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ポンセのソナティナ〜その3〜 [曲目]

現在,ポンセの原典版「ソナティナ」に取り組んでいます。ゆっくりやっています。
かつてセゴビア版「南のソナチネ」として弾きましたが,現在原典版で取り組んでいます。

前回記事〜その2〜では,(簡潔な)ソナタ形式で出来ている第一楽章の主題提示部までを見ました。
今回は,つづく展開部への接続からです。

Schottの原典版(Ultext)譜面では,提示部はきっちり1ページ目に収まっています。従って,次の展開部は2ページ目からです。

展開部に入る前の提示部は,古典的形式に基づきリピートされますが,その際単純なリピートではなく,終了部の最後の小節が括弧1,括弧2と分けられています。しかしながら,その小節は全く同じ音符です。普通なら括弧で分ける必要はなく単純繰り返しでいいはずです。特に強弱などの指示はありませんが,1回目と2回目は明らかにニュアンスが異なるぞ,というポンセの指示だと思われます。

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譜例1. 提示部末尾の繰り返し部分。全く同じ音符ながら,括弧1,2とに書き分け。
ちなみに,ポンセの初期のソナタ作品,第1番「ソナタ・メヒカーナ」では,単純なリピートとなっています*。提示部のリピート後は,展開部へのつなぎのために音が少し変わることも多いものです。ソナタ作品第3番では,音が変わっていますので,括弧1・2と分けられるのは順当です。第4番「ソナタ・クラシカ」でもそうです。第5番「ソナタ・ロマンチック(ロマンチカ)」でも展開部のへ移行に合わせてバスに臨時記号が付きますので,やはり括弧1・2と分けられるのは妥当です。全く同じ音符内容を,この様に括弧1・2で書くのは,ポンセの現存**するソナタ/ソナチネ作品では唯一***ではないかと思われます。

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譜例2. ソナタ第一番第一楽章主題提示部集結部。単純な繰り返し。
ソナタ3.jpg
譜例3. ソナタ第三番第一楽章主題提示部集結部。音が変わっており,括弧1,2は妥当。
ソナタ4.jpg
譜例4. ソナタ第四番「ソナタ・クラシカ」第一楽章主題提示部集結部。括弧1,2でかなり異なる。
ソナタ5.jpg
譜例5. ソナタ第五番「ソナタ・ロマンチック」提示部集結部。括弧2はバスに#が付き,括弧1,2の書き分けは妥当。
譜面の改変はお手のもののセゴビアでも,ここは変えていません。
セゴビア版「南のソナチネ」と比較してみますと,ポンセのオリジナル冒頭は,ƒで始まりますが,セゴビア版では冒頭に強弱記号はありません。また,ポンセのオリジナル版では展開部冒頭には強弱記号はありませんが,セゴビア版ではここがƒになっています(譜例6)。

セゴビア版展開部.jpg
譜例6. セゴビア版展開部冒頭。
いずれにしても,曲の冒頭と展開部冒頭では「雰囲気を変わるぞ」という一つの表明でしょう。セゴビア版では,展開部の冒頭は強烈な印象でリズム音型も変えています。

原典版展開部.jpg
譜例7. 原典版展開部冒頭。
ポンセのオリジナルでは,この曲の第1主題の最初のモティーフである譜例8の1小節目のリズムから始まって,徐々に4小節目のリズムを取り混ぜながら盛り上げて行きます。セゴビア版ではいきなり譜例8の4小節目のリズムを使っているわけです。

リズム.jpg
譜例8. 第一主題のモチーフに使われるリズム(「ポンセのソナティナ〜その2〜」の譜例4再掲)。
125小節目からは,展開部もいよいよクライマックス。教科書通りのオルゲルクンプトです。ただし,主調Dに対する属音A音の低音連打と言うよりも,ペダル音を保ちながら和音を変えながら上り詰め,頂点からはヴィラ=ロボス的なギター独自の偶成和音を伴って半音階で降りてきます。ここのオルゲルクンプト(的部分)は,第一主題の中に現れる音型を使って自然に推移します。最後は増和音の機能を用いて再現部(第141小節〜)に突入します(つづく)。
原典オルゲルクンプト.jpg
譜例9. 展開部集結部の盛り上がり部(原典版)。

*Miguel AlcázarのObra Completa para guitarra de Manuel M. Ponce掲載による。
**ソナタ第二番は逸失。
***Miguel AlcázarのObra Completa para guitarra de Manuel M. Ponce, pp.93-94による。Ponce Guitar Works Urtext (Schott 2006)の採譜では「ソナティナ」と同様の書き方になっているので,もしこれが原譜どおりなら,「ソナティナ」は2例目という事になる。

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