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「アルハンブラ」の練習の仕方 [演奏技術]

タレガの「アルハンブラの想い出」は人気曲です。
これを弾くと,すごい!すごい!と。
一流プロでも,アンコールでこれを弾くと,拍手喝采です。

確かに名曲ではあります。この曲そのものを嫌う人は滅多にいないでしょう。

当方が十代の頃NHKの「ギターをひこう」などを見ながら,ギターを始めた頃,練習して手の形を覚えて,一曲一曲ものにするというスタイルで割とすぐ弾けるようになりました。そういうスタイルで小品を何曲か覚えていたと思います。

何だか応用のきかない練習法だと思いましたが,「アルハンブラの思い出」もその様にして覚えました。独学で始めて1年以内で弾いていましたので,単に弾くだけなら「禁じられた遊び」と大差ないと思います。

「禁じられた遊び」は技術的にはセーハが大変です。一方右手はワンパターンですからこれも(タッチとか気にしなければ)大丈夫です。左手のセーハを含む技術を克服すれば何とかなります。「アルハンブラの思い出」も右手はワンパターンですから,左手をしっかり覚えれば,だいたい最後まで行けます。

初期に覚えた曲は大概,「何となく手で覚えて弾ける曲」という感じでした。
中・上級曲まで結構弾けるつもりでいましたが,就職してあまり弾かなくなり,かつてならいつでも楽に弾けたソルの「月光」練習曲すらも満足に弾けない状態になっていました。「禁じられた遊び」もつっかえつっかえという感じでしたか。そのまま長い中断時代に入りました。

自分で練習方法を工夫する様になったのは割と最近です。
独学初期の頃も,やみくもに弾いて押さえを覚えて曲をものにするという方法は,応用のきかない練習法だと感じ,ギター曲では無い,なるべく沢山の曲を弾く様に心がけました。それにより読譜力はついた一方で,手で覚えるという事を殆どしなくなり,暗譜が弱くなりました。いずれにしろ,中断期間まったくの暗黒時代でした。転機はレッスンを受けだしてからです。

その頃も,ただ曲を弾くだけで個別に見てもらうだけで,練習方法の指導まではありませんでした。
経験者とみなされて,すぐにソルのセゴビア編練習曲をやっていました。割とすぐに終わり「好きな曲をやって良いですよ」と言われて,好きな曲をやっていましたが,すぐに壁にぶち当たりました。

当方を襲った問題は,以下の様なものでした。むろん現在でも全て解決しているわけではありません。
(1)脱力問題
(2)暗譜問題
(3)技術問題
(4)あがり問題

年1回程度人前で弾くことになりました。最初の2,3回は,独学時代よりは格段丁寧に練習して臨むようになったためか,そこそこ弾けましたが,4回,5回と回を重ねるうちに,取り組む曲が難しくなるためか,ムダな(とは思っていなかった)力が入る,あがる,暗譜が飛ぶ,という状態が頻発しました。

このブログを始めたきっかけとその目的は,とある国家資格を得るための文章練習のためでした。小学校以来日記3日坊主の当方でも「好きなことなら続けられるだろう」という軽いノリで始めましたが,そこで俎上に上げのが「あがり問題」です。

「普段は弾けているのに,なぜ発表会などでアガるのか?」を問題にしていました。このブログを書き出した14年前でもなかなか改善していませんでした。もう一方の当方のブログ開始のきっかけにもなったのは,「アメリカで開始したクラシックギター」というブログでした。同ブログの著者「やーさん」は,毎回練習方法などを分析されていましたが,初めてのステージでまるで弾けなくなったお話があり,「ステージフライト」という言葉もそこで初めて聞きました。

「やーさん」は,技術的には初級者でしたが,技術や練習方法を冷静に分析されていて,非常に参考になりました。例えば,「練習モード」と「快適モード」という話題があったと記憶します。ギターを弾くのが好きな人というのは,とかく「練習モード」が嫌いで,「快適モード」で弾いていたいと思うものですが,その峻別が重要だと。時間があれば,何となくだらだら練習する事の多かった当方でも,その辺の意識を明確に持つことの重要さに気付かされました。


相前後しますが,レッスンを受ける様になって,最初の頃指摘されたのが,部分練習と通し練習です。恥ずかしながら,それまで殆ど通し練習しかしていませんでした。課題曲を持って行って見てもらうというスタイルですから,早く片付けたいと思うものです。練習曲などは特にその傾向が強かったと思います。転機はタレガの「アラビア風奇想曲」だったでしょうか。独学初期に弾き覚えた曲ですので,通し練習だけして2,3回見てもらったのですが,いつも同じところに引っかかっていたのでしょう。「部分練習しないと,仕上がりませんよ。」とやんわり言われました。


