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説明がメンドウな事柄〜その3〜 [雑感]

小学校や中学校で習うのに,驚くほど理解されていない事柄について書いています。

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「〜その1〜」で挙げた「オームの法則」は単に掛け算割り算の算術なのですが,数量に意味を持っています。数字の計算は出来なくてもお金の計算ならできるという子がいます。実感を伴う具体的なものだから大丈夫なのでしょう。電気に慣れている人間からしたら,単に数字の計算よりも,電圧[V]や電流値[A]の方が「実感を伴う具体的なもの」なのですが,一般人からしたら各種の単位を持った量は単なる数字以上に抽象概念そのものなのでしょう。

昔の電気職人は,触ってみて電圧を感じたのだそうです。命掛けてまで実感を得たいという欲望が人間にはあるようです。


たしかに基本単位である,「長さ[m]」,「質量[kg]」,「時間[s]」は実感する事が出来ます。単位長さ1m, 1kg, 1sは実感できる量ですが,電気の基本単位である電流[A]は,実感できません。1Aが体に流れたら即死です。50mAが1s流れたら危ないと言われます。

電気という新参の量は,人間の感覚を元に定められた量ではありません。その辺がピンと来ない原因の一つでしょう。そして電流は既に流れを伴っているので,基本単位というよりも組立て単位と見ても良く,クーロン[C]なる電気量を使えば,[C/s]と表すこともできます*。昔はこう習った記憶もありますが,電流のほうが扱いやすく,見えない電磁気量は力で定義する事から,SI単位形では電流[A]が基本単位として採用されたのでしょう。

娘が中学の時に「電流」の意味がワカランというので,「水の流れの様なもの」だろうと言うと,「水は水が流れているが『電流』は何が流れているんだ?」というので,「通常は電子だね」と言うと,納得した様子でした。学校では納得できる説明を受けなかったようでした。


ここからは高校の物理程度の話ですので,苦手な人は飛ばしてください。
オームの法則で関係が示される,電気の基本量として,電流以外に電圧と抵抗があります。これらの単位は,[V]と[Ω]ですが,これらは組立て単位で,基本単位を組み合わせて表されます。

例えば,電圧(電位差)とは,水の水位差に対応する落差です。電位とは電気ポテンシャルとも言い,電気的な落差の事を言うわけですが,水の落差ならば,[m]という長さの基本単位があるので,それを使えばいいだけですが,電気ではそういう目に見えるスケールはありませんから,理屈で決める必要があります。

「1Cの電気量が1Jのエネルギーを得る落差を1Vとする。」と言う事です。だから,[V]は[J/C]であり,SI基本単位を使えば,[J/(A・s)]です。

電圧の単位(ボルト)は理屈で決められるわけですが,力学では長さの単位が先に決まっているので,わざわざそんな面倒な事をする必要はありません。

電流はSI単位系では基本単位の[A]とされますが,これは[C/s]で1秒間に何クーロンの電気量(通常は一定量の電子)が流れるか?という事になります。

抵抗は,電圧に対する電流の流れにくさ,すなわち1A流すのにどれだけの電圧が必要か[V/A] =[Ω]という事です。
高校物理の範疇おわり。


物理では力学が基礎と言われたものですが,あまりにも嫌われるので,理科教育界も諦めぎみの様でした。当方が高校教員時代に研修を受けた教育学部の方の話でも,教育学部の理科教員志望の中でも,物理専攻者は極端に少ないとの事でした。理科の基礎である物理が嫌われ,そのまた基礎の力学が嫌われる。力学が理解できないとなると,目に見えないので力で定義される電気の理解は全く無理でしょう。普通に考えれば,基礎なくしてその応用もありえないはずです。

電気は目に見えませんが,むろん電圧計や電流計で測る事は出来ます。以前当方管理のマルチメータをとある大学の医学部の人に貸したらヒューズ切れで返却されました。事前に何やらの研究に使うと話を聞いていて,「大丈夫かな?」とは思ったのですが,案の定,電圧計と電流計の使い方(電圧と電流の違い)が分かっていないのでした。


以前とある上場企業の創業者の人が,「会社経営の秘訣は?」と聞かれて答えたのが,「足し算・引き算ができれば,企業経営者は務まる。」と言っていました。「会社を潰す人は『足し算・引き算ができない人』だ。」と。

むろん「足し算引き算」は小学校で習います。件の上場企業の創業者は,名門高校卒業で名門企業に入社しましたが,有名大学出身者の「学問が身についていなさ」を実感したものと思われます。企業でも役所でもそういう話は良く聞きます。

