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フーリエ級数の考え方から~後半~ [科学と技術一般]

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前回,三角関数で表すフーリエ級数を取り上げました。

三角関数だけで表したので,あまり見た目美しくありませんでした。そこで,伝家の宝刀「オイラーの公式」を使います。オイラーの公式同士を足したり引いたりして,cosとsinは以下の様に表わされます。

\[\cos{n\omega{t}}= \frac{1}{2}(e^{jn\omega{t}} + e^{-jn\omega{t}}) ,\sin{n\omega{t}}= \frac{1}{2j}(e^{jn\omega{t}} - e^{-jn\omega{t}})\] これらを前回の(1)式に代入して整理しますと,
\[f(t)= \sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n e^{jn\omega{t}} \tag{1'}\] 
と表すことが出来ます。ここで,係数\(c_n\)のほうも,前回の\(a_n, b_n\)をひっくるめて,

\[c_n= \frac{1}{T}\int_{-T/2}^{T/2} f(t)e^{-jn{\omega}t}dt \tag{5}\] と表すことが出来ます。(1)式の級数表現がシンプルになった上,最初3つあった係数の式(2), (3), (4)を一つにまとめて(5)式とする事が出来ます。むろんこの積分式で求める\(c_n\)は,前回同様元の関数\(f(t)\)に含まれるきれいなsin・cos波の分量\((n=0,1,2,3 \cdots)\)(線スペクトル;角周波数\(\omega\)の倍数)を表している事に他なりません。

これらの式を極限操作・連続化\(T→\infty, \sum → \int,c_n → F(j\omega), n\omega → \omega\)して双方対称な積分の式*にすれば,上の(1')式と(5)式のセットは,以下の「フーリエ変換(対)」に持っていくことが出来ます。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}   F(j\omega)= \int_{-\infty}^{\infty} f(t)e^{-j{\omega}t}dt \\   f(t)= \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}F(j\omega) e^{j\omega{t}}d\omega \end{array} \right. \end{eqnarray} ただし,式の順番を入れ替えました(通常そうされます)。上式の一つ目が(5)式に,二つ目が(1')式の変形に対応します。一つ目がフーリエ(順)変換,二つ目をフーリエ逆変換とします。理由は,元の見える波形を,そのままでは見えないスペクトルの形で見る変換に相当するからです。これらは,フーリエ級数から導き出されるとはいえ,新たな定義式としても良いわけです。

「フーリエ級数」では,元の波形は無茶苦茶でも良いとは言いながらも,有限の周期\(T\)を持つ周期関数を扱っていましたが,このフーリエ変換では,周期\(T→\infty\)になっていますので,単発波形も扱うことができます。

このフーリエ変換対は,自然現象に現れる数量の双対性を表す非常に有用な理論になります。物性論にも光学にも,むろん電気工学にも機械工学にも用いられます。半導体中の電子のふるまいも,虹が七色に分かれるのも,データ通信理論も,分析化学もこの数学的表現が基礎です。


ただし,フーリエ変換は,回路や制御で必ず出てくる「スイッチ・オン」に相当する,単位ステップ関数\(u(t)\)を扱うことが出来ません。\(u(t)\)は時刻0以降1で無限に続くので,この積分が発散してしまうからです。

フーリエ変換で使う\(j\omega\)変数を複素数\(s=\sigma+j\omega\)に拡張して積分範囲を正だけにしたものを通常「ラプラス変換」といいます。オイラーの公式の示す通り\(e^{-j\omega{t}}\)は無限に続く周期関数なわけですが,変数\(j\omega\)を純虚数から実数を含んだ複素数にして単調減少の性質を含ませる**ことで,この異常積分の値が有限に定まるので,晴れてステップ関数を扱うことが出来るわけです。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l}   F(s)= \int_{0}^{\infty} f(t)e^{-st}dt \\   f(t)= \frac{1}{2\pi{j}} \int_{c-j\infty}^{c+j\infty}F(s) e^{st}ds \end{array} \right. \end{eqnarray} 値域変数を複素数に拡張したせいで,関数も複素関数になるため,逆変換式は複素積分になっています。こんな数式を見ると,ぎょっとするものですが,数学で扱う人は別でしょうが,電気工学や制御工学でこの積分計算をやる必要は殆どなく,通常が使用する関数の変換対表を引けばよいだけです。

ラプラス変換なら,電気回路(過渡現象論)や古典制御理論,振動論その他でお世話になったという方もいらっしゃると思います。この変換を使えば,微分方程式が代数方程式に変換されて,いわば大学の数学が中学の数学に変貌しますので,そのような分野ではラプラス変換が回路やシステムを扱う必須ツールになっています。


前回の三角フーリエ級数から始まって,今回複素フーリエ級数,フーリエ変換,およびラプラス変換までの話を書きましたが,これらは既に古典的なツールになっており,類した新たなツールも開発されています。ただやはり関数の直交性を利用した考え方は基本です。

フーリエ変換は,上で書いた様な広範な分野に利用される他,デジタル情報処理との相性が良く,離散型フーリエ変換(DFT)の冗長性を省いた高速フーリエ変換(FFT)なるツールもよく使われました。直交基底関数をコサインだけに限定した離散コサイン変換は,画像圧縮のJPEG方式に使われます***。mp3で圧縮した音楽もそうです。他の圧縮方式でも原理的には似たようなものです。

今日我々が,インターネットで画像や音楽を楽しめるのも,元はと言えば,天才たちが残してくれた理論が直接間接にその屋台骨になっているからに他なりません。こういう人たちが人類に貢献している真の偉人なのだと言えます。誰々とは言いませんが金儲けをして一般に有名になっている人たちも,その活動の全てにおいてこの人たちのご厄介になっているのです。


*なるべく対称になるよう,下側の式だけについている\(\frac{1}{2\pi}\)を上下の式に\(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\)と割り振る流儀もあるようです。
**工学的に言えば,減衰を入れて継続振動から減衰振動にすることです。\(e^{-\sigma{t}}\)を収束項とも言います。
***線画などをJPEG圧縮しますと「モスキートノイズ」なるものが発生しますが,前回矩形波の有限フーリエ級数和が波打つ現象(ギブス現象)そのものです。
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U3

ご存じのように、拙ブログは諸事情により一時的に復活しましたが、当初の目的を果たしましたので、予定通り『戦略的撤退』を致します。
最新記事を見て頂ければ事情はすぐに分かります。
本当に申し訳なく思っております。
ブログは休載しますが、時折遊びに来ますので、その時はよろしくお願いいたします。
by U3 (2023-02-05 21:36) 

Enrique

U3さん,了解です。
by Enrique (2023-02-07 11:01) 

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