SSブログ

Δ-Yの記憶 [科学と技術一般]

EnriqueAutographSmall.png
電気回路理論では,キルヒホッフの法則以降,各種定理やらいろんな等価回路やらを学びますが,その中の一つにΔ-Y変換(デルタ・スター変換とか三角・星型変換とか言います)があります。これの一番の応用は三相交流回路なのですが,考え方だけを学ぶには回路素子が抵抗だけの初歩の直流回路でやってしまった方が楽なのでした。

YΔ.png
Y接続とΔ接続。a-b, b-c, c-a各端子間で等価となる抵抗値を求める。
Δ接続と等価なY接続の各等価抵抗値\(R_\text{a}, R_\text{b}, R_\text{c}\)は,以下の様になると教科書にあります。
\[R_\text{a}= \frac{R_1 R_3}{R_1+R_2+R_3} \tag{1} \] \[R_\text{b}= \frac{R_1 R_2}{R_1+R_2+R_3} \tag{2} \] \[R_\text{c}= \frac{R_2 R_3}{R_1+R_2+R_3} \tag{3} \] なぜこんな公式が成り立つか?その求め方は最初に教わった教科書には載ってなくて,授業でも触れられなかったので自分で考えました。

Y接続のa-b間の抵抗値は,\(R_\text{a}+R_\text{b}\)ですが,これがΔ接続の同端子間の\(R_1, R_2, R_3\)の直並列の抵抗値\(\frac{R_1(R_2+R_3)}{R_1+R_2+R_3}\)と等しくなければならないので,

\[R_\text{a}+R_\text{b}= \frac{R_1(R_2+R_3)}{R_1+R_2+R_3} \tag{4}\] という等式が成り立ちます。以下同様に, \[R_\text{b}+R_\text{c}= \frac{R_2(R_3+R_1)}{R_1+R_2+R_3}\tag{5}\] \[R_\text{c}+R_\text{a}= \frac{R_3(R_1+R_2)}{R_1+R_2+R_3}\tag{6}\] などとなります。
各式から\(R_\text{a}, R_\text{b}, R_\text{c}\)について解けば良いので,例えば,\(R_\text{a}\)を求めるには,(4)式 -(5)式+(6)式として整理すれば,
\[2R_\text{a}= \frac{2 R_1 R_3}{R_1+R_2+R_3} \] となって,(1)式が出てきます。(2)式の\(R_\text{b}\)ならば,(5)式 -(6)式+(4)式, (3)式の\(R_\text{c}\)は,(6)式 -(4)式+(5)式と言った様に同様のやり方で求めることが出来ます。


しかしながら。。。
Δ接続の抵抗値\(R_1, R_2, R_3\)を用いてY接続の抵抗値\(R_\text{a}, R_\text{b}, R_\text{c}\)を表す公式(Δ-Y変換)は上の様にすぐ導けるのですが,逆に,Y接続の抵抗値\(R_\text{a}, R_\text{b}, R_\text{c}\)を用いてΔ接続の抵抗値\(R_1, R_2, R_3\)を求める,以下のY-Δ変換の公式が導けず悩みました。

\[R_1= \frac{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}{R_\text{c}} \tag{7}\] \[R_2= \frac{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}{R_\text{a}} \tag{8}\] \[R_3= \frac{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}{R_\text{b}} \tag{9}\] どうも3つの抵抗値を使って2つの抵抗値の方を求めることは出来ても,その逆を数式的に求めるのは困難の様です。

参考書等に載っているやり方は,順次2点間を短絡して,Δ側の抵抗の数を減らす方法です。それによって,\(R_1, R_2, R_3\)の3つの抵抗値のうちの1つづつ消去するわけです。

