1に示すように,表面板が一様にゆれて出る音と,反対の位相である表面板裏側の音がボディの中でうまく位相がずれてサウンドホールから出る音と位相が合えば,遠くまで通る音となるだろう。しかし,これが特定の音の高さで実現したとしても,音高が異なれば,この条件はすぐにずれそうだ。また,最悪の場合,図2に示すようにサウンドホールからの音と表面板の表の振動をやり取りしてしまい,手元では鳴っても,遠くまで届かないことになる。
音の放射_ページ_1.png音の放射_ページ_2.png

さらに遠達性のなさの候補となるのはトップの二次モード以降のうねった振動である。これをスピーカ屋さんは分割振動と言うようだ。これは,いわば双極子(図3)や四重極子(図4)を構成する。これらは極同士近辺では大きなフィールドを作るが,例えば双極子(図3)だと,離れるとその強度は距離の3乗に反比例して減少する。いわば手元でばかり鳴る,「そば鳴り」である。
音の放射_ページ_3.png音の放射_ページ_4.png
この,2乗と3乗の差は距離が離れると大きい。もちろん基礎的な距離による減衰の効果を共通に含んだ上での差ということになる。具体的に言えば,遠達性のある楽器と言うのはもちろん平面波に近いほどよいが,かりに点音源だとしても,出た音が楽器に戻らずに出て行くのだろう。逆に遠達性が無い楽器と言うのは,発した音が楽器近傍でショートカットしてしまうということで説明できるのではなかろうか。

なお,ここでは音の位相関係をちょうど電荷のプラス・マイナスに例えているわけだが,それが固定している静場と違い,振動の位相関係は音の高さによって様ざまに違ってくるはずである。だからこれはごくごく単純化した議論であり「このようなこともあるのかな?」くらいの与太話である。

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