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理想の弦について(1) [楽器音響]

「カーボン弦の正体など」でカーボン弦という呼称のおかしさなど,現状の弦に対する批判めいた記事を書いた。有機化学をかじった人(私はかじりもしていないのだが)ならすぐ分かることなのだが,再度確認しておけば,カーボン弦の正体は,その素材PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の通称「フロロカーボン」を更に略して,「カーボン」弦としたものである。まあニトログリセリンを略してグリセリンとしたら危険極まりないだろうが,素材の世界には非論理的なネーミングも多い。この例の場合も,一商標,愛称としておけば実害は少ないだろうから,あまり目くじらを立てるつもりは無いが,変だという指摘である。そのネーミングで出している独メーカーは時々使うし,弦素材そのものとしても優れたものの一つだと思う。仏社のものは独自のネーミングでセンスが光る。これは以前,国産楽器に愛用していた。前置きが長くなったが,理想の弦とはどんなものだろうか?何でもそうだが,要求される項目が多岐にわたると,相反するものも出て来て,いちがいには言えなくなるので,各項目に分ける。

1.音響面での理想: 1-1 完全にしなやかなこと (1-2 弾性率が高く,減衰が少ないこと。これ自体1-1と相反)

2.弾きやすさ: 2-1 適度な太さを持つこと (これも場合により1-1と相反)

3.使用面: 3-1 伸びが適度に落ち着くこと 3-2 温度による安定性 3-3 耐久性があること

などだろうか。現実には,以上のことを踏まえたうえで,実際の素材にあたることになる。弦の議論をする際おさえなければならない基本は,まず弦の音程が,弦の長さに反比例,張力の平方根に比例,線密度の平方根に反比例,の基本解で表されることである。色々な要因で少しずつずれてくるが,まずこれが大原則である。(以下に弦の基本解を示すが,以上述べた内容。)

基本式.gif

 

 

ここで,νは音程(振動数),Lは弦長,Tは張力,σは線密度(単位長さあたりの質量),nn=1を基本波とするハーモニクスの次数である。弦の長さは楽器の大きさで,張力は弾きやすさで制限されるので,選べるのは,線密度のみとなる。線密度は単位長あたりの質量なので,素材の密度と太さで決まり,低音弦のように金属巻き線を付加するなどで質量を増しても良い。モノフィラメントで素材がナイロンなどと決まれば,張力を左右するのは太さのみである。基本解では,線密度のみで実際の太さのファクターが入らないわけだが,ここで,以前「弦の振動姿態(弦の中央付近を弾く)」などで取り上げた,弦の変形解析で見たように,弦の初期変形に含まれる周波数成分が出る音を左右するわけである。原理的に太くて硬い弦は,初期変形がにぶくなるので,爪で弾いても,指頭弾弦と同じような音になる。弦の音高と線密度であるので,PVDFの様に多少硬くても密度が高いので,細くできるので,良い素材だ。モノフィラメントの高音弦を想定してきたが,今後巻き弦である低音弦についても考察して見る。


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