SSブログ

「アルハンブラの想い出」を上手に弾きたい [演奏技術]

世の中的には,そういう希望が多いようです。

今はどうか知りませんが,当方がクラシックギターを始めた頃は,まずは「禁じられた遊び」の"Romance de Amor"を弾きたい。一応弾けるようになると,今度は「アルハンブラの想い出」を弾きたい。それも何とかモノにすると,「アラビア風奇想曲」,その後は。。。

EnriqueAutographSmall.png
ソルの「魔笛の主題による変奏曲」,あるいは「グラン・ソロ」。むろん,ソルには沢山の練習曲がありますし,「アルハンブラ」を弾く前には,タレガの小品などを色々取り組むという事になりそうです。

豪の者になれば,その後は,バッハの「シャコンヌ」とか。
BWV998のプレリュード・フーガ・アレグロとか,4曲のリュート組曲とか。。。

ギターでは,オリジナル曲のレパートリーが余り多くはないとは言え,流石にこの「はしょり方」は尋常ではありませんでした。


何分世の中には有名な好きな曲だけ弾いて,そうでない曲は決して弾きたくないという嗜好もあります。ごく狭いレパートリーを物凄く練習してものにするという練習法が通用していたような気がします。極端な例えが,ピアノのレパートリーが8年掛けて覚えた難曲「ラ・カンパネラ」一曲だけという,それで有名になった海苔漁師の方のようなものです。

逆に,当方などの反省点として色々弾いて来ても,レパートリーとしてまるで残らないという嫌いがあります。特に近年は,暗譜をせず譜面を見て弾くと言うスタイルに慣れてしまったため,ますますその傾向は強いかもしれません。

一生に弾ける曲は限られていますから,特にコンクールなどに臨むので無ければ,沢山の曲に触れられた方が楽しいとは思います。しかし,そういう嗜好にも隘路があります。弾きたい曲をどんどん弾き散らかすと,どれもこれも,つまみ食い状態になって,どの曲もまともに弾けないという独学者がハマりやすい落とし穴があります。


弾きたい曲のみ弾くのでは,読譜力や基本的演奏技術が身に付かないわけです。独学者に限らず,プロについている人でも,例えばカルカッシOp.60を楽しんで終わらせるか,いやいや中途半端に終わるかでは大きな違いが出ると言います。当方はいい年になって,これを2,3回やりましたが,実に優れた教材だと思います。何ならこの中から何曲か取り出して,人前で発表しても良いのではないかとも思います。どんどん学習課題が出て来て飽きさせませんし,曲としても素晴らしいと思います。これが楽しめない人は,クラシックギターには不適なのではないかと思います。少なくともこれが弾きこなせないで,人気有名曲がすんなり弾けるとは思えません。

以前にも書きましたが,特にかつての我が国ではカルカッシの練習曲を極端に軽視していて,「ピアノのバイエルのレベルだから弾かなくても良い。」とさえ言われていました。ソルの研究でも名高いブライアン・ジェファリ氏によれば,ピアノで言えばショパンの練習曲に当たるそうです。古くからギター科があるマドリード音楽院では6年間掛けてじっくりと取り組む必須課題だったのです。かつての件の認識の人は,ピアノのバイエルもギターのカルカッシも何れも知らなかったのでしょう。

カルカッシOp.60が終われば,比較的上級課題に進みます。当方の場合は,セゴビア版のソルの20の練習曲でした。最後から二つ目の19番(Op.29-13)ですが,セーハの多いアルペジオ曲。これを「ものすごい難曲」と見る方もいますが,果たしてソルの他の練習曲を弾いているのかな?と疑問です。ソルにはこれよりもずっと難しい練習曲が何曲もあります。また,やはりOp.35-13を難曲と捉える向きもありますが,確かに鍵盤の小品のようなこういうパターンはギターでは多くはありませんが,そもそもOp.35はソルが「非常に易しいエクササイズ(エグゼルセ)」として作曲したもので,エチュードですらないのです。ソルがエチュードとしたのは,Op.6と29の24曲のみです。


さて,冒頭の「アルハンブラを上手に弾きたい」という希望ですが,当方は独学でギターを始めた時にはこの曲を1年以内でナチュラルスピードで弾いていました。むろんがさつではあったとは思いますが,そんなに難曲だとは思いませんでした。何分右手のタッチがテキトーですからトレモロは楽でした。正規に習うとタッチがしっかりして却ってトレモロは難しくなります。

ソルの魔笛変奏曲はかなり酷い演奏だったと思いますが,それでも開始2・3年で弾いていました。まあ若気の至りでした。いずれも後年学び直してみて,恥ずかしくもなりましたが,怖いもの知らずで良く弾いていたものだとも思います。アルハンブラを正規に教わったのは,再開後の20年ほど前になりますが,そこで指摘されたのは左手の運指の若干の工夫と,トレモロを確実にするためには逆療法的ですが,いきなりトレモロを弾かず,まず親指の伴奏だけをみっちり練習することでした。確かにこれは有効だろうと思います。