レッスンを受ける重要な意味は,角氏も指摘されていた様に,個別曲を習うというよりも,各曲に共通する音楽の作り方を学ぶほうが大事だという事です。部分練習の大事さと共に,ただやみくもに弾くだけが練習ではないという事も学びました。アルハンブラのレッスンを受けた時です。特に当方が望んだわけではありませんが,タレガの小品をいくつかやりましたので,アルハンブラも弾くことになりました。この時の指導が,いきなり弾かずに「まず伴奏だけ弾く」というものでした。この曲に限らずトレモロ奏法は,pで伴奏を弾きながら,amiで旋律のトレモロを弾くスタイルです。pamiをコロコロと転がしながらほぼ全曲を通します。すぐに何となく弾けた気になるものですが,そこはガマンして,いきなり弾かずに,amiをトレモロを弾く弦(冒頭なら②弦,後半なら①弦など)に置いて,伴奏だけを先ずしっかりと練習するのです。これは非常によい練習になりました。後に「分奏」という概念を知りましたが,まさしくそれです。「トレモロが難しい難しい」と言いますが,実は伴奏の方が難しいのです。左手を覚えて右手をトレモロ的に動かすわけですが,トレモロのamiは①,②弦を常に弾いているわけですが,伴奏のpは⑥弦から②弦までを飛び飛びに捉えるわけです。一連の動作としてだけで弾いていると,トレモロに気をとられて,伴奏がきちんと弾けておらず,その事自体にも気がつかないという事になります。伴奏だけでもマトモに弾けていないのに,トレモロと同時に綺麗に弾けるわけがないのです。ピアノを片手づつ弾けない人がどうして両手で上手く弾けるのでしょう?

アルハンブラ通常.png
通常の「アルハンブラ」楽譜冒頭。タレガの記譜尊重でしょうが,トレモロを記譜しており演奏性を尊重したものでしょうが,視認性の非常に悪いものです。右手のパターンはpamiを6回繰りかえせば1小節,それがほぼ最後までそのパターンで続きますので,「禁じられた遊び」同様,直ぐそこそこ弾ける気分にはなります。
トレモロを弾く体勢のまま,amiは②弦や①弦に置いておいて弾かず,pだけで伴奏部分を最後まで弾ききる練習をします。「そこそこ弾けるからいいや」という方にはお勧めしませんが,マジメに改善を図りたい人には必修課題です。普通に同時に弾いてそこそこ弾けていたつもりでも,やってみると結構弾けていない事に気づきます。「そここそ」が練習ポイントです。

右手のpが各弦をしっかり捉えきれてないだけでなく,しっかり覚えていたつもりの左手の運指までが検討課題になります。実際にそのようにして分けて弾いてみないとその重要さに気付きません。当方も独学初期に弾いた曲でしたので,かなりテキトウだった事に気付かされました。世の中には「アルハンブラを弾きたい」という生徒さんは結構多い様ですが,特に経験者には遠回りの練習の様に思われて嫌われる様ではありますが,むしろ初めて弾く時からこの様な分奏の方法で練習すれば素早くきちんとした仕上がりになったと思われます。

アルハンブラトレモロ.png
「アルハンブラ」のトレモロを省略記譜で書いたもの。曲の流れがよくわかり,トレモロに気を取られずに,伴奏側の動きをしっかり把握できます。
現代の名手カネンガイザーは,アルハンブラを弾いてくれと言われても決して弾きません。理由は,「十代の頃のヘタクソな自分に戻るから」というもので,これも非常に良くわかる言葉です。いい加減な練習法で覚えてしまった曲は化石化して直りにくいので弾かない方が良い。直すのに時間が掛かるだけではなくて,悪い弾き方と共に思い出してしまうので,せっかくのその後の技術改善を無にしてしまうなどの弊害が大きいからです。

先を急ぐ気持ちで,いきなり弾く。それを延々繰り返す。かつての当方のパターンでしたが,一番悪い練習法でした。部分練習や分奏,いわば時間的分解と空間的分解の練習法を身につけはしましたが,あがりを始めとした弊害にも悩み,指導者を替わり,カルカッシOp.60からやり直しました。やり直すというよりも,それまで譜読み程度であまり真面目にやっていなかったものです。25曲しっかりさらいました。中に苦手曲が出て来ますが,苦手なものほど役立つ(自分に不足している技術な)わけですから,時間をかけてやりました。

自分の演奏の問題に気がついて,自分で工夫して改善できれば,レッスンを受ける必要はあまりないでしょう。自分で気がつきにくいところを指摘してもらうのがレッスンの意味ですし,すでに自分でも気がついているところは,改善法を話し合います。


