SSブログ

拍手・雷・銃・スイカ [科学と技術一般]


たしか,「地震・雷・火事・オヤジ」という言葉があったと思うのですが,タイトルに挙げた「拍手・雷・銃・スイカ」にはどんな共通項があるのでしょうか?

オリジナルは,こわいものを列挙したものだったのですが,それでも最後のオヤジに関しては,大体恐いオヤジなんていなくなりましたから,オヤジだけ異物と思われかねません。

さて,本題ですが,「拍手・雷・銃・スイカ」の共通項はというと,中ふたつは恐いですが,前後は全く恐くありません。それどころか蠱惑的ですらあります。

そのココロは,いずれもインパルス音に関わるものだということです。インパルスというのは衝撃関数と呼ばれるもので,幅がゼロで高さが無限大の信号です。その値(面積)を1と定義します。もとは理論物理学者のディラックが発明したものですが,通信伝送や音響工学で基本的な入力として使われます。

ゼロと無限大を掛け算したら不定形では?確かにいきなりやればそうですが,0.1×10=0.01×100=0.001×1000= ....= 1 と言うように掛け算が1を保つ様に極限操作します。面積を1に保ったまま,幅を無限小にすると高さは無限大になるわけです。この様子を下図の左側(時間特性)に示します。同図の右側は,対応する周波数特性です。
Impulse1.png

こんな変な信号なのに,何故基本的な入力になるかと言うと,上図で見るように,幅がゼロで,高さ無限大の理想的なインパルスでは,周波数スペクトルがフラットなのです。すなわち,周波数が0~∞の信号,すなわちあらゆる周波数を持つ信号が一瞬に含まれるわけです。

そして,この信号の入力に対する出力をインパルス応答と言って,その系の基本的な特性を表します。

いわば,「拍手」を一発ポンとやると,近似的にインパルス音になります。そしてその応答(響き)が,近似的にその部屋やホールのインパルス応答という事になります。

じっさい精密にホールのインパルス応答を測定する際は,文字通りインパルス放電,いわば人工の「雷」により発生させています。放電を使う以前は,火薬を炸裂させていたそうで,弾は出さないですがいわば「銃」,運動会のスターターピストルの様なものです。

セゴビアは,コンサートホールで弾かれる事の無くなったギターをリバイバルした人ですが,未知の会場で演奏する場合は,ポンポンと拍手してみて会場の響きを確かめていたということです。実際弾いてみれば良いではないか?という事になりますが,近似的なインパルス応答の確認ならば,楽器が無くても一瞬で済みます。

あとは「スイカ」ですが,あれは花が咲いて受粉してからの日数で分かるらしいですが,最後熟れているかどうか,空洞果かどうかは,ポンポンとたたいて見るのがいちばん簡単です。良く熟れた状態の音を長年の経験で覚えていれば,非破壊検査?が可能です。それぞれ入力側と出力側のインパルスとインパルス応答を模式的に示しました(カッコ内はそれぞれに対応する周波数特性です)。
Impulse2.png

それから,上で挙げたような勘と経験に頼らなくても,ホールのインパルス応答が測定されていれば,そのホールで任意の演奏がなされた場合の響きを,原理的に再現することが出来ます。

実は,インパルスと言うのは,任意の波形をサンプリングする(特定時刻の値を取り出す)という性質があり,また逆に任意の波形は,インパルスの集積で表わすことが出来ます。これはアナログ波形について原理的に言えることなのですが,現在のデジタル音源というのは,文字通り元のアナログ音をサンプリングして,インパルス信号の離散的な集積と言えます。そのため,このような処理はコンピュータ上で容易に行う事が出来るので,実演してみなくても容易にホールでの演奏効果を確かめる事が出来るようになりました。そのため,かつて作ってみなければわからないと言われたホールの設計・解析がかなり容易になったとのことです。下の図は,その様子をイラストで示したものです。
Impulse3.png

まず,インパルス音を発生させて,ホールのインパルス応答を測定します。ホールのインパルス応答さえ分かれば,どんな楽器音あっても「インパルス」を重みづけしてずらした形(上図内左下の波形)で表現できますから,実際にそのホールで演奏しなくても,その楽器音がそのホールで演奏された時の響きを,「インパルス応答」を重みづけしてずらした形の集積(同右下の波形)で得ることが出来るわけです。数式を使わずに説明したので,分かりにくいかもしれませんが,雰囲気はお分かりいただけると思います。

ここで挙げたのは,音的なインパルスとその応答の話でしたが,このことは通信伝送の電磁波(や光)は勿論のこと,物質の「分析」にも使われています。実はこれも入れたかったのですが,ゴロが合わないのでやめましたが,試料を電子ビームで叩いて,そのインパルス応答と言うべき(出て来るX線など)を調べて,含まれる物質を同定するのが分析の実体です。

ポンと叩いてみて反応(応答)を調べるというのは,かなり広く使われる測定原理だというのがわかります。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0