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古い曲の引っ張り出し方について [演奏技術]

ギター歴が長くなると,弾いた曲じたいは多くなります。

はるか昔の独学時代は,好きな曲・弾けそうな曲のみを弾いていました。
その辺の曲は闇雲に回数は弾いているので,暗譜しています。暗譜というより手が勝手に動き,間違うところも勝手に間違っていました。人前で弾いたりすると,普段間違うところは当然間違い,普段間違わないところも間違ったりしますから,とても聴けた演奏ではなかったと思います。

それはそれとして,師について習い出しますと,そこそこ仕上がるまで練習して,「仕上がった」というよりも「上達が飽和点に達した」ところで止めて,次の曲に取り組みます。上達の飽和点が低いところにあれば,取り組んだ曲が自分の実力に対して高すぎるのであり,その逆もあり得ます。易しい曲を美しく弾くというのも大事なことだと思いますが,なかなか言うは易しです。

で,取り敢えず,取り組んだ曲目は多くなります。
しかし,どの曲を弾いてみようにもほぼ出て来ません。案外,独学時代から弾いていた禁遊とかアルハンブラとか魔笛変奏曲とかは,ミスりながらでも何となく出てきますが,その後発表会で暗譜で弾いた曲でも出て来ません。

どうやら,記憶には短期記憶と長期記憶がある様です。あるいはその中間レベルのものもあるのかもしれません。小学生の頃に学んだ様な内容は当然長期記憶で,文字とか九九だとかは長期記憶になるのでしょう。文字を忘れて思い出せない時は,宙に手で書いてみたりすると出てきます。という事は,実際に書いたという運動行為が長期記憶に重要なことが分かります。闇雲に弾きまくって覚えた曲を忘れにくいのは,長期記憶になっているからなのでしょう。ですから,弾き込むということが重要なことは良く分かります。

しかし,この弾き込むという方法だけに頼ると,忘れにくいかもしれませんが,効率が悪い上,悪い弾き方や音の間違いまでもそのまま定着してしまいます。非常に限られた曲のみプロの様に演奏する人がいます。対象曲をものすごく弾き込んでいるので忘れようもないのでしょう。楽譜を見ずに指板なり自分の指なりを目で確認することができますので,ミスも大幅に減ります。ピアノでも鍵盤を目で確認できるのは強みでしょうから,きちんとした独奏には多くの奏者は暗譜で臨みます。

結構年齢が行った当方が考えているのは,過去に弾いた曲,いわばアーカイブのメンテナンスです。手で覚えているような曲は忘れません。一方,弾いた記憶はあっても思い出せない曲のアタマの情報としては,主調が長調か短調か,シャープやフラットが何個だったかくらいです。手は全く覚えていなかったりするので,アタマの中の譜面情報から再現しないといけません。せめて,A部分,B部分,A’部分と言ったように構造で覚えていればかなり良いでしょうが。


暗譜はあきらめていますので,ここでは,暗譜で弾くことはあまり考えず,昔弾いた曲を引っ張り出す方法について考えてみます。トータルではCD何十枚分?もの曲を弾いていても,今弾ける曲はサッパリ無いと。おそらくプロでも,ふだんコンサートのA公演・B公演分くらいは用意しているでしょうが,何年も前に弾いた曲とかは忘れているのではないでしょうか。ただ,1公演分揃えるだけでも素人には難しいことですので,プロはレベルの異なる効率の良い練習や暗譜方法をとっているのでしょう。

ただ,プロといっても誰誰とは言いませんが,そこそこのクオリティで沢山やる人と,非常に限られたレパートリーを磨き上げるタイプの人がいます。むろん質も量もすごい人は素人の想像の及ぶところではありません。その辺は素人は勿論のこと,プロでも千差万別ではないでしょうか。ですから,その辺の一般論を言っても意味がないように思いますが,記憶の性質とかには一般論も成り立つでしょうから,その辺を織り交ぜながら,全く当方の個人的事情による独断を述べてみたいと思います。

実は,その辺をプロの方に質問しようと思っていて,聞きそびれたままになっています。いわば,取り組み曲の棚卸し方法についてです。常々考えている一つの疑問です。

●古い曲から取り出したほうが良いのか?,新しい曲から取り出したほうが良いのか?
「何が良い」かの定義も必要ですので,ここでは「効率が良い」として考えてみます。

「効率が良い」とは,なるべく短時間で沢山の曲を思い出して,あるレベルまで弾ける事とします。理工学的アプローチとしては,理屈で考えることと,実験してみることです。いずれにしても大雑把な話にはなりそうですが。

まず,前者ですが,音大のカリキュラムで演奏論のようなものがあるのかもしれませんが,当方は知りません。音大出の妻に聞いても「そんなもん知らん,実践あるのみ」です。ただ妻は楽器は異なりますが譜読みを得意としており,どんな曲でも1回で済むと言っています。譜読みの速さは多くの曲を準備するのには有利そうです。

ただ,譜読みの速さと仕上がりの速さは必ずしも一致しなさそうです。譜読みは速いが完成度を上げる弾き込みに時間がかかる人と,譜読みは遅くても終わった頃には既にかなりの完成度になる人がいるようです。ちなみに私は前者の部類だと思いますが,別に練習過程をチェックされるわけではないですから,最終的な完成度で見られると後者の方が有利でしょう。むろん,トータルで要する時間にもよります。

