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理想の弦について(2) [楽器音響]

前回理想の弦について言及したが,要求される項目に相反するものがあった。従って,現実の弦はそれらの要求同士の妥協から実現するわけだ。より良い弦の描像がその中から出てくるだろうか?

弦.JPG前回述べたように,弦の太さは線密度で決まる。だから素材がスチールだと,高音弦は針のように細くなる。弾きやすさの観点から,細すぎては困る。バリオスはやむを得ず用い,超絶技巧でカバーしたのだろうが,特に高音弦は演奏困難だっただろう。セゴビアがナイロン弦の開発に寄与したのは,その音楽面はさておき,一つの大きな業績だろう。しかし,現在のものもこれで最高とも言えない細かな改善点はある。

以下,1弦から見て行こう。

1弦: 少しでも柔らかくしなやかにする努力は必要だが,これ以上細いと弾きにくいので,素材はナイロンでよいと思う。PVDF弦は細すぎてやや弾きにくいと思う。真円度,太さのムラなどが無いような改善も望みたい。

2弦: やはり,少しでも柔らかくしなやかにする努力は必要。より鋭い音を目指すなら,PVDF弦でもよいかなと思う。ただ1弦ナイロンで2弦がこれだと,硬さの差が出て弾きにくいかもしれない。プラスチックの巻線もあるが試したことは無い。

3弦: 最も音質的にも問題が多い。音が鈍く,場合によっては音程があわない。大きな理由は,太くて弦が曲がりにくいからである。とは言え,金属の巻き弦では細くなりすぎる。そこでPVDF素材の登場となる。また,アクイーラ弦のように,ナイロンで太さがあっても十分柔らかければかなり良い。それほど鈍くならない。均質につくれるかどうかの課題があろうが,弦のコアに鉛を仕込むなどの方法もあろう。低音弦のままの素材での巻弦だと細くなりすぎるので,巻弦素材にアルミなどの軽合金を使い,それでも重過ぎれば,やはり仏社の様にプラスチックの巻線も考えられる。

4弦: 通常は最も高音の巻き弦で,ナイロンの細い繊維を束ねたものに銅合金などが巻かれている。最近はめったに無いが,最も切れやすい弦であったと記憶する。張力が5,6弦と大差なければ当然繊維に発生する応力(単位面積当たりの力)は大きい。音質面,弦の理想の面では問題は無い。奏法上でも,3弦の開放やローポジションの音をあえて4弦で取ることはよくある。だから,逆に言えば,3弦の音が改善されれば,運指奏法上の影響もあるはず。切れやすいことと,やや細くて張力を感じる点に関しては,巻き線にプラスチックもしくはアルミなどの軽合金を使って若干太めにしてもらうと,3弦と4弦の音質差が緩和して良いかも。もちろん3弦の音質向上が条件である。

5弦: 4弦から6弦の巻き弦に関して共通だが,「かさかさ」,「ぎりぎり」した感じを受ける。ギター演奏特有の問題として,「キュッ,キュッ」という擦過音がある。「これがたまらん,やばい(すごく良いという意味)」という人以外はやはり,出ない弦が欲しい。脱力すれば出にくいが,全く出ないものではなく,低音側の指をわざと浮かすというのはムダな技術と思う。バイオリンの弦のように,「ぬめっ」と「しっとり」した感じだとこの音は出ない。ひょっとしたら,音が鈍くなるのかもしれないが,このような弦が出現しないかなと思う。もちろん,現在でもポリッシュ弦を使えば,この音は出にくいわけだが,ポリッシュ弦の寿命は「あっと言う間」。確か価格が通常の弦の2・3倍して,寿命が数十分の1。価格もさることながら,プロではステージでの演奏中にへたってくるのではないか?とっかえひっかえのレコーディング用にしか使えないだろう。

6弦: 5弦と共通するが,より「がりがり」している。また太くて鈍い。金もしくはプラチナで弦巻きすれば細くできるが,貴族の楽器になってしまう。手元のオーガスチン青の6弦の重さが6.15gだから,重さが全部巻き弦と仮定して,素材代だけで約2万円にもなる!当然使い捨ては出来ないのでリサイクルしつつ,黄金の低音を手に入れるか?!まあ,これは無理だろう。ならば,芯線の繊維の素材の密度を上げるか,本物のカーボン繊維(現在カーボン弦として市販されているものは,通称フロロカーボン,正式名称ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製のモノフィラメントであるということは指摘済み)やケブラーなど超丈夫な繊維を使って繊維量を減らして,などと考える。巻き線をやや太くしつつ,外周を若干細くできるかであるが,効果は少なそうで計算するのも面倒になってきた。

擦過音対策として,ポリッシュ弦の使用に触れたが,その寿命の短さには閉口する。「寿命の長いポリッシュ弦」というのも重要な開発課題だ。そもそも,弦の寿命の理由はきちんと解明されているのだろうか?


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