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単位について〜基本事項〜 [科学と技術一般]

単位は難しいと言われます。

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誤表記が多いという記事を書きました。メートル法から発展したSI単位系を使っていれば,表記の多少間違いを一般人がおかすのは仕方ないとしても,品物を製造販売するプロが間違って大丈夫なのかな?と思うこともあります。もっとも,それが品物の信頼度チェックにもなるわけですが。しっかりしたメーカーは間違うわけがありません。

それはそうと,SI有理単位系のメリットは,あらゆる物理量がどこまでも基本単位から辿れるということです。

SI有理単位系の基本単位を表1に示します。
表1.SI基本単位
物理量単位読み方
長さmメートル
質量kgキログラム
時間s
電流Aアンペア
温度Kケルビン
物質量molモル
光度cdカンデラ


現在の基本単位は7つあります。
最も基本的なものは,メートル[m],キログラム[kg],秒[s]です。力学はこれで済みますが,電磁気学ではこれにアンペア[A]が入ります。かつてはこれを「MKSA単位系」と言っていました。

現在のSI単位系の基本単位は,これに温度の単位ケルビン[K],化学で使うモル[mol],光学・照明分野で使うカンデラ[cd]が入れられますが,[K]はボルツマン定数でエネルギー[J]と換算可能ですし,[mol]は次元を持たない単なる個数,cdは仕事率[W]で表してもらったほうが良いと思うので,個人的にはこれらを基本単位とするのは疑問です(それらを使う分野からの強い働きかけがあったのでしょう)。

表2はSI単位系で定義されている22個の組立単位を示します。これは基本単位から組立てられた新たな物理量の単位になるものです。例えば,圧力[Pa]は,単位面積[m2当たりに働く力[N]ですから,[N/m2]です。もっと遡れば,力[N]は慣性法則で[kgm/s2]ですから,結局圧力[Pa]は基本単位で[kg/ms2]などと表されることになります。

表2.SI組立単位
組立量単位読み方基本単位及び他の組立単位での表現
角度radラジアンm/m 無名数
立体角srステラジアンm2/m2 無名数
周波数Hzヘルツs-1
Nニュートンkg⋅m⋅s−2
圧力・応力Paパスカルkg⋅m−1⋅s−2 = N/m2
エネルギー・仕事・熱量Jジュールkg⋅m2⋅s−2
仕事率Wワットkg⋅m2⋅s-3
電荷CクーロンA⋅s
電位・電位差・電圧Vボルトkg⋅m2⋅s-3⋅A-1 = J/C = W/A
静電容量Fファラッドkg-1⋅m-2⋅s4⋅A2 = C/V
電気抵抗Ωオームkg⋅m2⋅s-3⋅A-2 = V/A
コンダクタンスSジーメンスkg-1⋅m-2⋅s3⋅A2 = A/V
磁束Wbウェーバーkg⋅m2⋅s-2⋅A-1
磁束密度Tテスラkg⋅s-2⋅A-1= Wb/m2
インダクタンスHヘンリーkg⋅m2⋅s-2⋅A-2 = Wb/A2
エネルギー・仕事・熱量Jジュールkg⋅m2⋅s−2
セ氏温度°C度シーK
光束lmルーメンcd⋅sr
照度lxルクスcd⋅sr⋅m-2 = lm/m2
放射能Bqベクレルs-1
吸収線量Gyグレイm2⋅s-2 = J/kg
線量当量Svシーベルトm2⋅s-2 = J/kg
酵素活性katカタールmol⋅s-1


組立単位にも,必ずしも必須でないものも入っていると思います。[T]は便利ではありますが,[Wb/m2]で良い訳*ですし,[S]は単に[Ω]の逆数です。もっとも,下の方の放射線系や化学には謎の単位がありますが,これを使う専門分野の人たちはこれが無いと困るのでしょう。

有理単位系では「基本単位だけですべての物理量を表す事が出来る」のが特徴ですが,上で見た様に基本単位だけでいろいろな単位を表すと煩雑になるため,汎用の組立てられた物理量を表す組立単位を作り,その分野に重要な学問的貢献をした人の名前を付けたのです*。

未知の量を単位から辿ることを「次元解析」と言いますが,言葉ほど御大層なものではありません。有理単位系は他の単位と関連して,全て基本単位の掛け算割り算で成り立つというだけの事です。どんな複雑な単位であっても,必ず基本単位までたどれる事です。次元解析の便利さを理解した人は間違わないものですが,分野によっては専門家であってもその辺の事情に無頓着な人も少なくありません。

非有理単位ではダメな例をやってみます。圧力と体積の掛け算をやってみましょう。

慣用単位で,圧力を[atm],体積を[L]とします。
[atm L]という不思議な単位でおしまいです。[atm]とは大気圧との比率ですから,そこに「次元」の思想はありません。[L]は現在SI併用単位で[dm3]の定義ですが,他にも水1kgの体積とかといった有理単位的でない発想があります。

一方,SI有理単位系では,圧力は[Pa],体積[m3]です。
[Pa][m3]=[N/m2][m3]=[N⋅m]=[J] で,この圧力と体積を掛け算した量が単位だけで,エネルギー[J]である事がわかります。


