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ホールの音響 [音楽理論]

シューボックス型と呼ばれる,3辺の長さが異なる直方体タイプの形状が最も良いと言われ,名ホールにはこのタイプが多い。

この形状だと,残響が長く美しく減衰するようである。一方の代表格であるワインヤード型は,しゃれた開放的雰囲気ではあるものの,音響面では劣るようだ。

ホールの音響は,作ってみないとわからない。といわれた時代が長かった。しかし,アナログ時代すでに,ホールの縮小モデルを作って音響特性を実測,スケーリングの手法で再現するといった研究がなされていた。モデルにはヘリウムなどの軽いガスを満たし,高い音を用い,テープで録って,ゆっくり再生するといった,現在から見れば涙ぐましい努力がなされたようである。しかし,アナログ技術で加工をするので音が悪く,微妙な違いまでは分からなかったようだ。

面白いのは,インパルス応答の測定である。「インパルス応答」とは,ホールを伝送系ととらえた場合の,もっとも基本的な反応であり,それと楽器音との「たたみこみ」が,実際にホールで演奏された時の響きになるということが基本原理である。だから,ホールのインパルス応答が分かれば,さまざまな楽器を実際に鳴らしてみなくても,各楽器の近接音とホールのインパルス応答とのたたみこみで再現することが出来るわけだ。現在では,このたたみこみ演算がコンピュータ上で容易にできるので,様ざまな状況を想定して音を再現できる。このインパルス応答というのは,最も基本的な音;インパルス音;をホールに与えて,その反応を測定することになる。

スイカの状態を割らずに調べるには叩いてみるのが最も簡単で効果的な方法である。面白いことに,最先端の分析装置などにも,この叩いた反応(インパルス応答)を調べると言う方法が,(そうとは言われないでも)使われている。叩くのが電子ビームだったり,反応が音でなくてX線だったりするわけだが。ギターでも力木の浮きなどを調べるのはコツコツ叩いてみるのが最も有用な方法である。ホールでも,ステージで手を叩いてみて,響きを確認するということが昔から行われてきた。原理的には同じことであるが,測定のためにはなるべく良質なインパルス音を発射することが必要である。かつては火薬などを使っていたらしいが,現在では高圧放電,文字通りインパルス放電を使う。

さらに,コンピュータ解析技術の進歩により,ホールのインパルス応答自体も測定しなくても,ある程度計算で求めることが出来て,予測的な設計も可能になっているようだ。しかしこれが出来るようになったのは比較的最近のことであり,かつて建てられたものの中には,どうも形や見た目を優先して,音響が二の次になったようにみえるホールもある。ステージで手を叩いてみると,鳴き竜のようなフラッターエコーがしたりする。見た目のしゃれた形は,音響面では難しいらしく,特に円形とかは最悪らしい。だから奇抜な形を使う場合は,よほど音響設計をしっかりしないといけない。ウィーン楽友協会大ホールなどは伝統的なシューボックス型なので,音響面では最も無難な形状である。さらに彫刻が刻まれた円柱が多く,そこに刻まれた女神様などが音を良くしているとか言われてきたそうである。その彫刻はさておき,密に林立した円柱は音響拡散板の役目を果たし,明らかに残響の消え方をコントロールしている。

クラシック用のホールに対して,PAを入れることが前提のポピュラー系のホールには残響はじゃまである。だから,「多目的ホール」というものはどちらの用途にも向かない,帯に短し襷に長しのものだ。ウィーンフィルなどの超一流オケは,上で挙げたホームのホールに合わせた音作り(楽器,奏法,低音高音のバランスやタイミングまでも異なるようだ)をしている。「多目的ホール」で公演される一流オケに大枚払うのは,いろんな意味で随分ともったいないということがわかる。
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