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茗荷亭の10年(その1) [日常]

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当方の茶室風建築物・茗荷亭が着工以来10年が経過しました。

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茗荷亭の上棟。架構部の組み上がり(2005.07.25)。
 
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別の角度から。柱建てが確認出来る(2005.07.25)。
 
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小屋組と垂木掛け終了(2005.07.31)。
 
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別角度から(2005.07.31)。
 
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屋根を葺いている頃(2005.08.21)。
 
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屋根葺き終了(2005.08.25)。
 
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壁の下材まで終了(2006.07.15)。
 
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外壁塗り完了(2006.08.10)。
スタート時点は判然としませんが,2004年の暮くらいから構想し,概略設計の後,2005年の3月頃から素材のキザミを開始し,同年7月25日に上棟しました。簡単な図面は作りましたが,ノミでのキザミの過程で構造は頭に入りました。

ネガをひっくり返しましたら,茗荷亭上棟時のものが残っていました。

構造の特徴は,伝統工法を使っていることです。「柱建て」,「折置き組み」であり,柱を貫通した太い貫を使っています。足固めは長ホゾで貫通して鼻栓留めです。屋根材や壁材の打付け,造作に一部用いた細かなものを除き,骨組みには金物は一切使用せず,木材を組み,締め付けには楔や栓を使っています。

構造の素材は,柱が間伐材のヒノキ,梁や桁の横モノがスギです。いずれもホームセンターで入手出来るものです。貫を締める楔は柱のホゾを切った端材で作り,鼻栓には樫材を用いています。樫材はホームセンターにはありませんが,何処かで端材を買い込んでいたストックです。

木材と鉄とは全く性質の異なる異素材であり,構造に用いるのはよくありません。特に現代の溶鉱炉で製鉄された鉄は耐久性が悪いので,木材よりも先にダメになってしまい,せっかく長持ちする木材を使っても建物の寿命が鉄の寿命で決まってしまいます。それから,強度のバランスです。極端に言えばヌカに釘の様なもので,鉄だけ強度的に持っても木材のほうが折れたり割れたりしたら元も子もありません。長く使う楽器や良い木製家具には釘やビスは使わない事からも分かります。

さて,2005年の7月25日上棟当日は,助っ人の若者3人に加え,プロの住宅メーカーの人が面白がって手伝いに来てくれました。何分構造が単純ですから,イからホまでの一番番付の柱,梁,貫を含むフレーム,同様に三番番付のフレーム,同様に五番番付のフレームまでを庭で組んで奥から並べ,前後を足固めと上部を桁で連結するという分かりやすい作業です。小さな構造物と言え,コツコツ数ヶ月掛けて刻んだ材料が,次々と組み上がって行く様は実にやりがいのある作業です。

正確に刻んでいても,木材自体の反りやねじれがありますから,最後のはめ込みの多少のゆがみはバールなどで矯正して収めました。地上3メートルほどで梁や桁に乗って掛矢を振るうという,実に男らしい作業です。足場は一切使いません。伝統建築の特徴である丈夫な貫が足場の役割を果たします。構造への上り下りは大小のアルミ製の馬のみで全ての作業を済ませました。朝普通に始め,3時頃には構造が出来上がり,小屋まで出来たと思います。彼らにご祝儀を出し,夜は祝宴をしました。

翌日からは1人作業になります。適宜構造のゆがみを直しながら,貫に楔で固定して行きます。何分,屋根の垂木を除いて斜めモノは一切入れていないので,全て四角形ですから,平行四辺形に成らない様に,平面,正面,側面とも念入りに調整します。対角線が等しくなる様に,調整します。ロープを対角線に掛け,ねじねじと捻ってしぼる事によって長い方の対角線を縮めます。「建て入れ直し」という作業です。屋根や壁を張る前にこれを入念に行いました。

この建物を建てたと言うと,何で勉強したの?と聞かれることがありますが,さして勉強はしていません。

まずは素人が建てる経験記で,私が最初に読んだ家の手造りに関する本です。

日曜大工で我が家を建てた (MAN TO MAN BOOKS) 素人でも出来るという自信にはなりましたが,ツーバイフォー建築なので構造面では参考になりませんでした。この方は,在来工法は難しいので,アメリカで発達したシロウト向けのツーバイフォーでやったと言う話です。実際に住む大きな家を建てるならば私もこの方法をとったかも知れませんが,何分小規模な,趣味の「離れ」もしくは「茶室」ですから,在来工法どころか,伝統工法をやろうと言う訳です。

確かに,ツーバイフォーならば,丸鋸と釘打ちで短期間に出来そうですが,面白みがありませんし,当然茶室には向きません。そこで,子供の頃見た,在来工法の建て方のプロセスを思い出しながら,以下の書籍で勉強しました。

「木組の家」に住みたい!―無垢の木で丈夫な家づくり 構造面の考え方で役に立ったのが,この本です。木造で建てるからには,その良さを活かした伝統的な構造でなくてはいけないという,そのコンセプトに大いに共感もし,図や写真が大いに参考になりました。

木造建築技術図解 一方,本格的な方法から簡便な方法まで網羅されていて,全体の構造から細かな内装の造作面まで参考になったのが,この本です。どれか一冊となると,これになるでしょう。


ただ,何分現在普通の建築では用いられていない柱建てなので,足固めや大引きの配置などに関しては,オリジナルにやったところがあり,少し反省点はあります。一年余りで,外壁まで完成,残るは内装です(つづく)。
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コメント 10

