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三相交流のナゾ [科学と技術一般]

電気には行きと帰りがあります。

ですから,2本つなぐわけです。
直流ならプラスとマイナスです。交流はプラス・マイナスが交番していますから,どちらでも良いわけですが,アース側(0電位)はあり,配線では白線に相当します。洗濯機やエアコン,電子レンジの様に電力を使うものは別途保護用の緑色のアース線をつなぎます*。これらは,100V単相2線式と呼ばれる方式です。使用電圧に関しては国際的に最も低いものです。

そこで国際レベルのパワフルな家電製品を使うために,単相3線式と呼ばれる,アース(白線)が中点でプラス・マイナス100Vが出ている配線方式も近年普及しています。これは中点とどちらかの接続で100V,プラス側とマイナス側との接続で200Vも取り出せるため,大きな電力を使う機器にはより有利になっています。これは単相3線式と呼ばれるものです。3線とは言っても2線を選択して使うわけです。

一方,動力用などで使う交流は3相3線式と呼ばれるものです。これが3本で供給されるものですから,上で挙げた単相3線式と混同されかねませんが,別ものです。「3本どうつなぐのだ?」という疑問があります。間違うと大変です。ただその辺は資格の無い方はいじれないことになっていますので危険はありませんが,もともと電力は基本3本で送っています。鉄塔の高圧線(正式には送電線と言います)の電線が基本3本なのは良く見かける事でしょう。

発電所で発電されたものも,家庭の直近の柱上トランスまで配電される電気もすべて3相3線式で,国際的にもこれが標準です。直流はプラスとマイナスだけですが,交流はプラス・マイナスが交番して無数の位相関係を発生します。無数とは言っても位相は360度で戻って来ますので,それを120度づつずらした3種類の交流を同時に使おうという発想です。3相というのは,3種類の位相をずらした交流のセットということです。本来相あたり2本の電線が必要ですので,2本×3相=6本の電線が必要なところ,帰りの分を省いてしまっているわけです。なぜ省けるかは,3相がバランスしていれば,帰りの電流は完全にキャンセルされるからです。単純に言えば電線を2本から3本にするだけで,3倍の電力を送れるわけです。もちろん,4相4線式でも,5相5線式でも考えられますが,3相3線式以上のメリットは得られませんので使用電線最少の3相3線式が最も優れていると言えるのでしょう。

メリットの多い多相(3相)交流ですが,帰路の3本の電線を省ける条件は,3相が完全にバランスしている事です。当然のことながら電力会社は3相の電流バランスが崩れることを極度に嫌います。バランスを保つために,3相で供給される需要家には単相で使うことを禁止しているはずです。3本になると接続方式にバリエーションが生まれて,三角結線とか星型結線とか,少し変則的なV結線なども存在します。3相の需要家でも結線方式までは気にする必要はないと思いますが,例えば3相の配線の3本を,どうインダクションモーターにつなぐのだ?ということになります。

RSTとかUVWの記号で表される順番通りにつなげばOKですし,万一逆に回ってしまったら,どれか2本を逆にすれば良いだけですが,もしこれが,4相4線式とか5相5線式だったら大分めんどくさいことになっていたはずです。そこだけ見ても3相3線式とは実に合理的な方法でした。もちろん一瞬でも逆周りが許されない場合は最初から位相進行方向に注意して結線しないといけません。

ただ,この辺のことでも電気知識のない方には大変の様で,かつてDIYで作業小屋を作って,「木工機械を設置したが,3相の配線がわからん。」という方に,私が電気知識があるということで,拉致されて現地に連行(笑)されました。一応知人からテスタを借りて持って行きましたが,ただつなぐだけなので,その必要もありませんでした。

3相3線式の200Vというのは,単相3線式の200Vとは全く違うと言いましたが,単相200Vはアースをはさんで位相が180度異なるわけですから2相2線式と言えなくも無いわけですが,2相なる言い方は存在せず**,単相3線式と呼んでいます。

