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理想の弦について(3) [楽器音響]

このシリーズ最後に,弦の寿命に触れてみたいと思う。そもそも,弦の寿命とは何か?高音弦(モノフィラメント)に関しては,「音につやがなくなってきたとき」などといわれるが,低音弦に比べてかなり分かりにくいと思う。低音弦をかえた時,ついでに交換と言うことが多いのではないだろうか?「伸びきったら寿命」とも聞くが,高音弦が激しく伸び続けている状態では怖くて弾けない。ピッチの安定性はよくなっていると思う。特にPVDF弦は落ち着きが早い。ナイロンでも昔より伸びの落ち着きが早い気がするのは私だけだろうか?ステージなどでライトを浴びると,弦のピッチが下がるので,常に上げ続けるという認識だったが,再開後は,逆に温度があがるとピッチが上がるので,下げなければいけない。若いころはしょっちゅう弦を張り替えていたせいかもしれないが...ついでに言えば,低音弦は,ちょっと気がつくと,めっきがはげて銅色,ひどいときは緑青がふいたりしていたものだが,今は全く起こらない。低音の巻弦が飛躍的に改善されたという話も聞かないので,どうもこれは本人の新陳代謝のバロメータのようだ。

話がそれたが,低音弦(巻弦)の寿命に関しては,音がぼけてきたときで,これは分かりやすいが,あまり頻繁に交換するのもいやだ。まず面倒だし,それに新品低音弦は「さらさら」「かりかり」「こりこり」「シュッ,シュッ」「キュッ,キュッ」して(なかなかこのテクスチャを表現するのは難しいが),くだんの擦過音が盛大に発生すること,それとコスト面もある。安く耐久性のある弦を製造してくれるメーカーさんには申し訳ないが,一旦落ち着いて調子の出ている弦はさらに持たせようと頑張る。これにより弦の寿命が伸びるので,色々な銘柄を試す楽しみは減ってしまった。

再び,話がそれた。 低音弦(巻弦)の寿命の原因の定説を私は知らないので,私なりの解釈を述べる。巻線の隙間によごれがたまり,それにより弦の折れ曲がりに関する減衰が増え,特に弦の折れ曲がりの激しいハーモニクスが出にくくなるのが一因では無いかと思う。だから,巻線の隙間のよごれを固く絞った雑巾などで強く拭いて除去すれば,ある程度改善する。アンモニア液に15分ほどつける,という方法も見たことがある。実際に試してはいないが,隙間に入った汚れも落とせる。その意味で洗濯もよいかもしれない。ただし,よごれだけでなく,比較的柔らかい銅合金なので,こすれなどによる非可逆的な変化も考えられる。これはトライボロジカル(摩擦磨耗を扱う総合技術的)な話なので,そう間単には解決しそうに無い。また,弦交換で気がつくことだが,新しい弦はごわごわしているが,使い切った弦はへなへなしている。芯線の繊維が延びきり,巻線間に隙間があいて線密度が下がり,テンションを下げることも原因の一つだろう。

擦過音と寿命も関係があるのかもしれない。いわば巻き線の線間が擦過音を出すような状態であれば,弦の新しい状態であり,ぬめっとしていると弦がくたびれている,このあたりは全くの想像であるが,擦過音低減と寿命の両立は難しいかもしれない。ポリッシュ弦はいわば,手間をかけて寿命寸前のものを作り出している,といったらおこられそうだ。

低音の巻線弦は,曲がりのしなやかさを確保しつつ弦の線密度を上げる,画期的な発明だった。 その役割は質量付加が大きいわけだが,その役割は単なる重石ではなく,音色にも寄与している。クラシック弦ではないが,アコギの弦でホスファー弦と言うものがあり,コードストロークなどをするとシャリシャリ感があり人気が高い。この辺にも巻き弦の寿命に関するヒントが隠されているような気がする。

アコギ弦.jpg




ブロンズ弦(左)とフォスファー弦(右)(いずれもアコギ専用の弦で,クラギに張ると楽器が壊れる)

「理想の弦」というより,現実の弦に対する不満と改善の可能性を述べた。弦に対する愛好者の立場からの意見を書いてみた。楽器もそうだが,弦もまだまだ改善の余地があるということを述べたかった。
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