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曲の難所について考える(4)~具体例その3~ [演奏技術]

実際の曲の難所について,具体例を見ています。

具体例第三回目は,ジョン・ウィリアムスが映画「ディア・ハンター」で弾いた「カヴァティーナ」です。この映画に関しては私が説明するまでもないでしょう。

この曲は,実に落ち着いた美しさです。楽譜もシンプルに見えますから,やはり弾いてみたくなる曲ですが,正確なセーハの技術が必要であり,まずは「禁遊」のホ長調の後半部がきっちり弾ける左手の技術が要ります。「禁遊」のホ長調部分は繰り返しダカーポ入れると全体の4割ですが,こちらは全体通してホ長調で,余り休めません。如何にも大変そうだと,残念ながらこの曲に取り組む技巧に達していないということでしょう。セーハ等の基礎練が必要です。結構キツいのですが単に力技でない柔らかな技巧が求められます。「武士は食わねど高楊枝」的な境地が必要です。

具体的には,シンプルで息が長いメロディを如何に自然に歌わせられるかに掛かっています。ゆるやかなアルペジオも重要な役割を担っています。メロディをアポヤンドでしっかりと鳴らしてそれを十分意識しながら,丁寧なアルペジオでニュアンスを付けるというコントロール技術が必要と思います。アルペジオも押さえたままでは弾けないところがあちこちあり,左指の独立性も求められます。

通しで小難所の連続ですが,最大の難所はというと,このあたりでしょうか。下の譜例第2小節目(曲頭から31小節目)です。
カヴァティーナ難所30.png

高揚した気分を確かめながら徐々に冷ます箇所とでもいうか,非常に美しいところであり,ここで音が出損なってしまったら,魅力激減です。

この指定の運指では余程左手が出来ていないと難しいのではないでしょうか。私はかなりきついです。

ここを乗り切るために,斜めセーハという方法もあります。2,3指はそのままでベースの⑥弦シの音を押さえている1指を斜めもしくはやや曲げて,次に出てくる①弦ド♮音を指の付け根で押さえる方法です。最近はあまり見かけませんが,記憶が確かならば昔の現代ギター誌の解説ではそうなっていたと思います。こうすれば拍頭のコードを指定音価(以上)に保つことが出来ます。

この曲は全般に左手がきついのですが,理由の一つはセーハの多さです。前々回紹介した「禁遊」のホ長調部分16小節の内,セーハを含むのは9小節で,半分強でしたが,前半のホ短調部分では16小節の内の4小節のみですので,ダカーポを考慮すると,30小節/80小節 で全体のセーハ率は37.5%でした。この曲は,全体がホ長調で,余り開放弦を使えないため,セーハを含む小節(ダカーポを考慮)は42/87。しかし,上で示したような斜めセーハや,実質的にはセーハ,あるいはそうした方がつながり易い箇所を入れると,あと2~3小節ありますので,これを2小節として繰り返しで4小節,セーハ率は46/87で半数越えで53%です。調がゆらぎセーハのバリエーションも多いですから,同じホ長調とはいっても,やはり「禁遊」のホ長調部分よりも更に上級曲と言えます。

全体が難しく「ここを乗り切れば何とか」と言う訳ではないのがこの曲の大変なところです。技術的な余裕十分で弾かないと,この曲の静謐な感じが出ません。そして,「上手に弾けば弾く程易しい曲に聞こえてしまう」という,ある意味大変ソンな曲でもあります。
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黒板六郎

この曲もジョンにだまされました。もともとダビングなんで、映画のまんまは不可能ですが、それでもできるだけジョンに近づきたい一心で、練習しました。挫折しました。わりにあわない曲ですねえ。まったく。昭和55年の現代ギター増刊号買って必死こいたこと、懐かしく思い出します。
by 黒板六郎 (2013-11-06 21:01) 

Enrique

黒板六郎さんコメントありがとうございます。
サウンドトラックは二重録音ですかね。この曲独奏ではやや無理があるのですね。最初から大変ですから,「禁遊」のように前半だけ弾いてみるという訳にも行かないですし。この曲弾きたい一心で,ギター習う人もいます。全般的に何かギターって弾けそうな気がしてしまうのですね。

by Enrique (2013-11-06 21:42) 

Hagi

31小節の拍頭4分音符が音価通りに伸ばせないので、どうしたら良いのかとモヤモヤしていましたが、1指の斜めセーハという手段があるのですね。なるほど、参考になりました。ありがとうございます。
by Hagi (2013-11-07 11:04) 

Enrique

Hagiさん,コメントありがとうございます。
ご参考になれば幸いです。この譜面では四分音符ですが,別のものではここのシファ#ド和音には「出来るだけ延ばして下さいのタイ」がついていました。斜めセーハなら二分音符くらいまで伸ばす事が可能です。ただ曲と場所によっては何が何でも延ばさなければならない場合と,切っても良い(あるいはその方が良い)場合とがあると思います。
by Enrique (2013-11-07 17:55) 

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