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穴の話 [科学と技術一般]

前回「ツボにはまる」というのは,穴に落ちるようなものという意味の記事を書きました。

穴というのは,時にはどうしようもない欠陥を意味することもありますが,穴がある事で助かる命もあれば,トンネルや地下空間などさまざまな面で重要な役割を果たしている穴もあります。

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中にはもとのものと全く同等の働きをする穴もあります。
半導体素子中で活躍する小さな小さな穴,正孔,電子のぬけ穴です。例えばバンドギャップ(禁制帯)を挟んで光エネルギーによって励起される電子正孔対の電気エネルギーをpn接合の段差を利用して取り出すのが,おなじみの光電池(太陽電池)です。ダイオード作用だけならば,二極真空管でも出来ましたし,もともと「ダイオード」って二極真空管の事を言いました。

Free Electrical Notebookより。
増幅作用や発振作用,検波整流作用などのエレクトロニクスの基本動作は真空管でも出来ました。真空管はいわば電子だけのデバイスですが,半導体素子は電子と電子の抜け穴である正孔の2種類を使ったデバイスです。真空管のダイオードは検波整流作用しかありませんが,半導体のpn接合ダイオードの接合面に光が当たれば光起電力を発生してくれます。かつてはNASAの宇宙開発でも使われた先端技術でしたが,現在ではSi製のものはありふれた実用技術になっているのはご承知の通りです*。

増幅作用や発振作用を担う素子である,NPN接合とかPNP接合などの昔ながらのトランジスタは,現在ではレトロニムで「バイポーラトランジスタ」と呼びます。かつてはトランジスタと言えば今で言うバイポーラトランジスタだったわけですが,真空管のような単一キャリアの動作をするFET(電界効果トランジスタ,別名モノポーラトランジスタ)が出てきたので,昔ながらのトランジスタをバイポーラトランジスタという事になったのでした。当方長らくトランジスタには関わっていなかったので,バイポーラトランジスタと聞いた時,何か新しい素子か?!と一瞬思ったものでした。

交流信号を効率的に増幅する回路はプッシュプル回路と呼ばれますが,電子だけの単極動作する真空管で構成するには位相反転回路が必要ですが,バイポーラトランジスタならば,NPN素子とPNP素子をペアで使って相補(コンプリメンタリ)回路で構成できます。さらに現在では,正孔と電子それぞれの単極動作するpMOS-FETとnMOS-FETを組み合わせた画期的なデバイス,CMOSデバイスが集積回路内に作り込まれていますので,簡単にプッシュプル動作を実現出来るようになりました**。

いずれも,電子だけは実現できなかった夢の様な動作が,電子と電子の穴である正孔の働きとが対になって素晴らしくバリエーションを広げたと言っても良いでしょう。


*現在Si製はありふれたものですが,人工衛星用などにはもっと効率の高い高度な素子が使われています。 **MOSは集積化に向いたFETの構造(金属酸化物半導体)の略称。
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