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岩本恵理さんのCDを聴く [演奏批評]

ポーランド在住の岩本恵理さんのシマノフスキとアンディ・ハリスの「ウェイスト・ランド(荒地)」を聴きました。

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前の記事にありますように,岩本恵理さんとは9月にポーランドでショパンの野外コンサートを聴いたご縁です。ワジェンツキ公園でのショパン演奏が素晴らしかったので,ぜひCDをと思い,国内で注文したところ品切れになっていましたので,直接岩本さんに連絡して送っていただきました。ちょうど私がメールしたとき,ウッジ市長さんらと来日中だったようで,ポーランドに帰ってから措置するとのご返事でしたが,その後すぐにCDが届きました。何と奈良のお母様から送っていただいたのでした。この場を借りて,お礼いたします。

シマノフスキの方から先に聴きました。これは,ただただすごい演奏で,ポーランドの音楽誌などが絶賛しているのもむべなるかなです。改めて感想を(可能ならば)述べたいと思います。一方,アンディ・ハリスの「ウェイスト・ランド」は現代曲ですので,少し難解な先入観を持っていました。また4手連弾というのも正直,怖いもの見たさ(笑)でしたが,むしろシマノフスキよりも聴きやすいかもしれません。聴いた印象が新鮮なうちにこちらの感想を記しておきます。

なお,岩本さんのページで試聴できるほか,ナクソスでもできます。

Wasteland(全5作)
Wasteland 1 高音のオスティナート状の伴奏が鳴っている中,低音・中音で旋律が始まり消えていきます。
Wasteland 2 音の間を確かめるような高音のメロディ。後半に向けて情動があるようです。
Wasteland 3 Wasteland 1のものに良く似た伴奏が中音に移って,高音のシンプルな旋律が非常に印象的です。これは,有名人気曲になっても良いように思いました。
Wasteland 4 重音のアルペジオで開始され,ドローン的な和音上に音の間を聴く感じのメロディがちりばめられます。盛り上がって終了します。
Wasteland 5 3番が戻ってきたかんじがします。静かに消え入ります。
各曲は古典音楽ではありませんので,それぞれの形式感は余りありませんが,以上5曲でABACA形式の様になっているように感じました。おしゃれなミニマル音楽という感じで,かけながら仕事をしていても気になりません。決して押しつけがましくありませんので,じっと聴いても聴きづかれしません。1998年の作。作曲者がもっとも辛かった時代の作とのことですが,深刻さはあまり感じられません。

Preludes- Mirror and Images(全5作)
I. Statement Of Subject(1995) 何かのどかな,ベース,Fis,D,Eの繰り返し上で繰り広げられる,ジャジーな高音のメロディがおしゃれです。
II. The A Priori View(1995) こちらもやはりジャズっぽい伴奏が重なり合うように動き回りますが,あっという間に終わります。
III. Skating On Thin Ice(1994) 文字通り,冷たいキラキラした繊細な感じがしますが,情景をスケッチしているというよりも心象風景なのだろうと思います。氷が割れたのか?と思うような音で終わります。
IV. Centrum(2001) ワルシャワのツェントゥルム(文化科学宮殿などがある中心部)の混雑状況を表現したものだそうです。リズミカルでどこかユーモラスです。
V. Statement Of Image(1995) 暖かい感じの穏やかなミニマル風な伴奏に乗って,やはりジャズ・セッション風。

Preludes- Lines(全3作)
I. Coverging Lines(1993) もっともミニマル感のある曲だと思います。「これでもか,これでもか」と息の長いクレッシェンドの末,終了します。
II. Contrasting Lines(1995) 耽美的でやや不安げなスケッチと,リズミカルで活発な部分とが対照的に交互に現れます。
III. Parallel Lines(1999) まるでテクノポップの様な曲です。列車に乗っている気分,現代生活のせわしない感じもあります。ミニマル感が強調され突然終わります。