当方が今まで辿って来た遠回りのギター練習を振り返れば,フォームから技術の改善をはかったり,脱力の意識を身につけたり,技術面ではカルカッシOp.60を25曲きっちり取り組んだことでしょうか。上であげた当方の切実な4つの問題は,実は相互に関連していたのです。当初,上がりの問題を何とかしたいと考えていました。「普段は弾けているのに,なぜ発表会などでアガるのか?」というのは,自己をよく把握できていなかったということでしょう。実はよく弾けていないままにステージに臨んでいたのでした。むろんその時点では最善を尽くしていたつもりでしたが,色んなムリがあったのでしょう。暗譜はいい加減だから,忘れる,あがる,そして力む。ステージでの演奏というのは一種のストレスチェックな訳です。練習でそこそこ弾けているつもりでも,ストレス下では全然ダメです。当方の場合は暗譜の問題もありますので,暗譜はあきらめています。楽譜見ながらならば「忘れる」という不安要素を取り除けます。脱力問題も,練習時から力んでいるものが,ステージで脱力して弾けるわけがないのです。また脱力していれば上がりにくくなります。技術の安定と脱力は表裏一体でしょう。


アルハンブラをネタにして,練習の工夫について書きました。この曲自体トレモロという特殊な技術を使っていますが,ギターでは得意な技術です。他の楽器から見たら超絶技巧に見えるかもしれませんが,練習に工夫すれば技術的にそれほど大変なものでもありません。
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バク・ハリー

まさに、すべておっしゃるとおりと存じます。
by バク・ハリー (2023-06-25 12:48) 

Enrique

バク・ハリーさん,
ご理解いただけますか。当方の苦い経験からの教訓です。地道にステップ・バイ・ステップで進める方が結局は遥かに早く近道なのですが。
by Enrique (2023-06-25 20:09) 

アヨアン・イゴカー

>苦手曲が出て来ますが,苦手なものほど役立つ
これこそが練習している目的、目標で、これを克服すれば弾けるようになる。私は、嫌と言うほど体験しています。苦手な部分と言うのは、自分に足りない部分なのですから、それを克服できれば、当然弾けるようになります。流し練習ばかりするというのは、さながら文法や単語の意味が分からないまま、外国語を読んでいるような、非常に効率の悪い練習方法だと思っています。
by アヨアン・イゴカー (2023-06-26 00:28) 

ヒゲジイジ

クラシックギターがヘタクソのまま手放せずに、反対に収集しています。いろいろ検索しているうちにこのブログにたどり着きました。
松岡良治M290を中古で入手しましたが、SPECや製造時期など不明なため博識の貴殿に教えていただけると幸いです。
by ヒゲジイジ (2023-06-27 15:06) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
得意な事やよくわかる事を敢えて学ぶ必要もありませんが,苦手な事,よくわからない事が重要なのだろうと思います。
それは技術練習に関しても,音楽的な理解に関しても言える事だろうと思います。外国語の習得に例えられて正に仰る通りだと思います。
by Enrique (2023-06-27 16:19) 

Enrique

ヒゲジイジさん,
松岡良治の楽器は世の中に大量に出回っており,日本のギター文化に果たした役割は決して小さくないと思います。
当方も古いものを4,5本所有しております。70年代,80年代あたりは製造年代が入っているものが多いのですが,それ以前とそれ以後は入っていません。現物見れば凡その年代は想像できますが,正確な製造年代はシリアルナンバーから解読できると思うものの読み方が不明ですので,ご子息の松岡利昭さんにでも伺うしかないのかなと思っています。
ご質問のM290というのは見たことがありません。
数字が高いので近年の最高レベルに近いものだと思います。MにしろMHにしろ300が最上位です。
2012年に良治氏他界,2014年に廃業しておりますので,それまでの作品であればMade in Japanのもの,それ以降のものであればMade in Chinaになると思います。いずれにしても最上位機種に近いもので,表面板の色が白っぽければ松(スプルース),赤茶けていれば杉(シダー),当然単板で,サイドバックもローズウッド単板のはずです。
Mは松岡のMですが,基本はラミレス・コピーです。
MHはハウザー・コピーでです。その他のモデルもかつてはありましたが,本数的には皆無に近いと思います。
by Enrique (2023-06-27 16:40) 

ヒゲジイジ

松岡ギターのコメントありがとうございます。ラベルにはMade in Japanとあり表面板は木目のそろった杉の使用です。
中古品なので入手経路をたどることができませんので、お言葉で満足しようと思います。
by ヒゲジイジ (2023-07-06 22:26) 

Enrique

ヒゲジイジさん,
松岡の中位下位品は大量に出回っていますが,最上位に近いMade in Japanは貴重だと思います。もっとも楽器の価値は弾いてなんぼのものだと思います。
by Enrique (2023-07-09 14:52) 

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