SSブログ

雑音的な話 [雑感]

Enrique.png
雑音(ノイズ)は,取り除かれる対象としてその存在が認められて来たものです。

AttributionNoncommercial Some rights reserved by duncan

元々は音声に付随したので雑音と訳されましたが,ノイズは音に限らず様々な情報に紛れ込みます。
たとえば,ホワイトノイズは白色雑音と訳されますが,「なぜ音が白いの?」という事になってしまいます。含まれる周波数分布がほぼ均等であるため,やはり様々な周波数(色)を含む白色光になぞらえてネーミングされています。ピンクノイズやブラウンノイズ*というものもあります。

雑音の種類を分類したのも,その性質を調べて如何に効率的に取り除くかという工学的理由があったからです。
アナログ信号がデジタル化された大きな理由の一つは,複製や伝送過程でアナログ信号に飛び込むノイズを極力減らすためでした。アナログ信号をデジタルにしたり(A-Dコンバート),その逆(D-Aコンバート)をするためにも新たにノイズを発生します。新たなノイズの発生を許しても,アナログ信号をそのまま扱うよりはノイズの混入がずっと減るはずだという発想でした。

そして,デジタルの時代がやって来ました。
レコードなら,何かしの前触れがあって出音したものが,突然の静寂から大音量が現れる様になりました。それまでのレコードの回転系のムラを表すワウフラッターなる数値は測定限界となりました。CDは回転していても,データを読み込んでデジタル処理するわけですから,時間信号の精度はクロックの水晶発振の精度で決まりです。

銀塩写真が無くなり,静止画がデジタルデータになりました。
動画もデジタル化され,ついにはテレビ放送もデジタル化。映画もデジタル化されました。病院でのレントゲン写真もフィルムでないので,現像時間が掛からず,医師が画面上で直ぐに判断を下すことができます。ノイズに限らず,良いことづくめの様です。

しかし,わざわざノイズの多いアナログ音源を聞きたいという人が増えています。
レコードのパチパチというノイズ。あれが良いという人もいます。確かに音楽を掛けている感はあります。デジタル時代の騎手だったDATやMDは死滅しても,アナログのカセットテープは細々使われています。

CDは売れない様ですが,生演奏はそこそこ聞かれるようです。
このごろFM放送でライブ音源などを聞いていて感じるのは,特にピアノの演奏などでは,一時期よりも演奏者は下手くそになっているのではないか?という感覚を持ちます。かつてポリーニやアシュケーナージでも,バレンボイムやブレンデルでも素人がわかるほどのミスをするなんで考えられなかったと思います。しかし,この頃の人(名前はよく知りませんが)は平気でミスります。いやギターは逆で,技術は進歩していて特に若手のプロは殆どミスりません。かつては,ピアノはミスのない完璧な演奏であり,ギターは時々ミスのある楽器という位置付けだったと思いますが,この頃はミスり量にはあまり差がない様な気がします。

下手くそになっているというのは語弊があるでしょう。
要は,個性的な演奏を求めている様な気がします。模範的演奏なら,もうとっくにいくらでもされているからでしょう。もっと言えば,きれいきれいな演奏なら,コンピュータに任せてしまえば良いからです。Maxなる音楽制作アプリを使えばどんな演奏でもできてしまう様です。音源も実際の銘器をデジタルサンプリングしたものであれば,生演奏をデジタル録音したものと,どこに違いを求めるか?人間が冒しそうなまちがいこそ,人間的で人間の行為として意味を持つという,誠に皮肉な結論になっているのではないかと感じます。

人間が弾くから,下手くそなところが良いと。間違わない演奏するくらいなら,コンピュータのほうがすごいぞと。
ギターで弦を擦る音や爪の音。なるべく少なくしようと努力するわけですが,全く出さないのであれば,トーレスかサントス・エルナンデス,ハウザーI世かブーシェの音をマルシン・ディラか藤元高輝さんに弾いてもらってデジタル・サンプリングして打ち込みで演奏させれば良いわけです。ただ,幸か不幸かギターの音はピアノ音よりも音色変化が激しく,ビブラートなどもかかりますから,打ち込みで人間的な演奏を再現しようとすれば,ピアノよりもずっと難しいことが想像されます。

したがって,ギターではもう少し完璧な演奏を求めても大丈夫なのではないでしょうか。弦を擦る音なども,なるべく減らす様努力しますが,これが全く無いと打ち込み演奏に近づいてしまいますので,「人間が弾いている感」は残さないといけません。人間が機械に太刀打ちできる訳がありませんから,逆のところで機械は人間的演奏にはなり得ないでしょう。

下手くそな演奏をすればするほど,コンピュータに太刀打ちできると,まあ逆説的な話ではあります。
静かになればサーと聞こえて来るテープヒスノイズや回路系の熱雑音。あれも録音技術の不完全さが生んだものの,必ずしも悪い音でもありません。川の流れの音や拍手の音と性質的にも変わりません。お仕着せで流されるBGMより却って良いかも知れません。

何の意味もないものということで排除された雑音までもが実は意味を持っていたのだと,まあ人間らしい営みではあります。


*ブラウンノイズは色を言っているわけではなく,ブラウニアンすなわちブラウン運動的なノイズだという事です。
nice!(13)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 13

コメント 2

アヨアン・イゴカー

写真と絵画の違いと同じだと思いました。
あるいは蒸留水と湧き水。
by アヨアン・イゴカー (2018-07-08 10:53) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
確かにその様なアナロジーは成り立ちますね。
似て非なるもの,それぞれ存在価値があってどちらかで置き換わるというものでもなさそうです。
by Enrique (2018-07-08 13:12) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。