単位の決め方の細部に興味持たれる向きもありますが,ここではごく端折ってシンプルに行きます。

まず,長さ(距離)のメートル[m]です。もともとは18世紀フランスで北極から赤道までの子午線の1000万分の1を1mと定義したのが発祥ですが,何分基準が現物なので,伸び縮みや測定精度の問題があります。現在では最も不変量とみなされる真空中の光速度をc=299792458m/sと定めて距離を逆算します。1s間に光が299792458m進むとする訳ですから,1/299792458秒間に光が進む距離を1mとしている訳です。

本来基本単位の考え方は,それぞれ独立したものですが,実際の定義としては正確さを期すために速度[m/s]から距離[m]を逆算するのです。そうすると今度は時間の単位の秒[s]もなるべく正確に定義しないといけません。もともとは時間の単位[s]は,太陽の自転公転周期などから歴史的に決められたものでしたが,地球の自転公転はふらつくため,なるべく高く安定した基準周波数Hz(=s-1)の周期を数えて決めています。そこで現在は原子時計に使われるセシウム133原子の基底状態の超微細構造遷移周波数の1周期の9192631770倍を1sとしているそうです。

順番的には,長さの次が質量の単位[kg]ですが,後回しになりました。
これも最近までキログラム原器なる分銅で決めていましたが,これも現在ではなるべく普遍的な量で決めるため,プランク定数hから逆算しています。これは波動の周波数とそれの持つエネルギーとの換算係数として導入されたもので,現在普遍定数とみなされます。現行の質量の定義は最も新しく,2019年に改訂されています。これはプランク定数をh=6.62607015×10-34[J⋅s]とぴったり決めることで1kgを確定させます。[J s]は基本単位で[kgm2/s]ですから,それに上の定義で決めた長さと時間を入れて逆算するわけです。こちらは量子論関係ですから実感伴なっての説明は難いですが。

4つ目の基本単位は電流ですが,これが無いと電磁気学はお手上げです。むろん電荷[C]のほうを基本単位としても良い訳ですが,測定のしやすさなどから電流を採用したものと思われます。実際電流の単位[A]の定義は,最近までは1メートル間隔の平行電線に流す電流による電磁力が1mあたり,2×10-7Nの力を生じさせる電流値として定義されていました。電磁気系の単位は力を用いて定義しているため,直接力を扱う力学よりも単位の次元は複雑になります。ところが,最新の定義では,力を使わず,電子電荷e=1.602176634×10−19Cと決めてしまって,これで1Aを定義する様です。ますます基本単位を電荷[C]にしたほうがしっくりきそうですが,これは一種の取り決め(約束事)ですし,電荷よりも電流の方が便利という事情は変わらないでしょう。


これ以降の3つのSI基本単位の定義は省略します。この辺の説明だけ詳しくやってもあまり意味がありません。
基本単位の定義は,なるべく正確を期するために定義が改訂されて来たというだけで,一般生活はもちろんのこと,通常の学問分野にも殆ど影響はありません。むしろ重要なのはその基本的考え方です。基本単位はそれぞれ独立したもので,これらを用いて全ての単位が記述できて,全ての単位を相互に辿ることが出来るということがキモです。基本単位の理解が怪しい人に,基本単位の定義の仕方をくどくど言っても,単に「難しそうなモノだ」という誤解を与えるだけでしょう。技術の進歩に伴い高精度に基本単位や組立単位の定義ができる事自体もSI有理単位系の効用なのです。

ところで,ここまで沢山の単位を扱っていて,身近な単位のリットル[L]が入っていないぞと思われるかもしれませんが,この単位はSI単位系では推奨されません。なぜなら,体積は長さの3乗ですから,[m3]を用いるべきです。基本単位の2乗3乗だけで表される量は新たな組立単位とはしないのがSI単位系のルールです。それを入れてしまうと,次元解析がすんなりできず「SI有理単位系」とはならないからです。この辺の事情は稿を改めます。


*それを言うと,[Pa]だって[N/m2]で良い事になります。有難くテスラさんの業績を評価しましょう。
**組立単位に限らず,基本単位のアンペア[A]やケルビン[K]も人の名前です。人名由来の単位は大文字で書くのがルールです。
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枝動

おはようございます。
単位で思い出したことがあります。
子供の頃親父に、「真珠の売買は匁で行い、それが世界共通の単位だ」と聞きました。
日本人でも、知らない人が多い単位ですが、gでいいところを日本への敬意の現れなんでしょうかね。
by 枝動 (2022-08-29 09:58) 

Enrique

枝道さん,
個別の単位は沢山沢山ありますね。それぞれの分野で便利なものが自然発生的に生まれてきたわけですが,むしろSIにすることでビジネスに支障来すようなものはそのままという事も多いようです。貴金属ではオンスもまだ使っていますね。
質量(これじ自体重量との混乱あり)だけとか,体積だけとかの単発の単位ならばそれで良いのですが,長さ,質量,時間などを組み合わせる科学技術分野では,特殊な単位を使ったのでは手に負えずその進歩が阻害されかねません。電磁気学分野では,単位系を理解するのが肝要になります。
その辺の事情はまた書きたいと思います。
by Enrique (2022-08-29 10:15) 

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