星型結線の場合の相電圧VA-N
線間電圧VA-Bの関係を表すベクトル図
3相3線式200Vのどれか2本の線の間の電圧は幾らでしょう?
「200Vに決まっとるじゃないか?」必ずしもそうはなりません。これは電源側と負荷側の接続方式によって変わります。三角-三角結線ではそのまま200Vですが,負荷側を星型結線で受けると346Vくらいになります。星型結線で中点のアース間との電圧(相電圧)が200Vですと,3本の線と線の間の電圧(線間電圧)は120度づつずれていますから,線間電圧は200Vのルート3倍になるわけです。もし単相3線式の様に位相が180度ずれていたら,400Vになるわけですが,120度のズレなので,このくらいになるわけです。言葉で書いていてもピンと来ませんから,通常はベクトル図を書いて表します。ずれたサイン波の重ね合わせでも良いわけですが,ベクトル線図の方がずっと簡単です。しかしここに理解しにくくしている要因が2つくらいあります。

1点目。サイン波の重ね合わせが,なぜ矢印のベクトル線図で表されるのでしょう?
実際には行ったり来たりうねうねとした電圧や電流なわけですが,一定のうねうねであれば問題になるのは各相の位相関係だけですから,それをスナップ・ショットで止めて見るわけです。時間軸を無くしてしまえばシンプルです。単なるベクトル図ではなく,さらには電圧や電流を演算のしやすい複素数にして複素平面に投影するわけです。そういうことができる根拠は,微分や積分の公式であり「博士が愛した数式」で有名なオイラーの関係式から保証されるわけです。

面倒なことを考えず「そういうモノだ」と思って1点目をクリアしても,2点目はベクトル合成に関してです。星型結線では線間電圧が,ベクトル「合成」で相電圧のルート3倍になるという説明が見られます。ベクトル合成といえば普通力の合成などでは始点から平行四辺形を作り,その対角線が合力になりますので,その類推だと120度角度が開いた2力の合力は,1つの力と大きさは同じはずです。従って「ルート3倍が謎だ」となってしまいます。図や式で説明されれば気がつくでしょうが,合成と言われると普通足し算だと思ってしまいますので図で説明されてもどうしてそういう「足し算」が成り立つのか分かりません。そもそも電圧というものは,別名「電位差」というものですので,線間の電圧のベクトル「差」を取らないといけません。直流ならば単純な引き算で良いですが,交流ではベクトルの引き算だという事がわからないと謎は深まるばかりでしょう。むろん疑問の解消はさておいてひたすら知識として覚えるという手はあるのでしょうが。


*白線のアース(接地側線)と緑線のアース(接地線)は本来大地電位を基準にとるもので,同じとすればシンプルで分かり易い(ただし,単相回路では接地側線と非接地側線(活線)を区別せずに使っているので,明確なアースは別途必要)のですが,緑線のものは「保安用アース」として大きな電力を使うエアコンや電子レンジ,漏電しやすい洗濯機などに付けます。他には,レコードプレーヤのアースの様に,小さな信号を扱う際の雑音防止のためのものもあり,大地に接続するということは共通でも使用目的が異なるため別物のように扱われます。

**性質として単相と同じということで,呼び方の問題でもありません。歴史的には,モーターの回転力を得るために位相を90度ずらした本当の2相(3線式)交流も存在した様ですが,3相3線式の合理性には全く及ばず普及しなかった様です。
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上山完

いつも楽しく拝見しています。
タイトルを見て、三相交流がどこでギターにつながるのか、興味深く読みましたが、なんと最後まで三相交流の話でした。
なかなか大胆な試みですね。だれか食いついてくるでしょうか。それも、ちょっと楽しみです。
(私は電子工学専攻でしたので内容については特にコメントは無いです。)
これからも楽しい記事を期待しています。
by 上山完 (2020-02-12 09:46) 

Enrique

上山完さん,ご愛読ありがとうございます。コメントいただき嬉しいです。
実はこのブログは100%ギターというわけではなく,80%音楽,10%が電気機器,10%が旅行です。ですので,たまにこういうのがあっても良いかな?と「科学と技術一般」というマイカテゴリーを作っております。このカテゴリーを覗いていただけば,こんなような記事ばかりです。まあ,電線3本で供給される3相交流というのは一般の人から見たらナゾだろうな?といったイタズラ的な記事でした。
敢えてこじつければ,例えば音楽の楽典というものも専門外の人にしてみれば謎ですが,普通に音楽を聴く分にはあまり必要ない。3相交流の知識も供給側やそれにかかわる関係者には関係あるが,使う側にはほとんど関係ない。といった類似性?を言っているカモ知れません。
以前,交流電力が同期しているのはハモっているのだという珍説(私は本気ですが)を披露したこともあります。
by Enrique (2020-02-13 15:36) 

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