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バブルの生成と消滅 [その他]

私が就職したのはバブル時代が始まる少し前でした。就職したてで,マンションや家や土地を買える訳も無く,ついぞその恩恵は無かった反面,直接的にはそれほどひどい目にも遭わずに済みました。

出張中車中で読んでいた日経新聞で経済学者が「バブル」という言葉を解説していました。「ふーんそういうものなのか?」と言うくらいのもので,余り実感は沸きませんでした。経済学者の想像上の産物くらいに思っていました。17世紀オランダのチューリップの球根バブル。「バルブのバブル」,余りにも非現実的なものと思った記憶があります。バブル時代も初期・中期の頃はバブルと言う認識は無かったと思います。それどころか,バブル崩壊後も,土地や株はいつかは回復するだろうだろうと,多くの人が思っていたのではないでしょうか?


ましてやバブル前夜には,それから始まるのはバブルだとの認識は全く無かったと思います。首都圏に暮らす姉も,値上がり前に共稼ぎの夫と共にマンションを転売して自宅を購入していましたので,私たちにも「借り物件に住んでいても自分のものになる訳ではないから」と,盛んに購入を勧めました。

バブルが始まり出すと,就職したてでも思い切って借金して買ったマンションの価格が2倍にも3倍にもなって,オーバーローンを組んで買った人が勝者で,慎重に振る舞った人がソンをする(というか儲からない)時代でした。一般個人は転がす為でなく住むためなので,そうは儲からなかったとも思いますが,都内で買った小さなマンションの値上がり益で郊外に大きな物件を購入,さらにその値上がり益で,一軒家にと,藁しべ長者のような強者もいました。

土地やマンションなどの不動産もそうなら,株式の上昇も凄まじいものでした。日経平均が3万円くらいの頃,10年以内に日経平均は10万円になると,そんな事がまことしやかに囁かれていました。バブル時代は,企業の営業利益はそう良かった訳でもないのですが,各社は「財テク」に走り,営業外利益をひねり出していました。

「土地神話」というのは,土地が下がり出しても根強く,バブルがはじけて数年後から「もう底,もう底」と連呼されました。ウチもバブルがはじけて10年も経ったので,「もう下げ止まっただろう」ということとそれ以上に,子供が大きくなって来て,職場の宿舎では収まり切らなくなった(のと,妻が同僚の妻とトラブルを起こした)ため,中古物件を購入して宿舎を出る事にしました。

もちろん,土地建物が横ばいないしは上昇する時期ならば,借り賃払って借家住まいするより,購入してしまったほうがトクです。しかし土地建物の値段は一向に下げ止まらず,それどころか,中古物件を購入したため,寒い・結露する等々で,何年か経って,またまた妻の不満病が発症して来ました。

結局新築に近いほどのリフォームをするハメになってしまいました。それでも,何とか安く済まそうと,資材や照明器具等はネットやホームセンターなどで安く調達して,すべての電気工事は資格を持つ知り合いにほぼボランティアで協力してもらい私も工事を手伝って,100万円ほど浮かしました。バブルの頃の不労所得どころか,汗の結晶です(日頃100万円は大金ですが,ローンを組むなどと言う時は不思議とあまり気になりません。バブルの頃は家のローンを多めに借りてついでにクルマを買ったとか,高い楽器を買ったとか,そう言う話を良く聞きました)。


モノの値段に関して最近驚いたのが,記念切手の相場です。バブルが始まるずっと前の値段よりも下がってしまっています。かつてあこがれた切手,「月に雁」や「見返り美人」,バブルのはるか前の私が小学生の頃の記憶でも数千円,一時は軽く1万円以上ついていたと思うのですが,今はオークションの相場は何と千円台らしいです。「海老蔵」や「ビードロを吹く娘」だって憧れでしたが,今は殆どバルク品です。「電子メールが通信手段になって,郵便切手が使われることが少なくなったから」と理由らしきものを書いてあるのを見ましたが,何も「月に雁」や「見返り美人」を額面の8円や5円で使用する酔狂な人はいないはずですから,理由はもっと別なところにあるはずです。

