SSブログ

「微分積分」なんていらない? [雑感]

理系の仕事をして来た方で,高校・大学と無駄に苦しんだ「微分積分」なんてあえて学ぶ必要がないという意見がありました。

EnriqueAutographSmall.png
かなり前の新聞の投書欄に載ったので,おそらくその反論もあったことと思います。

当方も反論サイドです。
仕事で使わなかった人にとっては,学校時代無駄に苦しんだ経験のみ。だからいらないと。まあその方の意見では選択制にして必要な人だけが学べば良いと。無論そういう意見も少なくないと思います。無理強いをすればこの方の様に憎悪の対象にまでなってしまいます。

最近新聞で見かけたのが,体育ぎらいの子にどう対処するかという記事でした。
当方もきらいな方でした。「ルールを知っているのが当たり前」としてその競技の授業を進める事などが問題だと。当方が経験した何十年も前からそうなのに,むしろ今まで問題視されなかったこと自体が問題です。


「学校で習んだ事は社会では役に立たない」とはよく言われますが,おそらく体育に限っては心身の発育に体育は不可欠で「無条件に役立つ」という扱いだったのかも知れません。「教育百年の計」。教育方針をちょろちょろ変えてはいけませんが,新たな研究成果もあるわけですから,永年の方法の無反省な墨守もいけません。

体育に限らず,たいがいの教師は,自分が好きで得意な教科を教えています。分かって当たり前な事を,その科目を好きでもなく不得意な生徒にどう教えるか?


理工学に興味を持ってそちらに進んだ当方でしたが,数学が弱く挫折しかけていたのを救ってくれたのが微分積分学でした。初等の微積を習った時は,全くちんぷんかんぷんでしたが,偏微分や重積分から学んだ教師が理論物理の方で,この方の授業が分かりすぎて困った訳です。なぜ困るかというと,分からない授業に慣れっこになっていたので,分かりすぎると復習して再確認しようとしなくなるのがデメリットでした。むろん分からない授業よりははるかに良いに決まっていました。

そもそも,微分の定義もそこそこに,微分の事を「何乗を前につけて,乗数から1引く」なんてやられると,皆目分からないまま進む事になります。ごくごく特殊な例を「微分の基本」みたいにやられて分かるはずもありません。その前の微分の定義をしっかり分かるまでやらないといけません。数学の人に言わすと,その前に級数をやらないといけない様ですが専門外の当方としては,級数は級数で必要でしょうが,感覚的に把握できる微分のほうがずっと分かりやすかった記憶があります。


後年有名私大の数学科卒の人と話をしたら,「なぜそうなるか?」などという疑問は全く持たなかったとの事でした。おそらく,疑問を持たないというのが才能で,そういう子が日本ではできる子なのでしょう。例えば,自然対数の底eの理解ですが,これはむろん天下り式に発生したわけでは無くて,やはり後年知った話では,微分して形が変わらない様に底を選んだというのが真相です。それが,いきなり極限操作の式が出て来て「こう定義される」と。確かにその様に定義すると,微分しても積分しても変わらない指数関数が出来上がるわけですが,ここでも微分の定義式の理解が重要です。しかし同じこととは言え,前後関係が逆では分かるものも分かりません。それを如何にもポンと,天下り式に示されて,「分からなくて良い,覚えろ!」的にやられたのでは,当方の様なもの覚えの悪い人間には皆目無理な事です。意味の分からないものは覚えられません。世の中には,無意味な数字でも沢山覚えられる人がいますので,そういう人にしたら何でも無いことでしょう。「意味なんて分からなくていいから,覚えて使える様にだけしろ」という事だったのなら,「そうならそう言ってくれ。」と言いたいところですが,そこには「本音と建前」があるのでしょう。「真意をさっと見抜いて賢く立ち回る事」が日本の世の中でやっていくには有用な能力なのでしょう。当方など若い時にそれに気づけば,もう少し別な人生だったかもしれません。


よく「〇〇××ですので,ご理解ください。」というのがあります。
当方などは「理解できないものをどう理解するのだ?」と思うわけですが,おそらく,日本の教育には,「そうなっているんだから,いちいち文句言わずに従え」というのが当たり前に刷り込まれていて,そうするのが「理解」だと理解しないといけないわけです。

学ぶべきものが沢山あるので,いちいち数式の説明や「なぜそうなるか?」などやってられない。というのが実態でしょう。当方が昔高校の教員をちょこっとした時,化学の年配教師は,「いちいち"Why?"なんてやっていたら,科学は成立しない。」と常々言っていました。むしろ大変正直な意見で,専門でない化学を教える当方にしたら,「そういう面はあるだろうな」と思いつつも,「それは科学ではなく,あなたの授業が成立しないのですね?」と大先輩教師に失礼な事を言うわけにもいきませんでした。科学はむしろ"Why?"で発展してきています。もともとゆとり教育なるもの,教える内容を精選して,Why?を考えさせる教育なのだと理解していましたが,その効果の検証もなく舵が切られてしまいました。


正直なところ,数学教科で学んだ内容は殆ど理解できませんでした。当方の場合,応用面で意味が分かって初めてまともに理解できたというのが実態です。使って初めて意味が分かるという意味では,「使わないなら要らない。」という事にもなりかねません。しかし,少なくとも大学まで理系で進むには微分積分学は不要どころか必須です。たしか経済学でも数学はたくさん使います。むしろ実験ができないから数学的厳密性が必須だと。むろん,当方が学んだ電気工学では古典数学をたくさん使います。微分積分の基本は,英語を学ぶ上でのアルファベットの様なもので,むしろリテラシーです。