譜読みが速く譜面を絵画的に覚えてしまえる様な人は,すぐに仕上がるでしょう。技術的に困難なところのみ練習すればいいわけですから。それに普段から基礎練習を積んでおけば,技術的に困難なところもそんなにないでしょうから,極端な話,初見で1回弾いて仕上がるとか,弾かなくても,アタマの中の譜面で演奏する事は可能でしょう。

極端な話になってしまいましたが,いかにその状態に近づけるかでしょう。そのためには,
・譜読みを速く
・譜面を完全記憶
・普段からの技術練習により,新たに練習が必要な弾きにくさを無くす

などでしょうか。

しかし,極端な話になってしまったので,中途半端な記憶の過去に弾いた曲の取り出す順番には何の手掛かりも得られません。この事に踏み込むには多少は記憶のメカニズムに触れないといけないでしょう。

もう一方のアプローチは,実験的なものです。過去に弾いた曲を同じ様な条件で弾いてみることです。過去の発表会で弾いた曲を弾いてみて再現率をチェックする。むろん大雑把な主観的印象になるでしょうが,これは時間があればできそうですので,やってみたいと思います。


今回は結論が出ませんが,現時点で上記の論考とはあまり関係なく考えていることは,
・使った楽譜はなるべく同じものにする(運指が悪くて心機一転したいものは別)。
これは譜面のイメージ情報を混乱させないためですが,そんなもの無いと言う方は関係ないでしょう。
・曲のバックグラウンド情報を充実させる。
音楽的情報はもちろんですが,曲に関する様々な情報を仕込んでおく。曲の理解にプラスになるのはもちろん,記憶にも有効でしょう。
・曲の難所対策・技術対策をしっかり行う。
案外これは記憶の確実性にもつながるでしょうし,当然演奏の自信につながるでしょう。
・レパートリーにしたい曲はなるべく早めに取り出して,期を見て繰り返し弾く。
おそらく記憶(忘却)のパターンとも関連することで,弾ける方は当たり前の事として実践されているでしょう。一応発表会でも弾いている曲というのは,少なくとも取り組み時点では確保したい曲として取り組んだはずですが,「あー終わった」で弾かなくなります。弾きすぎて飽きているのかも知れません(多分これがダメなのかもしれません。一曲執着型の人はものすごい執念で弾き込んでいるようです)。

古い曲の取り出し前後とかの議論には,曲が弾けるようになるというプロセスと,記憶がどの様に積み重なっていくのかといった,大枠の理屈に加え,弾きにくい運指をどうするかといった演奏の具体的方法論も当然必要なことでしょう。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

ひょっとしてこの様な事を書かれるのは、これまで弾かれてきた曲を集めて、Enriqueさんのリサイタルを開かれるおつもりなのでしょうか。そうであれば素晴らしいことで、是非聞きに行かせて頂こうと思います。(^^;
人間の記憶の仕組みは難しいですね。私は2~3歳の頃の事を幾つか覚えているのに、昨日の夕飯に何を食べたか直ぐには思い出せません。ギターは楽譜を見ると昔の事を鮮明に色々思い出しますが、弾く指は完全に忘れてしまっています。(^^;



by たこやきおやじ (2019-12-03 17:06) 

Enrique

たこやきおやじさん,そんな大それたことを考えてはいません。
今迄,過去弾いた曲を振り返ると言う事は殆ど無くて,「そのうち弾くだろう」くらいに思ったまま,殆ど弾き捨てにしています。すぐパッと弾ける曲が無いと言うのも何やら寂しいので,過去の曲を引っぱり出すにしても,効率の良いやり方があるのでは?と思って,いろいろ妄想をめぐらせているところです。
by Enrique (2019-12-04 00:16) 

REIKO

「ちょっと弾いて」って言われた時に、暗譜でサッと弾けるレパートリーを持つべき&持ちたい&持つにはどうすれば?…的な話題はよくありますね。
持ちたいなら、弾けるようになった曲を忘れないように弾き続けるしかないようです。最低でも一週間に1回は確認?とか。
曜日ごとに1曲決めておけば、7曲持てると言う人もいます。(でも毎日練習できるわけじゃないし…)

私もピアノ再開してからは「弾き捨て」状態ですが、それほど悪いとかもったいないこととは思っていません。
一応仕上げて録音しYoutubeにアップしたら、もう次の曲をやりたくてしょうがない…弾きたい曲がたくさんあるっていうのは、とても幸せなことだなあと。
そういうのがなくなったら、過去曲でも復習しますかね。
by REIKO (2019-12-04 20:08) 

Enrique

REIKOさん,
レパートリーにする曲は定期的にメンテナンスするというのは鉄則のようですね。「いつか又弾こう」と思ってそのままになっている曲も多数ですが,あまり振り返らずに来たという面もあります。というか,発表会などが終わると,もう弾きたくなくなって,新曲に取り組むと言うパターンですかね。
楽器は異なりますが仰っていることはよく分かります。
by Enrique (2019-12-04 21:37) 

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