記念コインなども安くなっています。確かにカード使用で現金の流通も減っていますが,むしろ自動販売機の普及などで,コインの使用が極端に減ったとは思われません。東京オリンピックや,札幌オリンピックなどの記念コインの相場も殆ど額面程度の流通価格です。東京オリンピックのころの千円は,バブル以降なんぼデフレが進んだと言え現在一万円くらいの価値はあると思いますので,保管していただけソンといったようなものです。

記念切手にしろ,コインにしろ,人々の欲望が作り出したやはり泡沫だったのでしょう。子供心にも憧れたのは高嶺の花で手に入らないからで,それ自体は手に入らなくても,当時発行の記念切手を買っておけば,将来値上がりするものとばかり思っていたものでした。

音楽分野ではもちろん,楽器です。ヴァイオリンは有名です。やはり,バブル以前からバブリーな動きは始まっていたのではないでしょうか。ただ国際流通商品であり,バブル的価値だけでなくて楽器性能に関する需要も高いですから値崩れは起きないですね。ギターもずいぶん高くなりましたが,それでも海外品は円高のせいでそんなには高くならなかったので,それほどのバブルにはなっていないでしょう。値がつり上がるにはやはり欲しい人の総数と,さらに「どれだけカネを積んでも欲しい」という超マニアックな人たちの存在が必要です。ギターのストラディヴァリウスと言われるトーレスでも数千万円が相場です。「セゴビアが使ったハウザー」とか「ブリームが使ったブーシェ」とか言った特別な名目が無ければ,一般流通の楽器ならプロが使うものでも千万円以下です。

実は,前々から人々の心の中にあった小バブルが,政策等の条件を得てあの時代火がついたのではないでしょうか?その火があらゆる資産物に及んで大バブルを招いた。多くの個人や企業や国までが不動産や株をつり上げ,一部のバブル長者と多くの破産者を出し,実体経済まで狂わせたのが,あの時代だったのでしょう。

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アヨアン・イゴカー

私が最も嫌いなバブルの時代、あの頃はアメリカ人も日本人も狂っていました。明確な人生の指針を持つこと、探し続けることを放棄し、潮流に乗って浮かれていることが流行していました。それらは弱い人間達を木に登らせて、有頂天にし、一部の傲慢な人々だといえるかと思いますが、彼等自身の力を彼等に過信させることになりました。

バブル崩壊の後、清貧と言う言葉が復活しましたが、日本人はバブルが崩壊して初めて、本来の人間のあるべき姿を少しずつ見直し始めました。要は、人間は何のために生きているのか、それを考えない人々がバブルを後押ししたのだと思います。
そもそも自分の物でもない土地(生き物は生まれれば、必ず死ぬのだから)が、買い手が多いと言う理由だけで、法外な高値が付いてしまうこと、その状況を私は下らないと言って、冷笑していました。土地などと言う本来一定の価値しかないものが、人間の欲望によって、架空の価値をつけられ、架空の価値を実体があるものであるかのように取引し、実体のない大金を手にする人々があちこちにいる。それは異常です。そんな馬鹿なことが許されてはならない、と思っていました。
バブルは群集心理、それも意図的に誘導された価値観に基づく心理によって、人々はレミングの群れように、崖に向かって足早に歩み続けたのです。大金を手にすることだけが幸福ではないことは、経験的に分かっているにも拘らず、団地の主婦のように、煽られると、その価値観、強迫観念から逃れられない・・・
失礼しました。つい、バブルについては主張したいことが沢山あるものですから・・この辺で止めます。

by アヨアン・イゴカー (2013-04-29 15:15) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
最近更新が滞りがちですが,御ページ拝見して,そう言えばそう時代があったなーという感じで,記事にしました。あの時代,個人に企業に,国まで挙げて,踊り狂っていました。「地上げ」なんていうヒドい犯罪行為までもがまかり通っていました。
大多数の人がひどい目に遭うにも拘らず,まさに「レミングの群れ」の様に煽られて突き進んだのでした。その後のいわば後遺症にばかりに目が行く様ですが,むしろ元になったバブルという病気の原因を正しく総括することが先決だと思います。
by Enrique (2013-04-30 22:13) 

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