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キルヒホッフの法則の思い出 [科学と技術一般]

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電気系の学習では,最初オームの法則から始まって,「キルヒホッフの法則」を習います。電気回路分野では,これが第一関門と言われます。これでつまずいてしまうと,その後危ないと言われたものです。

確かにこれがしっかりマスターできていないと,その後現れる各種定理などはちんぷんかんぷんになってしまうでしょう。半世紀前の思い出です。

電気回路の教科書の冒頭には,キルヒホッフの第1法則(電流則)として,ポンとこう書かれます。
\[\sum_{k=1}^{n} I_{k} = 0\] 「任意節点に流入出する電流\(I_k\)の総和はゼロである」と。初めてこれを見ると面食らって,「電気なんてキライだ」という人が出てきてもムリはありません。

電流が流れているのになぜゼロなんだ???とか。疑問が湧くでしょう。流入量と流出量が同じなので,符号を考えれば0。などと意味がわかっても,今度は「なぜそんな当たり前のことわざわざ言う必要があるのか?」などという,おこがましい疑問が湧いてきます。


世の中には,物事をシンプルに言うと「なんだそんなことか。」とバカにする向きもありますが,何もキルヒホッフの法則に限らず,シンプルな基本原理こそ大事なわけです。むろん,キルヒホッフの法則は電気回路では,オームの法則の次に大事なものです。むろん第1法則だけではダメで,第2法則(電圧則)とセットで意味を持ちます。
\[\sum_{k=1}^{n} V_{k} = 0\] これまた,閉回路中の各素子に発生する電圧\(V_k\)の総和は0であると。当然閉回路の中には電源も含みます。起電力を正に電圧降下を負にとると,総和は0になる,というものです。

第1法則のモヤモヤが晴れれば,第2法則も大丈夫でしょう。両者には「双対性」が成り立っています。その言葉が出てくるのは少し後ですが,「電流-電圧」,「接点-閉回路」という対応で考えれば,両者はおなじ原理なわけです。

さらに,この法則は電気回路だけではなく,第2法則の電圧を力に見立てれば,力学で出てくる「ダランベールの原理」と同じ事です。むろん,第1法則は,非圧縮性流体などで使う「連続の式」と同じ意味で,それを回路網に適用したと言っても良いでしょうし,「電流保存の法則」と言っても良いでしょう。しかしそんなことは後からわかるわけで,最初見たときは「なんだこりゃ」なわけです。原理的なことはなるべくシンプルに書くのがお作法だという事に気づく事も必要です。

この,=0という式は,物事のバランスを表しています。天秤の釣り合いも,ブリッジ回路の平衡条件も,マイクロホンのバランスラインも。お釈迦様の教えもバランスです。先日触れたラプラス方程式は少々高度で,全方向でポテンシャルの曲率=0でしたから,ポテンシャル場が最もなだらかになる調和状態を表すわけです。


「意味が分からないと絶対イヤだ」という嗜好もありますが,「分からなくても取り敢えず進んでみよう」という柔軟性も必要だったと思います。

これの原理的意味がわかる事も必要ですが,これを使って各種回路の解析が出来ることの方が重要でした。そして,その際,いちいちオームの法則やキルヒホッフの法則を使っていたのでは効率が悪いので,「鳳・テブナン」や「ノートン」,「帆足・ミルマン」などなど便利な各種定理を使って行くことになります。
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