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弦の伸びの定量的測定~伸び速度の見積もり~ [楽器音響]


前記事で,弦伸長測定器による測定データを公開しました。いずれの弦の伸びも時間の対数でほぼ直線に載りました。

このことは,厳密に言えば弦の伸びは決して落ちつかないということですが,実験式が得られたことにより,実用的に十分落ちついたと言える範囲に入るにはどの位の時間が掛かるか?を見積もる事が出来ます。

各弦の伸びを表す,グラフ中に示した実験式を以下に再記します(単位はのびがmm,時間は秒)。

ΔL = A ln(t) + B

ここの定数A,Bは各弦について異なっていて,以下の様になりました。

ナイロン弦の伸び速度を決める定数
 弦   A  B
 ① 1.1254 54.953
 ② 1.9393 42.938
 ③ 1.9519 27.994
 ④ 1.0584 21.938
 ⑤ 0.8378 36.310
 ⑥ 0.5265 54.953


伸び速度を求める為に,上式を時間で微分しますと,
d(ΔL)/dt = A/t
となって,伸び速度[mm/s]はグラフの傾きAに依存して経過時間に反比例して減少する事が分かります。

この伸び速度がどの程度にまで低下したら落ちついたとみなせるか,これは感覚の問題ですので,客観的な指標を決めます。はっきりと音のズレが分かるのが5セントくらいと言われています*。これはもちろん,全弦同じ様に変化すれば分からないと思いますが,弦毎にずれたり,アンサンブルで他楽器とずれると気持ち悪くなります。

弦の伸び速度の許容値というのは,「一定音程のずれ」に対応するのと,「一定の巻数」に対応するのと2通り考えられます。巻き取り量と音程変化が完全に対応していれば,どちらを用いても良いわけですが,弦により同じ巻き方でも,音程の変わり方が異なるのでした。

音の変化で見るか,巻き取り量で見るか。本来は前者ですが,弦毎に異なっては扱いにくいので,後者を用いる事にします。

それでも一応は音程と対応付けしておきます。平均的に一回転が半音に対応すると仮定しますと,5セントというのは1/20回転,ホンのちょっとくいっとやったくらいです。

1/20回転に相当する巻き取り量は,私の楽器では1回転が9.6π / 14 = 2.15mmでしたから,その1/20で,0.108mmです。

この伸びが,1時間で起こる程度でしたら,十分落ちついたとみなせるとします(実際には1時間弾きまくれば,いろいろな要因でこのくらいの調弦はずれるでしょう)。対応する伸び速度は,
3600秒で割り算しますと,0.000030mm/s(=30nm/s)となります。この速度に達する時間は,微分した式を使って,

A/t = 0.00003

とおけば,この伸び速度に達する時間は,

t = A/0.00003

と求められます。①弦の場合ですと,相当する時間はA=1.1254なので,37600秒=10時間26分40秒ほどになります。これは比例計算ですので,1/10の落ち着き(6分で1回くいっ)で良ければ,1時間ちょっとで,逆に10倍の落ちつきを要求すれば,4日強掛かる事になります。

この計算を全弦で行った表を以下に示します。

ナイロン弦の落ち着き(規定速度到達)時間
 弦  到達時間[秒]
 ①  37600
 ②  64800
 ③  65200
 ④  35400
 ⑤  28000
 ⑥  17600

①〜③のナイロンモノフィラメントの高音弦の落ち着きが悪い事が分かります。特に,②弦③弦は悪く,丸一日は置かないと所定の伸び速度にはなりません。さらに注意事項としては,これは一定張力下での測定ですので,楽器の場合なら,常に規定調弦に合わせ続けたという状態に相当します。張って放置しておいても自ら伸びて張力は低下しますので,この結果よりもさらに時間は掛かるはずです。下図にそのイメージを示します。

ひずみと巻き.png
   張力一定の場合と,ひずみ一定で緩んで巻き上げる場合(楽器の場合)との比較イメージ。

ナイロン弦は,ずっと伸び続けますが,その伸び速度は時間に反比例して遅くなります。これが一般原則ですが,さらに弦によってその変化速度が異なる事もあり,人による感覚差が著しいのだと思います。

*http://ja.wikipedia.org/wiki/音高
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