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楽譜の復元 [演奏技術]

楽譜は,そのまま弾くのが基本だと思いますが,特にセゴビア編の楽譜は注意深く見る必要があります。

以前,その事を記事にしましたら,出版に関わるとされる方から,「入稿プロセスからして,そんなにマチガイが沢山あるわけがない。」というコメントをいただきました。確かに一般論としてはそうなのでしょうが,セゴビア版楽譜に限っては,それは当てはまりません。大家の多忙なスケジュールを縫って出版されたそれらは,何度も校正が繰り返されるなどということは無かったのでしょうし,単なるマチガイなのか改作なのかも判然としないものもあります。

ジェラルディーノ編のセゴビア・アーカイブのシリーズがあります。
こちらにそのリストがあります。現在取り組んでいるタンスマンの作品に限っては,遺作集*と最新版のソナチネ**のみです。

オリジナル編が無い場合は,セゴビア編を土台に,一部オリジナルと思われる状態に戻すか,オリジナル編がある場合はそれをもとに,演奏困難なところなどを中心にセゴビアの解答を得るといったところが当方のスタンスです。

既に絶版になっていますが,大変有り難い楽譜がありました。故・菅原潤さんが編集した「セゴビア・レパートリー」はセゴビア版の楽譜のリプリントでしたが,その末尾には,エキスパートの方による正誤表が付いていて,自分で見つける手間が省けました。

セゴビアレパートリー(6) タンスマン/ロドリーゴ/セゴビア作品集

セゴビアレパートリー(6) タンスマン/ロドリーゴ/セゴビア作品集

  • 作者: 菅原 潤
  • 出版社/メーカー: ホマドリーム
  • 発売日: 2004/07/26
  • メディア: 楽譜
2019-03-09 08-54.jpeg

こちらには,マズルカとカヴァティーナ組曲(ダンサポンポーサ含)が収録されています***。

譜面をどんどん修正すると,一から書き直したくなるものもありますが,かといって現代のパソコンで作成する譜面も,のっぺりとしたものになり,必ずしも見やすくもないですし,それをやりだすとキリがありません。

やはり一般論を述べていてもピンと来ませんので,現在練習している,タンスマンのポーランド組曲の中のAlla Polaccaを見てみましょう。この譜面はそんなに間違いの多いものでもありません。

AllaPolacca1M.jpg
譜例1.Alla Polacca 冒頭

12小節目の低音の和音に音の抜けがあります。第3音を何か意図があって抜いたとも言えるでしょうが,不自然ですので,ここは補います。

AllaPolacca2M.jpg
譜例2.譜例1から続く部分

17小節目(この譜例では5小節目)のE音は明らかにG音ですので,修正します。これは全く単純なミスです。あり得ないですが,もしE音だとすれば,開放弦という事になります。セゴビア版の楽譜では音が間違っているのに,運指が合っている事が比較的あります。そういう例は多くは浄書の間違いですから,修正します。

AllaPolacca3M.jpg
譜例3.Alla Polacca 後半の部分

譜例3は後半の一場面です。D音が抜けているところが2箇所あります。これにはしっかり運指を付けているので,明らかにセゴビアの意図で音を抜いたのでしょう。確かにこのようにすれば,軽やかに弾けます。ただそうすれば,続く和音の同一な動きもその様にしなければ統一が取れません。もちろん繰り返しで同じように弾かなくても良い訳ですが,ここは音を補うべきでしょう。当方が持つ唯一の参照資料として,現代ギター社の1999年12月の臨時増刊「タンスマンのすべて」にもその様な記述が見えます。

ただ,2箇所の音の欠落を補うだけですが,運指は大きく変えないとスムーズには行きません。
重要でない音を抜く事で演奏が軽やかになれば,それはそれで成功といえるのでしょうが,必ずしも演奏不可能でも無い音を譜面上から抜いてしまうのは,現在では考えられないことです。

後注:

*Passacailleに関してSegovia編は確認していますがこちらは未確認なためどの程度違うか不明。
**この曲は独奏では演奏不可能なため,移調した上で二重奏にしたとのこと。
***単純ミスをチェックしているので,大きな改作やマチガイには触れられていません。
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アヨアン・イゴカー

音符の間違いがあるのは、本当に困ります。特に音程が違っているのは致命的だと思います。確認する手段があればよいですが、そうでない場合には、作曲者はどう考えていたのか、問題になります。
手許にある全音のチャイコフスキー「くるみ割り人形」(ピアノ版)「序曲」150小節では十六分音符であるべきところが八分音符になっています。この程度の誤植は問題がありません。
現代曲などで誤植があっても、見つけるのは難しいような気がします。出版社の責任は重大です。
by アヨアン・イゴカー (2019-03-13 23:54) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,おっしゃる様に明らかに分かる間違いは良いのですが,そうでない場合は,本当に困ります。悩む時間で練習時間が減っていしまいます。
シャープとナチュラルの違いや欠落はかなり多いです。
セゴビアの録音があるものはそれを聴いて確認しますが,セゴビア自身が音の省略や変更をする事も多いので注意が必要です。もちろん,ギターを弾けない作曲家が書いた譜面をギターで効果が上がる様にとの配慮もあるので,それも考慮しないといけません。
もちろん,原譜の写しなどが見られるならばそれを確認します。
楽譜をにらむ時間は必然的に増えてしまします。
by Enrique (2019-03-14 06:19) 

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