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弦の伸びの定量的測定~測定装置の製作~ [楽器音響]

先日から,弦の伸びに関して,巻加減による音程の変わりぐあい,などに触れて来ました。

ただ,おそらくは一番の関心事項であろう,ナイロン弦はどのくらいで伸びが収まるのか?あるいは伸び続けるのか?この疑問解消には至っていません。

以前,アクリル製の光ファイバーが見た目ものすごくクリアでキレイなので,すごく良い音がする様な気がして(ギター弦にするとは言わずに),メーカーの方にサンプルで少しいただいて,張ってみたことがありますが,餅の様に延々伸び続けて全くマトモな音程に至りませんでした(残念!)。光学特性と機械的特性が両立するわけが無いので,我ながらアホな事をしたものです。

高分子と言っても,当然素材によって異なる上に,おそらく,同一素材であっても結晶化度の相違などで伸び特性は全く異なるものと思います。結晶化度は冷却速度によって変わりますが,そこは弦素材メーカーの秘中の秘です。というか,職場の高分子の専門家に言わすと,製造ノウハウはその芯鞘構造(弦の太さ方向で高分子の結晶度をどう変えるか)だけだそうです。ナイロン66という同じ素材を使っていても弦メーカー(素材メーカー)によって,音が微妙に異なるのは,紡糸の際の冷却速度の差に依るようです。

伸び具合を調べるには,ナイロン分子の変形機構に踏み込まないといけません(今まで定性的な現象論でお茶を濁したわけです)が,これを解明するのはナカナカ大変そうです。ちょっと調べてみますと,分子の振る舞いから計算する分子動力学法という解析手法で調べている専門の研究者もいて,かなり大変そうです。研究段階ですから,現物とよく合うかどうか?もあります。

もっとも,楽器弦としてはどうか分かりませんが,繊維や釣り糸の力学特性として,そういうデータは基本的なものですので,取られてないわけがないと思うのですが,手に入らない以上,ここは,現物で実測するのがイチバンです。といっても,楽器に張ったのでは感覚的となり客観的なデータになりませんので,ちょっと考えます。ここでは,一定荷重をかけた状態で,伸びを測定する事にします。一番測定が簡単な上に,基礎データになると思います。

実際に楽器に張ったように測定するというのも一つの考え方ですが,そうすると,

楽器に弦を張って一定のピッチにチューニング ⇒ 伸びる ⇒ 張力が下がる ⇒ 巻いて一定のピッチにチューニング 

の繰り返しですが,これを一定時間毎に随時繰り返せたらまあ,データは取れるでしょうが,チューニングにもたついたりするとあまり良いデータにはならないでしょう。正確な測定の為には,所定の音程(近似的には張力)で一定になるように巻き取りを自動制御させて,その時の弦の巻き取り量を記録させないといけません。これで実用的なデータは取れるでしょうが,装置が大変です。

一番簡単な方法として,一定荷重のおもりを付けて,時間毎の伸びを測定する事にします。これならば,張力が重力で一定に保たれます。

先日から密かに休日を利用して作製したのが,以下の装置です。名付けて,「重力式弦伸長測定器」。


以下にその仕様や特徴を列記します。
・フレームはツーバイフォー材でがっちり組んでいるので,楽器よりも丈夫だと思います。高さ1000mm,フレーム幅300mm,直立安定性のために,足がついています。

・上部の弦固定部はなるべく変形しないように,樫のブロックを埋め込んでいます。また弦の端部は,自作のチップを使用して処理しています。


・弦のもう一方は,やはり自作のチップで処理した樫製の可動駒に取り付けられ,これがレールに沿ってスケール上を滑り落ちながら移動量を表示します。張力印加部は,もう一つの樫製の可動駒に取り付けられた天秤状のビームの左右に上皿(上篭)をとりつけています。


・この上篭部に,おもりとなる鉄板を載せます。なお,本体には家庭用寒暖計を装備し,室温を常にモニターします。


・表示部をビデオ撮影して,スケールの目盛の読み取りと時間の測定の正確化と測定の省力化を図ります。


この装置で測定したデータは以後公開する予定です。

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コメント 6

Hagi

素晴らしいです。男のロマンを感じます。
重力を利用して張力を一定に保つ発想がエレガントですね。
by Hagi (2014-06-10 06:28) 

Enrique

Hagiさん,過分にホメていただきありがとうございます。
>男のロマン
確かに妻の反応は,装置に取り付いているワタシを横目に「ピアノ弾くのにジャマだから明日まで片付けといてね。」というものでした。なんとか測定データは取得します。
by Enrique (2014-06-10 07:40) 

Ujiki.oO

 おはようございます。 そして「ありがとう!」ございます。 本当に言いたかった事をコメントして下さったので・・・・・ 救われる気持ちです。 記事を公開してから、情けないことに少し落ち込んでいました。(笑) いつもなら記事を投稿すると何かが、どこかが、排泄時の気分で「すっきり」するのですけど(言語選択ミスに失礼!)
_(_ _)_ 今回は、どこか隠してきた自分の傷に自らが触れた模様でした。 コメントのお陰で先に進めそうです。 明るい、軽い、話題を投稿できそうです。(笑) コメントには本当に感謝します。 これからも宜しくお願い致します。

http://create2014.blog.so-net.ne.jp/2014-06-09#comm201406110617
by Ujiki.oO (2014-06-11 09:53) 

Enrique

Ujiki.oOさん,御記事拝見して,私の場合は運よく私の父・母は世間様ほどには苦労しませんでしたが,妻の両親,それから自分達自身はこれからの身ですし,本人はいざ知らず周りの心労たるや想像を絶しますので。。。臭いものにフタの考え方には賛同出来ません。むしろ社会の重要な仕事として取り組んでいかねばと思った次第です。
by Enrique (2014-06-11 23:49) 

アヨアン・イゴカー

>上部の弦固定部はなるべく変形しないように,樫のブロックを埋め込んで
本格的な装置で、楽しそうです。実験装置は、理論を確認する為の必需品だと思いますが、こういう道具の作成技術もお持ちなのですね。
by アヨアン・イゴカー (2014-06-15 12:40) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
物置きにガラクタを取っているので,こういう時に役に立ちます。
可動コマがはまるレール部分は,古い製図板のT定規が当たる場所を外したもの,樫の材は茶室を建てたとき鼻栓にした素材,おもりのカゴは100円ショップのものを折り曲げて作りました。おもりに悩みましたが,10cm角の鉄板利用で1500円ほどの出費でした。
by Enrique (2014-06-15 13:56) 

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