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ハカランダと楽器の価値 [楽器音響]

先日上京の折寄った御茶ノ水の某店に,かつての某有名国産作家の古い楽器がおいてあった。楽器の状態はみすぼらしくなっているが,バックはみごとなハカランダ。価格が10数万だから,ハカランダの材料より安いではないか(たぶん)。表面板も指板もネックもマシンヘッドもついている!ハカランダ材の価値だけでも買い!だと思ってためし弾きしてみたが,むむむ。何とも,これは演歌にぴったりの楽器である。失礼ながら,クラシックにもスペインものにもあわない印象。思わず古賀メロディーを弾きかけて,度忘れしていることに気がついて,ごまかして止めた。

財産か?銘木的価値か?家にはベラスケス以外に61年のMasaru Kono(Kohnoと同一人物)のハカランダの楽器も所持しているので,購入は見合わせた。学生時代買った国産楽器はローズ。今自宅に4本だが,妻から売るなり捨てるなりしろと脅迫されているのに,ここで増やそうものなら,血の雨が降るか,フレンチの2段鍵盤チェンバロの購入を迫られるかのいずれかである。いずれの恐怖心にも耐えかねた。

現在ハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)は超高級材である。英称ジャカランダのマメ科の木(木材図鑑より)。家具などに大量に使われていた時期もあったそうだ。60年代以前は普通の材だったのだろう。私のMasaru Konoも柾目のハカランダだが,付いているマシンヘッドは低価なものであるところを見ても価値の変遷が分かる。私が国産手工を手にした70年代後半だと30万でハカランダ(20万は微妙)だった記憶がある。それ以下はインディアン・ローズウッド(パリサンダーとも言うが,単にローズウッドとも言う)の感覚だったと記憶する。

クモの巣状のハカランダ木目の美しい楽器。
Brazilian rosewood - spiderwebbing by RRRRRR.jpg
 Brazilian rosewood - spiderwebbing by RRRRRR with CC License Attribution

ハカランダ製の高級いす。作られた頃('58)は普通の家具材だったのだろう。
DSC06563a by SantaRosa OLD SKOOL.jpg
DSC06563a by SantaRosa OLD SKOOL with CC License Attribution

Masaru Konoのバック
KonoBrazililianRosewood.JPG

インディアン・ローズ製の国産楽器のバック
NodaIndianRosewood.JPG

Velazquezのバック
VelasquezBrazilianRosewood.JPG

悪いハカランダより良いインディアン・ローズと言われるが,これは当然と思われる。バイオリンは裏板からもかなり音が出ている様だが,ギターの場合やはり表面板と力木構造が決定的で,サイド・バックは支え。これをつきつめたのがスモールマンやマーティなどオーストラリア・ギター。薄い平板でなく,バイオリンやチェロのように彫りこんであり重い(アーチバック)。そこまで行かなくても,通常の楽器ではサイドとバックはトップの支えになりつつ控えめに音色にも寄与と言ったところだろう。

フレタやフレドリッシュなどのローズを多用した銘工もおり,密度がわずかに低い(0.87に対し0.84)他弾性率等も若干異なるが大差は無いと思われる。メープルでも銘器はあるが,密度はずっと低い(0.70)。それよりも,ギターの材はどの部分も鉈での割裂材が最高である。これは木材の繊維が通るので,薄くても丈夫でしなやかだからである。似た材質であれば,材質の差異よりも,割裂材か鋸製材かの方が決定的差異と思われる。半分ずつに割って薄板にしたかつての屋根葺き材や割って作った本当の割り箸,千年もつ奈良法隆寺のヒノキ材も割裂材。割裂材は当然柾目になる。鋸で製材した板目のハカランダより,割裂材のローズの方が当然良いと思う。

銘木的な木目が良いとするなら,それは見た目・雰囲気であろう。楽器と言う芸術の道具である以上,雰囲気的な要素も必要かもしれないが,むしろそのことがサイド・バックは材の違いが決定的であるほど重要でない証左であるかもしれない。 ところで,冒頭の楽器,おそらくハカランダの素材のほうが値段が高い。古家の付いた土地よりも更地の方が高いのと同じ理屈だろうか。
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