SSブログ

「ご飯一合炊き」の安全性? [雑感]

Ujiki.oOさんからコメントで,「ご飯一合炊き」に関して,「プラスチックを加熱」というキーワードで危険性を指摘してもらいました。

EnriqueAutographSmall.png
「プラスチック」は合成樹脂系を総称した言葉で,様々な種類があります。

特定のプラスチックを軟らかくするために使われる可塑剤が水に溶出して体に入り,発がん性を示したり内分泌かく乱物質(環境ホルモン)になるのではないか?という懸念です。

結論から言えば,ご飯「一合炊き」の素材はポリプロピレン(PP)という種類のプラスチックであり,これには可塑剤は使われません。


次に,電子レンジの加熱原理ですが,プラスチックを直接加熱しているわけでないという事です。
水特有の分子構造が2.45GHz付近のマイクロ波に共振して発熱するわけですが,水の沸点で頭打ちされて,100℃までしかなりません。容器に直接何百℃もの温度が加わる他の加熱方法とは異なります。

ここで既に「ご飯一合炊き」の安全性を疑うのは,杞憂であることが分かります。


とは言え,念を入れて調べておくこともムダではありません。
可塑剤が使われるのは,塩化ビニル系のPVCやPVDCのようです。

食品に関する安全性とかを言う場合では,その量でしょう。普段我々が口にする食塩や砂糖なども大量に摂ると体に悪いのは承知の通りです。お茶やコーヒーにしてもあまり大量に摂ると良くないでしょう。

残留農薬や食品添加物など様々な化学物質が身の回りにある感覚ですが,添加物などの安全性に関しては,マウスなどに大量に投与して,例えば人間換算で100倍の量を摂っても大丈夫と言った様に安全性が調べられている様です。

何かが危ない。発がん性が疑われる。という事はよくあります。
普段食べている食品でも,肉などの焦げ,ワラビ。などは結構な発がん物質らしいですが,これは量の問題です。微量成分を気にしだしたら,何も食べられません。気にする人にしたら「少量でもそれなりに悪いのではないか?」という心配です。

危険性が全くゼロではないとしたら。少しでも疑われるものを大量に食さない事でしょう。
滑稽なのが,それの危険性を指摘するならば,それよりもはるかに危険があるのにそれは放っておいて,気になる方の危険性を指摘する事です。要は定量性が全くない事です。


物質ではないですが,「電磁波が危ない」という電磁波アレルギーの人が居ます。ある大学の物理学の修士課程を出ている人でも,そういう人がいました。電磁波のイロハを学ばなかったのでしょう。一見専門の人でもそう言う人がいますから,一般の方はムリもありません。医学の専門家が危ないと言っているから危ないのだろうとか。その医学の専門家も電磁波のイロハが分かっているとは思えません。

以前にも書きましたが,かつて勤めた組織の本部から,電力会社の送電線の危険性をチェックする様依頼されました(電力会社の言う事と身内だけでは信用できないという事で,他の大学の教員にも第三者としての意見を求める依頼が行きました)。電力会社では,当時数百万円する電磁界解析ソフトを使って地上の磁界を計算していました。当方は電磁気学のイロハのイである「アンペールの法則」と三相交流の基本から,Excelで計算しましたが,答えは3ケタくらいの精度で一致しました。むしろ当方の計算は厳密解なのでお高いシミュレーションソフトの解よりもよほど精度は高いものでした。電気工学を真っ当に学んだ人なら常識事項ですが,三相交流の電線が発生する磁界は,キャンセルするのです。もし電線が3本束ねられられていたら,全くゼロと言っても良いものでしょう。ただし,3本の位置が少しずれていますので,地上に影響するのは,位置ずれによりキャンセルし切れなかった分のみです。電線一本が発生する磁界は距離に比例した低下ですが,位置ずれによりキャンセルし切れなかったいわば誤差程度の磁界はごく小さい上に,2乗や3乗に比例して低下します。いずれにしろ,地磁気よりも一桁程度小さいものですが,「人工的なものは体に悪いはずだ」と言う様な思い込みが激しく,それを解くのは常識ある人であっても容易ではありませんでした。送電線もさることながら身の回りの電気製品などから出る磁界のほうが遥かに大きいですよと説くのが関の山でした。

電線などから出る電磁界を問題にする際は磁界強度を問題にします。理由は知りませんが測りやすいという事なのでしょう。「電磁波」が問題という事であれば,磁界のみならず,電界も測らないといけないはずですが,電界の方はずっと前から主に「感電」を問題にしていて,「安全離隔距離」を設けて,送配電線には一定以上の距離以内に近づかせない様にさせます。


「デジタル放送の電磁波は危ないのではないか?」という荒唐無稽なものもありました。確かにスペクトラムは違います。アナログ放送でもヘビメタなどを流している放送局のスペクトラムはデジタル放送に似てきます。これも,電気電子工学を多少なりともかじった人なら笑い話で,クラシック音楽よりもヘビメタの方が体に悪い?くらいの話です。電磁波の物理的性質に全く差はありません。もしも,ある周波数バンドの電磁波がデジタル化されて危ないのだとすれば,上のバンドはアナログでも危ない事になります。

