SSブログ

演奏姿勢に関して [演奏技術]

EnriqueImage.png
演奏姿勢の重要さを痛感しています。
夢中になると,抱え込む様な演奏スタイルになってしまいます。これでは,息が浅くなるとか指板が見えにくいとか,演奏の質に関わる問題があります。

奏者により体格が異なりますので,姿勢そのものも少しづつ異なります。姿勢そのものをまねるのではなくて,その姿勢になる基本原理を学ばないといけません。それは,まず安定した楽器の保持です。

ソル以降の演奏スタイルの変遷を見てみたいと思います。

まず,ソルの教則本に出てくるスタイルです。

机に楽器をあずけるのは,リュートでも奨励された方法の様です。現在あまり使われませんが,楽器を安定させて,手を自由にするという原理は学ぶべきものです。実際チェロはエンドピンによる楽器の固定で,演奏技術と音量が各段に向上したのは承知の通りです。

一方,こちらはFernando Espiという人のタレガ作品のCDジャケットにある絵です。何時頃書かれたものかは分かりません。
Francisco Tárrega: obras para guitarra

Francisco Tárrega: obras para guitarra

  • 出版社/メーカー: Verso
  • 発売日: 2012/12/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
タレガなら楽器はトーレスのはずですが,このジャケットの楽器はラコートです。むしろソルを弾くのに相応しい楽器ですが,タレガの時代でも,新しいトーレス・タイプの楽器に世の中がすっかり切り替わっていた訳でもないかもしれません。もっとも,ジャケットの絵ですので,そう厳密な時代考証も無いかもしれません。ネック部分のリボンは,ストラップを使っているもの思われますが,ひもは見えないように描かれています。楽器の位置および構えとしては無理のない美しいものです。

むしろタレガのトーレスを演奏中の写真に見られるスタイルは,セゴビア,J.L.ゴンザレス,イエペス,ブリームら20世紀の巨匠たちのスタイルの基本になったように思われます。かつての教則本の「正しい姿勢」はタレガのものが基本だった様に思います。


つい最近まで現役だったジョン・ウィリアムス。基本に忠実な無理のない弾き方だったと思います。ただ最近出ているバッハ版のジャケットにある演奏姿勢。40年以上前のもので,撮影の角度にもよるのでしょうが,けっこう抱え込むような弾き方に見えます。彼の重度の近眼と関連するのかも知れません。ただ右手も左手もムリはなさそうです。むろん演奏には何処にもムリなどありそうには聞こえません。

J.S.バッハ:リュート組曲(全曲)(期間生産限定盤)

J.S.バッハ:リュート組曲(全曲)(期間生産限定盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: CD
当時の音楽批評では,「ジョンは楽器を支配下に置いている。」と言った良くも悪くもとれるようなコメントがあったのを思い出します。まあ演奏は,当時としては「神」,上手すぎるのでそんなコメントが出たのでしょう。演奏技術が格段に進歩した現在であっても十分通用する素晴らしいものです。当時の楽器はフレタだったでしょうか。

いつ頃からか,生まれ故郷のオーストラリアのグレッグ・スモールマンの楽器を使っていました。これは通常の楽器より非常に重い楽器ですが,演奏姿勢もよりムリのない姿勢です。バッハの録音のジャケット写真が特殊なのでしょうか。彼の演奏姿勢は,デビュー当時から殆ど変っていないようにも見えます。

Seville Concert

Seville Concert

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 1994/02/22
  • メディア: CD
指板を覗き込む様な姿勢は,上に上げた一時期のジョンや,デビュー当時の山下和仁さん,アナ・ヴィドヴィッチなどにも見られます。心なしか演奏が硬いようにも感じられましたが,息と無関係ではないかも知れません。

下の写真は,現在最も旬なポーランド出身のギタリスト,Marcin Dyllaです。


病気復帰後の村治佳織さん。
ニュースウォーカーより。

男性・女性,体格の差によっても構えは異なってきます。トーレス以降楽器の大きさは1,2cmも変わりませんが,体格の差はかなりあるはずです。小柄な女性に大男の構えが出来る訳がありません。要は楽器が安定して,右手左手が自由になる事です。ギターのお尻の中心(裏側)が,右ももの内側に付く事が現在最も主流の姿勢で,手を離しても楽器が三点支持で固定される事が基本原理です。安定した合理的な構えは,安定した演奏の基本のようにも感じられます。
nice!(8)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 8

コメント 2

アグアド

>手を離しても楽器が三点支持で固定される事が基本原理です
大萩康司さんの「11月のある日」の演奏前の構え方が理想と思われます(Youtube)。
https://www.youtube.com/watch?v=XaI4h_aU14w

以前、現代ギターに夏期講習会における福田進一さんのギターの構え方についての記事が掲載されており、そこでは、椅子に座って、左足を足台に乗せた状態でギターを両足の太もも辺りに乗せてバランスをとった後に手前に引き寄せて、三点支持で固定する方法が紹介されていました(ただし、ギターを落とす可能性があるので、十分気を付けて行ってくださいとのことです)。

それまでは、右手の肘辺りでギターを固定させる姿勢をとっており、結果として、右手の構え方が窮屈になっていたような気がします。
ギターに限らず、楽器の演奏はその構え方の基本が重要と思われ、ギター教本でのギターの構え方のイラストや写真による1ページ足らずの解説では不十分で、上記、現代ギターの記事程度の解説は必要だと思いました。
独学のリスク(危険性)は、このようなところにあると、あらためて思いました。

by アグアド (2016-11-23 21:55) 

Enrique

アグアドさん,ご指摘の大萩さんのようになるよう,心がけています。
荘村さんもかつてはタレガのスタイル(というかイエペスのスタイル)でしたが,福田さん門下大萩さんたちと同じスタイルに変わっています。福田さん門下に限らず現在は世界中このスタイルでしょう。
ただ完全にバランスをとっても,衣服の生地によってはスリップして滑り落ちることがありますので,安全をみて村治佳織さんは右腿に滑り止めを置いています。大萩さんの動画でもそうでしたね。
以前は滑り止めを左ひざに置いていましたが,右ももの方が効果的だということがわかりました。
完全にバランスが取れると,いらないのですが,演奏中ずれるということもありますので,滑り止めないしは滑りにくい衣服の方が安心です。
by Enrique (2016-11-23 23:29) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0