どうしてもトレモロにばかり意識がいきますが,音の動きとしてはpでやる伴奏の方が大きいわけで,これが確実に出来ていないと,いくらトレモロの粒が揃ったところでギクシャクした演奏から抜け出せません。

トレモロもそうですが,ギターではバッハなどの多声曲も右手だけで弾き分けます。よく「鍵盤で両手で弾くのは左右で違う事をよくやるね」と言いますが,鍵盤では多少の非対称はあるにしても音を出す動作は同じです。むしろ,ギターでは左右でやることが全く異なり,多声は右指だけで弾き分けます。むろんこれが一遍にすんなり出来れば御の字なのですが,なかなかいきなり独立性を保てるものではありません。

がむしゃらでも弾き続けていれば「何となく」弾けた状態にはなります。これを,だんだん良くしていくという事はほぼムリだと思います。「何となく弾けた状態」というのは,ある「準安定状態」に嵌まり込んでいますから,抜け出せません。抜け出ると弾けなくなるのがオチで,少なくとも良い状態に持っていくことは出来ません。


ギターの譜面は普通一段譜に書き込まれますが,音的には二段譜ですし,手の動作としては,左手一段と右手二段の三段譜くらいの動作をやっている事に相当すると思います。左手と右手の動作が絡んでいますから,一遍にやっつけようとしてもなかなか上手く出来ないものです。師について指摘されても,自らが納得してしっかり理解できないとダメなものです。「騙されたと思って」やってみるというのも,やれないものです。騙されたと思ったらできるものではありません。自分のアタマで理解しないといけません。録音しても,自らの課題に気付かず「そこそこ弾けている」,「もう一息」と思ったところで,改善への確実な道筋が無ければ永遠の道のりです。

「いっぺん」に「普通に」弾いても抜け出せないわけですから,確実に弾ける状態からスタートしないと,良く弾けない状態が定着します。より易しく,しっかりと脳が理解できる動作にまで分解してやらないと,有効な練習になりません。確実に弾ける,ものすごくゆっくり弾いてみるとか,分奏をしてみるとか,左右の手をバラバラに練習してみるとか。超ゆっくり演奏や分奏が確実に出来なくて,いっぺんにマトモに弾けるわけがありません。そもそも「カルカッシをきちんと弾けなくても,好きな曲なら自分は弾けるんだ」と言う「根拠のない思い込み」が,改善策への取り組みを難しくしていると思います。

師のアドバイスであれ誰の指摘であれ,虚心坦懐に自分の問題として受け止めて取り組まなければ,上達は困難です。自分で問題点に気づかない事には,永年掛かっても改善のしようがありません。まずは問題点に気づき,それを理解し,分奏などで確実に弾ける状態からスタートしないと改善はできません。
nice!(31)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 31

コメント 4

プー太の父

「アルハンブラの想い出」はいい曲ですね。
私も高校生の頃に「禁じられた遊び」などを
少しひけるようになったこともありましたが
大人になってからはギターに縁がなくなってしまいました。
あのときは指の腹が硬くなるほど頑張ったのですが(^^
by プー太の父 (2022-11-06 16:11) 

REIKO

特定の曲(たいていは有名曲や難曲の類)だけを弾きたい、というのはそれを「芸のネタ」みたいに考えているんでしょうね。
何かの折に人前で披露できたらカッコいいな…とか妄想?しながらひたすら練習してるんだと思います。
それだと読譜力を身に付けるとか、基本的な演奏技術の習得なんてものに興味がわかないのも当然かもしれません。

カリンバも五線譜に書く場合は高音部譜表の1段譜ですが、音的には2段譜で右手と左手の動作が(ギターとは違う意味で)絡んでいるのは同じですね。
「いっぺんに」やっつけられない時は、まず旋律だけを弾けるようにせよと言われていますが、これはピアノの片手練習の場合と似ていて、分解してそれぞれ弾けることと、全部を一緒に弾くのとはまた別モノなのが難しいところです。
by REIKO (2022-11-06 16:15) 

Enrique

プー太の父さん,
「禁じられた遊び」がひきたい,「アルハンブラ」が弾きたいというのは,皆さんアリですね。その気持ちで続けるか,そこそこ弾けて止めるか,弾けなくて諦めるか,いくつかパターンはあると思います。
「禁じられた遊び」の罪なところは,冒頭が技術がラクな上,印象深いので,弾ける感じになってしまうところですね。後半長調になったところで数段難しくなってしまいます。最後までキチンと弾ける人はガクンと減ってしまいます。
実はこれ,ピアノでもあって,「エリーゼのために」は前半はラクできれいなので,多くの人が弾きますが,後半に入るとしっかり学習していないと指が回りません。むろん初級曲なのですが,独学ではなかなかキビシイです。

by Enrique (2022-11-07 10:19) 

Enrique

REIKOさん,
なるほど,そういう事ですね。心理分析してもらうと良く分かります。始めるきっかけとしては良いのでしょうが,それに徹すると,無理筋になるという事ですね。
楽器にもよるのでしょうが,たしかに,同時演奏と分奏では異なる点もありますね。同時演奏と全く異なる分奏では,技術練習としては効率悪いので,工夫が必要です。
by Enrique (2022-11-07 10:27) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。