遠赤外線などの熱線も光(可視光)も,紫外線もX線もガンマ線もすべて電磁波です。あえて危険性を言えば,その周波数で決まる量子エネルギーの大きさです。弱い紫外線でも長時間浴びていれば日焼けします。細胞レベルでの損傷があるわけでしょう。ぽかぽか暖かい遠赤外線。波長が長いため体に波動としての回折現象で入っていくので暖かいわけですが,これを普通電磁波被曝とは言いませんが,明らかな電磁波被曝の一種です。

目で見える可視光。いくら強い可視光でも暑くはなりません。
「いや暑くなるぞ」というのは,光源のロスで発生する遠赤外線の作用でしょう。LED電灯は殆ど熱くなりませんが,とはいえ効率100%ではないので,可視光になりそこなった電気エネルギーは熱に変わります。電磁波で一番危険なものを言えば,ガンマ線です。これは放射線の扱いになります。

波長が短くなる(=周波数が高くなる)と生体に細かな作用を及ぼします。細胞を温めるのではなく,遺伝子レベルで破壊してしまいます。生体の自己修復作用が間に合わなければ,破壊されて重大な損傷を及ぼすことになります。ぽかぽか暖かい遠赤外線であっても,強烈であれば焼き殺されてしまいます。可視光であっても,太陽光以上に強烈なものであれば目をやられるでしょう。

周波数とその強度によるわけです。
遠赤外線で日焼けする事はありませんが,強いと焼き殺されることになります。全て程度問題という事です。定量性が問題です。蚊に刺されたのを,有害物質が注入されたとは言いませんが,ウイルスなどが入っていれば病気になります。


人工物は体に悪い。自然物だと体に良い。これも極めて危険な迷信でしょう。
よくある「ナントカが危ない!」と言うのは,何百倍も何千倍もの量を与えて害がある。
食塩なんて強烈な有害物質です。多すぎるとしょっぱくて食べられないから,害にならないだけです。NaClのNaもClも単体としては極めて有害な物質ですが,NaClは少量は生体に必須です。

空気中の酸素だって極めて危ない元素ですが,無くてはならない物質です。
砂糖も体に悪い悪いと言います。何でも取り過ぎはよろしくないでしょうが,日本人の糖分摂取量など,アメリカ人などに比べたら,ごく少量でしょう。


少しの基礎知識と確かな情報,論理的整合性からいえば,バカバカしい話というのはよくあるものです。

合成樹脂は危ないが天然の樹脂である漆が絶対安全とも言えないでしょうが,長年食器にも使われて来て伝統があるからでしょうか。これとて,固まってない状態では,漆かぶれします。食器に平気で使うのも考えてみたら怖いのですが,これはあまり指摘されません。

天然素材である木材とて何でも安全かというとそうでもなさそうです。
極端なのを挙げれば,夾竹桃は全体に強烈な毒成分を持っていて死亡事例もあるとの事です。枝葉を燃やしても煙に有毒成分を含む。庭などに植えない方が良さそうです。
アルミ鍋やアルミ缶などの金属イオンの溶出が問題になった時,その溶出量よりも,組成がアルミニウムである明礬を含むベーキングパウダーなどの食品添加物の方が(害があるとしたら)問題だとされたと思います。至極当然の事でしょう。


世の中絶対安全安心なものなどありませんが,余り危険性のないものにまで気をとられていると,本当に危ないものに気が回らない可能性はあります。

今回,「ご飯一合炊き」炊飯を一時中止して,市販のパックごはんを食べてみましたが,だいぶ異なる感じがしました。気分的にですが,こちらの方がヤバそうな気がしました。安全性の心配はさておき,電子レンジ炊飯とはいえ直に炊いたごはんの美味しさを再認識しました。
nice!(35)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 35

コメント 4

よしあき・ギャラリー

皆さん関心をお持ちなのですね。
by よしあき・ギャラリー (2023-12-21 05:28) 

Enrique

よしあき・ギャラリーさん,
そうですね,関心持っていただくのはありがたいです。
by Enrique (2023-12-21 07:35) 

ロートレー

原発余剰電力利用のオール電化住宅が広がったころ、カウンタートップのビルトインコンロにハロゲンコンロを奨められました。
HIコンロの電磁波が体に良くないという理由のようでした。
そんな危険があるならこれほど普及するわけないと思いつつ、確かめもせず、まだハロゲン使ってます。
by ロートレー (2023-12-21 21:52) 

Enrique

ロートレーさん,
コメントいただいて,今さらながら,過去の健康に良いとか悪いとかの情報(今もありますが)は,ビジネストークもあると言う事ですね。
その昔は,エジソンが自身の直流送電を普及させるために,「交流は電気椅子に使われているから危険だ」というネガティブキャンペーンを張りましたが,自身の直流送電は全く使い物になりませんでした。選択肢がある場合のビジネストークとして,古今東西そういうキャンペーンはあると言う事ですね。
電磁波に関する誤解に関しては,馬鹿馬鹿し過ぎて相手にするのも疲れます。記事に書いた大学の先生は,そんなのに真面目に対応したせいでもないでしょうが,その後亡くなってしまいました。
by Enrique (2023-12-23 19:28) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。