SSブログ

「楽器の物理学」を読む(その1) [楽器音響]

分厚い大著です。

楽器の物理学

楽器の物理学

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2012/08/25
  • メディア: 単行本
日本で,ある分野を網羅したこの位の規模の書籍を発行するとなると,大御所が監修して多人数掛かってということになりそうです。そして,どうしてもハンドブック的にものなってしまいます。

この本の原著は,Neville H. FletcherとThomas D. Rossingの2人で書かれています。
ある分野のバイブル的名著を2人で著した方の一方からお話を聞いた事があります。大手企業の中央研究所に所属でしたが,すべての休日を執筆に充てたと仰っていました。忙しい現代,現役中に落ち着いて大著をあらわすのはなかなか大変な事なのではないでしょうか。

Fletcher氏はオーストラリア国立大学所属,Rossing氏は米国・北イリノイ大学所属。国を跨いだ共著です。
日本語訳は岸憲史,久保田秀美,吉川茂の3氏による翻訳。それぞれ得意分野の翻訳を手がけていらっしゃいます。大学の研究室などで,楽器研究を開始する学生などが読むのに良い本だと思います。

全22章から成ります。
第I部が「振動系」として第1章〜第5章で構成されます。いわゆる振動論の基礎事項がまとめられています。各論を学ぶ上での基礎事項を参照する事ができます。もちろん初学者はここから読めば良いでしょう。別途振動論の本を参照しなくても済む様になっています。

第II部が「音波」で第6章〜第8章。波動としての音の基礎を扱っています。特に第8章のパイプとホーンに関する記述が詳しい印象です。管楽器の基礎に関わるからでしょう。

第III部が「弦楽器」で第9章〜第12章。第9章ギターとリュート,第10章擦弦楽器,第11章ハープ,ハープシコードとダルシマー,第12章ピアノとなっています。ピアノが弦楽器になっていますが,音響物理的に捉えればもっともなのでしょう。

第IV部が「管楽器」で第13章〜第17章。第13章で基礎・総括的な記述の「リードおよび唇の振動による音の発生」,第14章が金管楽器,第15章リード木管楽器,第16章フルートとフルー・オルガンパイプ,第17章パイプオルガン。

第V部が「打楽器」で第18章〜第21章。第18章ドラム,第19章マレット系打楽器,第20章シンバル,ゴング,プレートおよびスチールドラム,第21章ベル(鐘)。

第VI部が「材料」で第22章「楽器の材質」です。

各章が6〜20節で構成されています。

当記事では,第9章の「ギターとリュート」に関する章を見て行きたいと思います。
この章は17節からなり,全章の中で2番目に詳しい章です。筆者らが直接ギターの研究に関わっていることと無関係ではなさそうです。とはいえ,大著のpp.235-267の33頁の記述にとどまっています。専門的に研究するには,引用されている参考文献などを当たったり,さらに新しい論文をチェックする必要があるでしょう。

次回から,同章に紹介されているギター・リュートの関する研究成果の一端を垣間見る事にします(つづく)。
nice!(13)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 13

コメント 4

たこやきおやじ

Enriqueさん

私なんぞはこんな本を買って読む気はしません。Enriqueさんの分かりやすい解説に期待します。(^^;
by たこやきおやじ (2019-10-27 10:43) 

Enrique

たこやきおやじさん,全体としては分厚い大著なのですが,基礎共通部分を除いてギターに限って言えば,記述量は大した事がないのですね。
丸々の解説は著作権問題もあると思いますので,なるべくかいつまんで重要そうな結論のみとしたいと思います。
by Enrique (2019-10-27 11:11) 

アヨアン・イゴカー

検索してみました。760ページもある大著なのですね。
音響学の本とのことで、どのようなご紹介があるか、楽しみです。
by アヨアン・イゴカー (2019-10-27 11:13) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,楽器研究の論文を紹介した専門書です。楽器研究をやるにはバイブル的な本でしょうか。
実はすでに拾い読みはしていて,過去の記事でも少し触れています。
すでにやや古いかも知れませんが,音響的な研究に関してはそう急激な展開も考えにくいので,まずはこの書籍でスタートラインに着くのも良いかなと思っています。
by Enrique (2019-10-27 11:31) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。