アヨアン・イゴカー

家を建ててしまう、こういう技には本当に感心します。素晴らしいですね。
昔は、村でお互いに家を建てるときには助け合ったのだと思いますが、今ではそんな助っ人を探すのもなかなか大変ではないでしょうか。
小学生の頃、兄が庭の土を掘って塹壕のようなものを作り、その上に篠竹などを渡し土を掛けて秘密基地を作りました。あの時の興奮は忘れません。
ご自分で立てられた数奇屋、さぞかし達成感が大きかったのではないでしょうか。
by アヨアン・イゴカー (2015-09-23 10:47) 

プー太の父

なんですか今日の記事は、すごーく驚きました。
10年かけてここまで作ったのですか
途中で気が変わらないで頑張ったのですね。
頑張ったというより楽しみながらでしょうか
私は工作とか作ることが大苦手なものですから
そのへんの気持ちが分かりません、スミマセン。

by プー太の父 (2015-09-23 18:30) 

majyo

いゃあ、ビックリしましたね
お庭が広いのはわかっていましたが
茶室があり、それも作った? しんじられなーい
2006年に完成ですから、今はお茶を楽しんでいるのでしょうか
今日、こちらを他の方にご紹介しました。
びっくりするでしょうね。
ギターを再開されたようなので・・・
by majyo (2015-09-23 18:54) 

miya_syou

Enriqueさん。
Majyoさんから紹介頂き伺いました。
私が最近26年振りにギターを(エレキですが)始めたという事を知り、クラシカルギターをされているEnriqueさんを紹介されました。
私は昔からほんとに趣味程度の領域ですが、これからまた新たな領域に入って行けたら楽しみだなとワクワクしております。
宜しくお願いします。
by miya_syou (2015-09-23 21:42) 

シロクマ

ゆーっくり気持ちを込めて建てた分、自ずと自然に溶け込めた雰囲気がありますね、ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず…。いずれゆっくりと自然に飲み込まれて味か出てくるのが楽しみな感じですよ。
by シロクマ (2015-09-25 03:11) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,ありがとうございます。
私が子供時代古家を新築した時,父が簡単な設計をして,大工さんに依頼していました。棟上げには沢山の人が手伝いに来ました。民家に重機は一般的でない頃ですから,大きな太い中引き梁でも人力で滑車で上げていました。父は,自宅に限らず他所の家まで何軒も建て,私も手伝ったこともあるので在来の工法はある程度頭に入りました。そのせいか,私には一般には簡単と言われるツーバイフォーよりも,在来軸組の方がずっと分かりやすかったのです。かつての田舎の人たちはそこそこの木造建築の知識はあり,大工の棟梁の指図のもと,大きな民家でも人力のみで建てることが出来ました。
現在では仕事が専門化しているため,実感が薄いと思いますが,原初的なすみかを作ると言う行為は誰もが子供の頃から本能的に持っているものだと思います。
by Enrique (2015-09-25 06:07) 

Enrique

プー太の父さん,ありがとうございます。
ここの最後の写真は,約1年後の外壁まで終わったところですが,まだ内側はバタバタで簡略な水屋も付いていません。外壁も正面以外は塗ってなかったと思います。
余りにも時間が掛かるとみっともないので,正面だけハリボテで整えたものです。まで,丸2年掛かり,その後さらに数年掛けて形にしました。ようやくここ2,3年は余り手を入れず,たまに茶室としても使っています。気の長い話ですね。
by Enrique (2015-09-25 06:16) 

Enrique

majyoさん,ありがとうございます。
>茶室があり、それも作った? しんじられなーい
確かに,ここ10年来,中々茶室としては認めて(信じて)もらえませんでした。私がシロートですので,お隣の奥様などはバラックだと思ったらしく,建て出した直後,「何時処分されるのですか?」とまで聞いて来ました。ウチの妻も「物置き小屋」と呼んでいました。数年後以降,建築プロの方や茶道師範の方もお目見えして,ようやくそれなりに認めています。
>2006年に完成ですから、今はお茶を楽しんでいるのでしょうか
2006年時点では外側だけのハリボテで,中はバタバタでした。作り付けの水屋もありませんでした。2012,3年頃からようやく,使えています。
ギターのブログが茶室建築ではシャレになりませんが,同じ木材で出来た楽器とも多少は関係するかな?と。
by Enrique (2015-09-25 06:28) 

Enrique

miya_syouさん,はじめまして。
エレキを再開されたとのこと,ご参考になるかどうかは別としまして,ご厚誼の程お願いします。
チューニングは共通ですし,ご先祖は一緒の楽器です。弦の測定用に電気ピックアップを手づくりした事もあります。直接の演奏のご参考にはならないと思いますが,楽器の音響に関する事等で何かしらと思います。生楽器では弦の振動はボディで加工されて音になりますが,電気楽器では弦振動を直接拾うのが特徴だと思います。
by Enrique (2015-09-25 06:36) 

Enrique

シロクマさん,ありがとうございます。
>ゆーっくり気持ちを込めて建てた分、自ずと自然に溶け込めた雰囲気
確かに,何分手造りしていますと,急速には作れませんので,木や草の成長の方が早かったりします。続報では,さらに現在に至る過程をお見せします。
by Enrique (2015-09-25 06:41) 

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