理系でも,微分積分どころか,中学レベルの数式にも拒絶反応をする方もいます。音楽だったら,五線譜に対する反応も似たようなものでしょうか。小学校の音楽以来,五線譜は教科書に出てくるわけですが,そのリテラシーが身についてない方も少なからずいる。五線譜読み書きできなくても音楽やる方は大勢います。そして,微分積分使わなくても理系の仕事は務まる,という冒頭の方の主張もあるわけです。しかし,テクノロジーが進化した時代,益々高度な数学を使いこなさなければいけない時代に逆行した主張だと思います。現在は,(数学使わなくてもできた)エジソンの時代ではないのです。

微分積分学は,もともとはニュートンやライプニッツが創始したもので,純粋数学というよりは応用数学です。応用面での意味が本筋なのです。自然現象を記述する言語として有効だったわけで,自然現象を理解する上での基本です。恐らくこの方は,学校数学や受験数学の被害者です。分かる教師や教材やキッカケに恵まれなかったのでしょう。それらを使わずに理系の仕事をやり遂げたとしたら,限られた言語のみ使って狭く生きて来られたのでしょう。人類の英知として,思考の道具として,要・不要以前のリテラシーだと思います。
nice!(32)  コメント(6) 
共通テーマ:音楽

nice! 32

コメント 6

上山完

分類するなら私も理系ということになりますが、よく、微分とかは大人になってから使ったことがないから不要だ、と言われて、(鉄棒の)逆上がりだって大人になってしたことがない、と言い返していたことがあります。
by 上山完 (2022-11-26 15:05) 

Enrique

上山完さん,
コメント有り難うございます。
むしろ「微分積分は使わないから不要論」に賛同する方も多いと思っていますが,当方の必要論に賛同いただき,「逆上がり」という具体例を出していただき,我が意得たりです。
ちなみに「理系」というのは「微積いらない」と言っていた人が,「理系の自分でさえ」というニュアンスだったので敢えて使いました。あえて分類するつもりはありません。
大人になって使わないからいらないと言い出すと,学校でやることの大半がそうなってしまいますね。「世の中で役立つことをやれ」という意見もありますが,今役立つことなどすぐに役立たなくなります。普遍的に基礎になるものこそ重要です。微積に限らず数学や科学基礎知識などはそういうものでしょう。使わなかった方は,そういうそういう世界を生きたという事でしょう。
by Enrique (2022-11-27 08:53) 

アヨアン・イゴカー

ごもっともな主張で、我が意を得たりという感想です。
私は文系ですが、高校時代対数や微分積分にも興味は大いにありました。授業ではその成り立ち、なぜそれらの数学が出来て来たかを教えては貰えませんでした。興味も薄れ、そのままになってしまいました。後年、対数が天文学に大いに役立ったことなどを知り、もっと面白く教えてくれればよかったのにと思いました^^;
兄は理系で教師もしておりましたが、物理から数学の公式を見ると、必要性も意味も実によくわかると言っておりました。
私自身は文系でありながら、数学や物理は実に魅力的で興味があります。実社会で使わないから不要という考え方には賛成できません。不必要なものと思っていたものから、多くを学ぶ可能性もあるのですから、その芽を摘んでしまってはいけません。
by アヨアン・イゴカー (2022-11-28 11:42) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
 初等の微積は余り面白味もありませんが,力学などに利用して,「こんな仕掛けで自然を探ることが出来るのか!」と,いわば顕微鏡や望遠鏡の様なものだと感じました。「微積いらない!」というのは,「肉眼だけで自然観察は出来るので,そんな道具はいらない」と言っている様なものです。
 理系方面に興味を持ちながらも数学が分からず諦めたという人も多いものです。大変もったいない事をしていると思います。微積だけがある程度分かった当方はギリギリセーフでしたが,もう少しで完全にアウトでした。日本は数学が強い筈ですが,応用面を下に見て来たせい?か,内容が偏ります。
 「難しい事をやりすぎる?」と言う批判もあったのかも知れませんが,高級な概念でも,分かりやすく,その歴史背景なども絡めてしっかりと理解させることが必要だと思います。納得できなくてもさっさと進める子は良いですが,しっかり納得しないと進めない子も少なくありません。
 かなり前から日本は,科学技術への関心も低いのが当たり前になって,「理科離れ」とさえ言われなくなり,国際的に見ても理工系学生の比率が少ない。教師も生徒も無用に忙しくさせて,余計な(本当は大事な)ことを考えさせないというのでは,学問の発展も科学技術も停滞させてしまいます。
by Enrique (2022-11-28 12:51) 

ロートレー

微分積分は、手も足も出ませんが
趣味の世界で3角関数はよく使います。
関数電卓は必需品です^^
by ロートレー (2022-11-30 19:55) 

Enrique

ロートレーさん,
モノ作りに三角関数は必需品ですね。
微積も解析ツールで,それを直接使わなくても,すでに出来上がった(微積を使わない)公式を使う分などには困りませんね。ただ間接的にはご厄介になっています。
by Enrique (2022-12-01 07:41) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。