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ETV特集『ピアニストの贈り物~辻井伸行・コンクール20日間の記録~』 を見て [雑感]

最近あまりテレビを見ないが,日曜日の晩,妻につられて最後までこの番組を見た。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでの辻井さん優勝の件については,6月に本ブログでも少し触れたが,断片的ながら彼の演奏を少しまとめて,また他の参加者(上位入賞者)の演奏もそれなりに聴けた。

それにしても過酷なコンクールである。本選にはソナタ,室内楽,協奏曲2曲,最後は50分のリサイタルと4関門あり10曲以上をこなさないといけない。特に辻井さんには難物(と見られたの)が,室内楽や協奏曲の合わせものである。弦楽奏者やオケの指揮者が感じた問題は,弦楽やオケのほうにピアノを合わせなければならない場合だった。室内楽では,弦楽の方から入る場合,リーダーがチューニング音を出して合図しようと提案したが,無くてもいいですよとのこと。練習は,言葉の壁もあり,音出しが半分も出来なかったが,本番の方がうまく行った。

彼には,聴衆のざわめきや共演者の息音がみな聞こえるのだ。耳の感覚が奇跡的に優れている。彼は息を「聞いて」合わせているので,何の問題もないのだった。オケと同時に入る場合,指揮が見えないのは致命的と指揮者は思い,色々な方法を提案したが,辻井さんは英語が分からない。不自由なコミュニケーションで,伝わったのは辻井さんが「ブレスを聞いて」合わせているということ。指揮者がやってみて,ぴたりと合う。もう一度やってもぴたりと合うので,指揮者は自分の心配が杞憂であったことに気づいて,舌を巻いていた。視覚によるよりもはるかに容易なコミュニケーションがとれていたと。

もちろん20日間練習もしながらこなすわけだが,また暗譜能力がすごい。辻井さんの場合,楽譜の画像情報がないので,いわば耳コピである。曲目の中にはアメリカ人作曲家の現代曲までがある(現代曲を入れるのはコンクールの課題)。これは健常者の気鋭ピアニストであっても,大変なことだろう。それから,彼の演奏を見て感じるのは,手の動きに全くムダがないことである。他の参加者の弾き方は普通にそれなりにニュアンスを込めて演奏するが,それらがムダな動きに見えてくるから不思議だ。

それにしても,暗譜,ムダの無い技術と,超人的能力と言えるものだが,最終的には演奏は音そのものであること,それをコントロールする息だと再認識した次第である。息のない演奏は,聞いていてつらい。比べるべくもないが,自分のあがった演奏の録音を聞くと,息が絶え絶え,呼吸が浅くなって酸欠状態になっている。逆に言えば,演奏は息がしっかりしていれば大分良いのだろう。

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Poran

Enriqueさん、
私もこの番組を見ました。
コンクールであれだけの日数、あれだけの曲数、時間を演奏するのはセンスと演奏技術があるのは勿論ですが、体力、気力がないとできないことだと思いました。
また、オーケストラとのリハーサルの時に、楽章のスタートは「指揮者の息づかいを聞けば分かる」と辻井さんが答え、実際そうできたのは驚きでした。
なかなか良い番組、見ごたえのある番組でしたね。

by Poran (2009-11-24 13:13) 

Enrique

Poranさんコメント有難うございます。
私は最初の部分は風呂に入っていて見れませんでしたが,ラ・カンパネラのメロディにつられて上がって来て,妻と見ました。
「息を聞く」こと,音に集中すること,鍵盤に触れて確かめてから弾くこと,などが,辻井さんの無駄の無い動きになっているものと思いました。すごすぎますが,ギターにも参考になる点もあったと思います。
by Enrique (2009-11-24 20:10) 

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