The Silence of Peace(全7作)
I. Sunrise
II. The Colours Of The Earth 1
III. Waters Blown By Changing Winds
IV. The Silence Following Great Words Of Peace
V. And There The White And Golden Birds Go Flying 
VI. The Colours Of The Earth 2
VII. Sunset Over Scyros

以上7曲は,作曲者が子供時代に弾いていた和音を用いたという,非常にシンプルな構成で,"The Silence of Peace"と名付けられています。殆どがI, VII, VI, VII, Iの和音の繰り返しの様です。第1曲,まさに日の出を思わせる神々しいような美しさがあります。第2曲は,和音が共通だから第1曲のヴァリエーションの感じです。第3曲はやはりヴァリエーション的で動きがあります。第4曲も第1曲のヴァリエーション的。第5は子供があそぶような動きです。1997年4月に全曲一夜で書きあげられたものだそうです。

The Scenes from Nature(全2作)
No. 1. Rushes
No. 2. By The Water's Edge

この2曲を事前情報なしで聴いたら,全く現代の作曲家の作品とは思えないはずです。作曲者が青年時代にシューマンの「子供の情景」を勉強していた時に書いた独奏曲を後に4手連弾に書き直したものだそうです。第1番は少しコンテンポラリな感じもしますが,第2番はまさしくこれシューマンです。

4手連弾ということで,何となく沢山音がある連弾を想像していましたが,重層的な音の重なり合いというのはほとんどなく,余白を楽しむかのような音楽です。いわば4手連弾という大きな自由度を持ったキャンパスに,水彩画を思わせるように描かれるきっぱりさっぱりとした音世界でした。まるで1人で弾いているかのような自然さ,純粋さは,大変な名手のお二方の手によるところが大きいのだと思いました。

このCDで岩本さんの相方をつとめるピアニストは,タマラ・グラナト(Tamara Granat)さん。既にキャリア豊富なポーランドピアノ界の重鎮の方の様です。

作曲者のアンディ・ハリスさんは,イギリス生まれの作曲家・教育者ですが1992年に1年間の予定で滞在したポーランドのクラクフが気に入り,ずっと住みついて活動されている方です。

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アヨアン・イゴカー

各曲にコメント、素晴らしいですね。
演奏者にとっても、作曲者にとっても、こういう反応は何よりも嬉しいと思います。
by アヨアン・イゴカー (2013-12-08 12:06) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
もともと余り聞く方ではないのですが,最近CDを聞く事がめっきり減っています。あちこち溢れていますので。しかしながら,やはり何かのきっかけで購入すると,マジメに聞くのかなと思います。
by Enrique (2013-12-08 16:58) 

森のharmony

Enriqueさんの記事を見て、webで試聴し、Wastelandを購入しました。なかなか良いです。紹介して戴き有難うございました。
by 森のharmony (2013-12-09 17:11) 

Enrique

森のharmonyさん,コメントありがとうございます。
この記事がキッカケになれば何よりです。
by Enrique (2013-12-09 19:24) 

Erissimo

これほど細かくCDのコメントを頂いて、嬉しいを通り過ぎて感激です。こちらのCDは依頼を受けて録音したものなのですが、弾き始めた当初と弾き込んでからとでは随分曲に対する解釈が変わりました。クラシックというよりは、映画音楽に近いかなと思います。
by Erissimo (2013-12-11 06:17) 

Enrique

Erissimoさん,コメントありがとうございます。
他の方のコメントにも記しましたように,最近あまりCDを聞く機会が無かったのですが,何かのキッカケで購入するとマジメに聞くようです。
「現代音楽」と聞いて,ついつい「ワルシャワの秋現代音楽祭」で演奏されるようなエキセントリックなものを想像してしまうのですが,こちらは,殆どポピュラーの様で,正直驚きでした。クラシックギターの世界でもポピュラーとの境目くらいの曲は人気が高いので,こちらの曲も良いのではないかと思いました。
by Enrique (2013-12-11 12:30) 

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