例えば,a-b間を短絡すれば,Δ側のコンダクタンス(抵抗の逆数)の和\(\frac{1}{R_2}+\frac{1}{R_3}\)は,Y側の直並列コンダクタンス\(\frac{1}{R_\text{c}+\frac{R_\text{a} R_\text{b}}{R_\text{a} +R_\text{b}}}=\frac{R_\text{a} +R_\text{b}}{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}\)と等しくならないといけませんから,
\[\frac{1}{R_2}+\frac{1}{R_3}= \frac{R_\text{a} +R_\text{b}}{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}\tag{10}\] 同様に,b-c間を短絡すれば,
\[\frac{1}{R_3}+\frac{1}{R_1}= \frac{R_\text{b} +R_\text{c}}{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}\tag{11}\] c-a間を短絡すれば,
\[\frac{1}{R_1}+\frac{1}{R_2}= \frac{R_\text{c} +R_\text{a}}{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}}\tag{12}\] となり,上の3式を加減してΔ-Y変換の場合と同じ様な方法で求めることができます。
例えば,\(R_1\)を求めるためには,(11)式+(12)式-(10)式として,両辺を2で割れば,
\[\frac{1}{R_1}= \frac{R_\text{c}}{R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}} \] となりますので,これをひっくり返せば,(7)式が求まるわけです。(8)式,(9)式も同様に求めることができます。

Δ-Y変換ではすんなり行くのに,なぜY-Δ変換ではこんな面倒な操作をしないと出ないのでしょうか?
Y接続の端子間抵抗では,向かいの1端子が開放になっているわけですから,抵抗が2つづつです,それに対しΔ接続では抵抗が3つづつあるので,1辺づつ短絡しないと,Δ-Y変換とは同じ様には求まらないのでした。それとΔ-Yでは抵抗をそのまま使うわけですが,Y-Δでは抵抗の逆数のコンダクタンスを使うところも技巧的です。のちのち回路の双対性とか学んでいれば少しは分かったのでしょうが,習った当初の私の頭では全く分かりませんでした。

一応,短絡なしで導出する方法はあります。
Δ-Y変換の式(1),(2),(3)を2式づつ掛け合わせて各々足して整理すると,
\[R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}=\frac{R_1 R_2 R_3}{R_1+R_2+R_3}\tag{13}\] となります。例えば式(13)に式(1)を適用すれば,
\[R_\text{a} R_\text{b}+R_\text{b} R_\text{c}+R_\text{c} R_\text{a}=R_2 R_\text{a}\] となって,式(8)が求まります。以下同様に,式(13)に式(2)を適用すれば式(9)が,式(13)に式(3)を適用すれば式(7)が求まります。

やれやれ。
確かにそうはなっていますが,このやり方をぱっと思いつく人がどのくらいいるでしょうか?答えの式(7), (8), (9)が分かった上で無理やりこじつけたとしか言えません。答えを見ないで出来るとは思えません。

最初に教えた先生が「Y-Δ変換公式は少々面倒だよ」とでも言ってくれれば,「自分はバカなのではないのか?」と悩まずに済んだとは思います。


しかも,これらの公式を直接使うことは滅多に無く,抵抗値が全て同じ場合,変換によって抵抗値が3倍になるか3分の1になるか,どちらかさえ覚えてしまえば,さして困る事もないのですが,それは後になってから気付く事です。大雑把な覚え方としては,Y接続は直列的でΔ接続は並列的ですから,等価にするにはΔ接続の抵抗を大きくしなくてはなりません。Y接続基準ではΔ接続の等価抵抗は3倍になると覚えておけば必要最小限の知識にはなります。

しかし,試験では抵抗値が全て同じはでない場合の,変換公式を適用した問題も出たものと思われます。試験でいちいち公式から導いていたのでは間に合いません。「Δ-Y/Y-Δ変換」の公式などは,電気回路理論の初歩のほんの一つの課題ですから,これで悩んだ当方の電気回路の成績は途方もなく悪いものでした。


「なぜそうなるか?」は,サイエンスとしては大事なことですが,工学ではその後の応用に意味がありますので,これに引っかかっていてはダメだったのでした。もっとも,後に濾波理論などで,T型・π型等価回路というものが出てきますが,これはY・Δと同じものでしたので基礎にはなっていたのでした。

この手の悩んだ昔話は色々ありますが,いずれも当方の要領の悪さを開陳している事に他なりません。
nice!(28)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 28

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。