掛け算割り算も含め,足し算引き算は小学校で習いますか。しかし,企業経営の収益の足し算引き算となると,とたんに怪しくなると。


力学にしろ電気にしろ基本事項は,小学校で習う掛け算/割り算で十分なのですが,ふと感じるのは,+-×÷の四則演算の内,÷がどうもいけないのではないかと思う様になりました。

足し算よりも引き算が難しいですし,掛け算よりも割り算が難しい。
その理由としては,足し算と掛け算は順序を逆にしても大丈夫ですが,引き算と割り算は逆にしたらアウト。それでも,引き算は「差」という形で順序をフリーに出来ますが,割り算はふつうそれが出来ません。なので,割り算が一番難しいのでしょう。

何を何で割り算するのかがはっきりしていないと,「何が何だか分かんない」という事になります。

掛け算までは日常生活でも良く使いますし,日本では九九を覚えて掛け算の暗算を便利にしています。九九を覚えていれば,桁どりさえ間違わなれば割り算だってできますし,割り切れないのは分数で表しておけば便利です。

力学法則だって掛け算割り算が基本です。単位系では積分も微分も掛け算割り算で見ます。

流れる電流は電圧に比例します。流れやすさが同じならば,落差を高めてやれば,流量(単位時間に流れる水の量)は比例的に増える。流れる電流は抵抗に反比例。これは割り算です。

やはり割り算があやしいのではないかな?という気がします。特に逆数の考え方とか。


小学生の頃,「鶴亀算」などと並んで,有名な算術に「仕事算」なるものがあると父親から聞きました。
「トラさんが1人でやると40日掛かり,ハツさんが1人でやると60日掛かる仕事を,トラさんとハツさんが2人でやると何日でできるでしょうか?」
という問題です。むろん仕事の重なりなどのムダは無しとしてです。

これは割り算(逆数)の考え方ができないと難しい問題です。かかる日数を問われますが,1日に出来る仕事の量で考えれば,何でもありません。

トラさんは1日で完成の1/40の仕事が出来,ハツさんはやはり 1日で完成の1/60の仕事が出来るわけですから,両者の能力を足してやれば,2人で1日で5/120=1/24の仕事が終わることになり,これをもと通りひっくり返してやれば,掛かる日数は24日という答えになります。

与えられた数字と計算すべき数字が,逆数の関係になっているのがポイントでしょう。


似たような問題に,「ある距離を往きは40km/hの速さで,復りは60km/hの速さで往復しました。平均の速度はいくらでしょうか?」というのがあります。むろん,足して2で割った50km/hではダメです。ちょっと極端な例を考えてみればダメな事がすぐわかります。往きが1000km/hで行って復りが0km/hで平均速度500km/hという事はありえません。いくら部分的に速くても,止まってしまえば平均速度は0km/hです。これも速度同士の足し算や平均操作ではダメで,掛かる時間の平均をとって,速度に戻さないといけません。答えは48km/hという事になります。そうすると,「なーんだ,単純平均の50km/hと大差ないじゃないか!」という人が必ず出てきますが,それはたまたま数字が近いから近くなるだけで,単純平均は大間違いです。


抵抗の並列接続でも,逆数同士の足し算になっていると思えば何でもない事なのですが,実用性を重んじる余り,「和分の積」と覚え込ませたりします。しかし,それがすべてだと思い込んでしまうとすぐに不都合が起こります。むろん,抵抗の並列接続では,抵抗の逆数のコンダクタンスの和になっているというのが正しい描像でしょう。電気回路の数量では,逆数の関係をよく使います。もともと算術的に表される世界ですから,何の抵抗(一般の意味での)もなく受け入れられますが,一般の世界では,数字をひっくり返すというのが,けっこう大変なのでしょう。電気の世界に限らず,機械の世界でも,例えばバネ定数とコンプライアンスとか言っても,単に数字の逆数関係の量です。

単に数字の逆数とは言っても,それで表される「逆の世界」というのは少々「イマジナリー」な世界です。逆数の意味での割り算や分数の考え方というのは小学校で学びますが,私たちが初めて学ぶ抽象世界への入り口なのでしょう。人間社会においても,あからさまに目に見えるものよりも,目に見えないものの方が大事な事も多いわけですが,世の中には「目に見えるものしか信じない」という人がいますが,それでは「割り算や分数が分かっているのかな?」と少々心配になります。


小学校で学ぶ分数が分かっていなくても,五線譜で階名視唱できなくても,「タンブリン」を「タンバリン」だと言い張っても,「磁石につくのは鉄だけだ」と言い張っても,「キチョウ」の事を「モンキチョウ」だと言い張っても,「ハコベ」を採ってきて「ヤエムグラ」だと言い張っても,逆上がりが出来なくても(多少ヴァリエーションが増えておりますが),日常的に困る事はあまりないのでしょう。むろん,電気には少なからず注意が必要ですが。
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バク・ハリー

