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魔笛の主題による変奏曲(6) [曲目]

前回で曲に関する記事は終わった。参考のため,一応古い版などをネットを検索してみて驚いた。現在の版とかなり違うものが出版されていた。第1変奏とコーダを欠くものである。
Peters社は,19世紀からの大手出版社。楽譜を見ただけでは判断は出来ないが,技術的に難しいので,省いたように見える。序奏,テーマと来て,第3,第5,第2,第4変奏に4小節ほどの貧弱なコーダらしきものがついて,終わっている。

この版の存在に関し,「ソル」さんのブログ「紙魚のメニュー」7/26で触れられていた。同ブログによれば,この版はメイソニエ版と呼ばれ,ロンドン初版を出版したメイソニエが簡略化したとみなされてきたそうだ。ジムロックと上で挙げたペータースから出ているものがそうである。しかし,「ソル」さんは,こちらが原型だとの説である。そして,その前例が作品3と作品12との関係においてあると。長年ソルの研究をされている「ソル」さんの説には重みがある。「実はソルの魔笛には古い原型の版があった,それがメイソニエ版である」と。大変魅力的な説である。それに反論するのは単に定説にのることになってしまうが,今回楽譜を見て次のように感じた。

・作品3と作品12は確かに同じテーマを使った変奏曲であり,共通する変奏部分もあるが,一応別の作品と見られる。
・「魔笛」ロンドン初版からメイソニエ版を作ることはしろうとに容易に出来るが,作品12から作品3を再現することは出来ない。
・メイソニエ版では立派な序奏に対し,4つの変奏と貧弱なコーダではバランスが悪い。
・メイソニエ版にロンドン初版よりも弾きにくいパッセージは無い。弾きにくい第1変奏とコーダを意図的に省いたように見える。
・第4変奏の前半後半部分の締めくくりの分散和音は慣れないと弾きにくいものだが,平凡な分散和音で弾き易くなっている。
・作品12に使われている作品3との共通部分は,テーマ部分ほかの装飾符が取り去られているが,「魔笛」ロンドン初版をメイソニエ版より後とすると,逆に装飾符が追加されていることになる。
・古典的な変奏曲は,第1変奏はリズムを細かくするのが定番だが,メイソニエ版はいきなり自由な変奏(第3変奏)が来ていて,リズムを細かくしたものが無い。これは取り去ったと見るのが最も順当ではないだろうか?
・第1変奏を取り去ったと仮定すれば,いきなり,第1変奏として,短調の第2変奏が現れるのはおかしいから,第3変奏を持ってきた。コーダに直接つながる第5変奏もそのままだと尻切れになるから,前に持ってきた。最後になった第4変奏の後ろに申し訳け程度のコーダをくっつけた。この4小節のコーダはしろうとレベルのものにしか見えない。

以上が楽譜のみから見た私の感想(と推理)である。

しかし,以前記したように,人の耳は保守的に出来ているので,聞き(慣れ)親しんだものが原型だと錯覚してしまうところがある。感覚的理解は慎まなければならない。「ソル」さんの説を全面的に否定する明確な根拠はない。むしろ,「ソル」さん説を採れば,定説よりも作曲年代が古いことになり,この作品に関するロマンが広がるのである。(おわり)

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