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ギターとピアノと利き腕と [雑感]

現在は知りませんが,かつては小中学校の教員採用試験にはバイエルの80番くらいが必須だったようです。武田鉄矢氏が,本物の教職をあきらめたのは,これが弾けなかったからというのが,その理由だったと確か昔ご本人の話がありました。むろん,作詞作曲ができて歌っていたわけで,ギターのコード奏法なら得意だったはずです。


恐らくその辺が「ギターよりもピアノは難しい(ギターはかんたん)」という偏見の発生原因なのでしょう。はっきり言って,ギターとピアノの易しい箇所と難しい箇所とは正反対と言っても良さそうです。ピアノで,バイエルの80番はおろか,バイエルの終了後となるブルグミュラーの25曲くらいが弾けても,そう簡単に歌の伴奏は出来ません。それはそれで別の訓練が必要です。

ギターでなら,簡単なコードを覚えて直ぐにやさしい歌の伴奏は可能です。しかし,ギターでピアノのバイエル並みの独奏曲を弾くには,ピアノ同様に基礎からの積み上げが必要ですし,伴奏パターンだって,単純な「ジャン・ジャン」ではなく,独奏並みのものにするにはそれなりの技術が必要です。


妻の父親は音楽ではない教職でしたが,若い頃バイエルの80番くらいを必死に練習したようで,いい年になっても思い出すのか,飲むと(つっかえながら)弾いていたそうです。習っていればもちろんの事,独学でも弾いたことがあれば何とかなりそうですが,未経験者にしてみれば,バイエルの80番といえども,ピアノを「両手で弾く」という事自体,異次元の体験だったのでしょう。基本的な楽譜の読み書きとか,リコーダーなどの単音楽器は義務教育レベルで十分でも,ピアノの両手弾きは学校では習いません。

小中学校の教員は,音楽専門ではなくてもピアノくらい少しは弾けないといけないという事だったのでしょう。しかしそのせいで,金八先生は本物の先生にはなれませんでした。伴奏ギターは出来ても,バイエル・レベルのピアノは無理だったのでした。


当方は,クラシックギターを独学で始めた頃,やはり全くの独学でピアノでブルグミュラー25の練習曲を少し弾いていました。むろん全くの独学ですから,その時点ではバイエルを終わらせたわけではありません(後にいちおう終わらせました)が,十代の頃でも80番程度なら弾けたと思います。家にピアノがあって兄弟が少し弾いたので,世間の人もちょっとくらいは弾けるものかと思っていましたが,全くそうではなかったのでした。

「ギターだって両手で弾くのに」と思うのですが,やはり伴奏ギターとは異なる様です。
その後気づいたのが,「世間一般の人は利き腕でない方の指があまり動かないらしい」という事でした。


それを確認したのが,かなりいい年になってから,電卓を使った事務作業をした時でした。
当方右利きですから,右手でペンを持ち,左手で電卓を叩きます。しかし,皆さん右手で電卓を叩いて,また右手でペンを持ち直して書いています。「あれー,忙しいな!でも左手遊んでる。」

パソコンを使っていても,キーボードを片手だけで打つ人もいました。すごく忙しいです。何故左手使わないんだろう?と思いました。

もう一つ気づいた事。ルアーフィッシングをやっていた頃,アブやガルシア製のスピニングリールは左手で巻くのに,なぜか日本製のは右手巻きでした。竿を右手で持つので,左手で巻けば自然だと思うのですが,右手巻きのリールだと,右手でキャスティング後,わざわざ竿を左手に持ち替えて右手で巻くのでした。当方は使いにくいので使いませんでしたが,電卓作業ではありませんが,そうする人が多かったのでしょう。


確かに,利き腕を酷使する使い方だと,ピアノは片手弾きならいざ知らず,両手弾きはキビシイだろうなと思いました。それでも,バイエルの様に左手が伴奏で右手がメロディと言った様に左右の役割分担が決まったような楽曲ならいざ知らず,初級曲であっても例えばバッハのインヴェンションの様に同じメロディが左右で追っかけっこする様な楽曲はかなり困難だろうなぁ,と随分後になってから思ったのでした。

Inventio4.png
バッハのインヴェンション第4番冒頭。左右でおなじメロディが2小節づつずれています。
当然,ギターでも伴奏ギターの様に左手はコードパターンを押さえて,右手はジャン・ジャンとやる奏法だと,左右の役割が決まっていますが,クラシックギターだと,単にスケールを弾くだけでも左右独立して動かさないといけませんし,奏法スラーの様に左手ではじいたり叩いたりして音を出すこともままあります。いわゆるハンマリングやプリングですが,伴奏のアクセントとして入れるわけではなく,滑らかなスケールに必要不可欠です。消音するにも,ビブラートを掛けるにも,左右の独立性は重要です。利き腕酷使の方は,特にその辺が難しいのだろうなと思います。
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REIKO

日常生活で「利き手でない方の手」をどの程度使っているかは、個人差がかなりありそうですね。
ほとんど使っていなかった人が、ある程度の年齢になってから楽器を始める場合、多くの楽器で「利き手でない方の手問題」が大きかろうことは容易に想像できます。

私は筆記用具やお箸は右なので、基本的に右利きなんだろうとは思いますが、なぜかバットやゴルフクラブは左打ち、瓶の蓋開けや卵の殻剥きも左です。
パソコンもタッチパッドが左手操作になってしまいました。
ただこれがピアノを弾く際、どの程度役立って?いるかは不明です。
by REIKO (2024-02-29 12:49) 

Enrique

REIKOさん,
利き腕とそうでない腕との落差fが大きい人とそうでない人がいる様ですね。日常生活では楽器を弾く様な手の動きはありえませんから,どんどん落差は大きくなりそうです。
当方も左手で作業するのは苦ではなく,むしろ利き腕の右手はツメがあるので,その保護の為にも荒い動作はすべて左手で行います。
by Enrique (2024-03-01 11:42) 

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