論点からずれた質問ですみません。(ちなみに逆上がりもできません。笑)
電気製品にかかわる「高齢者あるある」で、「電池のプラスマイナスの入れ間違い」という問題があります。
ユニバーサルデザインの観点から考えて、「プラスマイナスを間違えて入れても、問題なく動作する回路」って、実用化は難しいものなんでしょうか?
by バク・ハリー (2023-10-24 10:26) 

Enrique

バク・ハリーさん,
むろんできないことは無いですが,逆に入れても壊れず動作させない方が遥かに簡単かつ安全ですから,そうしています。むしろ正しい向きにしか入らないように入口形状を工夫するほうがユニバーサルデザイン的には良さそうです。

誤った事をしたら,動作しない方が安全です。単純ミスを回避して動作させるようにしたら,別の安全性の問題が出てきます。また単純ミス対応のために大掛かりな仕組みを用意したのでは,割にあいません。その逆入れ対応回路で電気を食って,電池が満足に使えませんね。電池逆入れに対応する回路を仕込むならば,電池交換など必要ない様にすべきでしょう。

極端な事を言えば,自動車のブレーキとアクセルを踏み違えても大丈夫なようにとか言ったら,手動運転は止めて自動運転になりますね。
by Enrique (2023-10-24 13:30) 

風神

>昔の電気職人は,触ってみて電圧を感じたのだそうです。
これを見て思い出すのですが、昔動力の結線やら配電盤の点検修理などを200V生きたままでよくやっていました。1分1秒を争う事でやっていたんですが、ですからよく200Vに触れました。髪の毛が逆立ち、2,3m飛ぶ感覚でした^^;
そんな時、電気管理技術者の人に言われたのが、長靴を履いているので助かってる、また電流が小さいので助かってる大きいと死ぬよ、でした。
そんな訳で、「〜その1〜」でのコメントに繋がると思います^^;
因みに当時は、100Vに触れても平気でした。雨の日や濡れた箇所で、いち早く漏電を感じて、人に教えたりしていました。
by 風神 (2023-10-24 16:19) 

バク・ハリー

なるほどぉ。^^
by バク・ハリー (2023-10-25 11:30) 

Enrique

風神さん,
激しい感電では,生体組織を電離して破壊してしまう電離電流が怖いわけです。
当方がアルバイトで講師を務めるクレーン資格の学科講習でも「感電での危険性は『必ずしも電圧の高さではなくて,間違って体に流れてしまう電流の大きさ』だ」と口酸っぱく言っています。

100Vよりも200Vが危険なのは間違い無いですが,それは2倍の違いですが,もう一方の電流を決める抵抗は千倍でも百万倍でも異なってしまいますから,抵抗の違いに配慮する方がはるか重要です。

鳥は数千Vの裸線の活線に止まっても大丈夫です。アースから浮いていますから。
人間も,線2本同時に触れなければ,活線に触れても大丈夫ですが,人間は地面に立ったり,何かに乗ったり,電柱に登ったりしていますので,アースから完全に浮いているわけではありませんので,絶縁服や絶縁靴が必要です。

電圧100Vでも感電死の事例はあります。
感電事故はほとんどが夏場に起こっています。冬場に100V活線にふれてビリビリ程度(数mA程度)だったとしても,皮膚の接触抵抗がはるかに下がる汗ばんだ夏場では即死の危険性があります。慣れていても,ミスを犯すのが人間です。面倒でも活線作業には絶縁手袋に絶縁服,絶縁靴にと2重3重に安全対策をしておくのが肝要です。
by Enrique (2023-10-25 11:37) 

Enrique

バク・ハリーさん,
電池を使う機器に安全性をさほど考慮する必要も無いとは思いますが,ご納得いただければ幸いです。
by Enrique (2023-10-25 11:38) 

U3

>昔の電気職人は,触ってみて電圧を感じたのだそうです。

この一文を見てビックリ。本当に命懸けだなと!
私は変電所で工事をしていて、裸の高圧電線の近くで脚立に乗ってトランスの上に積もった埃を掃除をしている最中に、バンという大きな音とともに、頭が半分なくなって即死した人を知っています。
それ以来電気は恐いという印象です。物理得意だったんですけどね。
by U3 (2023-10-25 17:44) 

Enrique

U3さん,
しっかりとした知識があり,防護していれば高電圧でも大丈夫なのですが,怖い感電事例は聞きます。正確に言えば「電圧」は感じる事は出来ず,「電流」が流れて初めて分かるわけですが。
by Enrique (2023-10-26 05:59) 

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