オイラー格子でみる純正律〜鍵盤楽器ではどうか その2〜 [音律]
オイラー格子がらみの一連の記事も大詰めに近づいて来ました。
前回の記事で,純正律の広い音の地平からオクターブ12音を取り出すやり方と5度圏との関係について述べました。
あそこでとりあげたのは,非対称型音階と言われる一例でしたが,ここでは更に他の音階実現例も示します。2,3例示せば,その他いろいろは試せると思います。
英語版Wikiなどには,5リミット純正律音階のパターンとして前回挙げた「非対称型」の他に,「対称型」というのが書いてあります。Wikiですから正確な保証も無い訳ですが,既にオイラー格子上で色々見て来ましたから,「そう言う取り方もある」程度の事です。
以下のものは,対称型音階1と書かれているものです。
これを五度圏で表わすと,以下の様になりますね。
次のものは,対称型音階2と書かれているものです。
これの対応する五度圏は以下のものです。
ちなみに,オイラー律というのは,ものの本には以下の様になっているようです。ホ長調基準の非対称型音階ということになります。オイラーの考え方の一実現例であることは確かですが。
対応する五度圏はこうですね。
非対称型や対称型,もしくはオイラー型と言われるものが,オイラー格子上で3段,五度圏上ではシントニックコンマ2つのタイプでしたが,歴史的に現れた純正律ではシントニックコンマを3つ入れるものがあるそうです。こちらは純正律というよりも,ミーントーンに近いもの(五度圏内でのコンマの「取り合い」は同じ)ですが,オイラー格子にハマる限り純正律音階といえるものでしょう。なお,ミーントーンは純正長3度純正にする為に4個分の5度を平均的に(4乗根で)縮めますから,その数学的扱いにおいては平均律と言えるものです(12平均律はオクターブを合わせるために12個分の5度を平均的に(12乗根で)縮めています)。
シントニックコンマ3つというのはオイラー格子上では上下4段にわたるということです。
以下のものは,歴史的には「マッテソン」音階というのだそうです。
同5度圏は以下のものです。
以下のものは,「マールプルク」音階というのだそうです。
対応する5度圏は以下のものです。
現在の私たちはオイラー格子を知っていれば,歴史的に現れた音律家たちの純正系音律を簡単に眺めて,その利用範囲を一目で眺める事が出来ます。もちろん,他にもいろいろ作れそうですが,純正音階は純正音から取り出してこないといけませんので,ウェルテンペラメント程にはその種類は多くなりようがありません。オイラー格子上で12音の取り出し方によって,それぞれ調べれば歴史的な人たちの名前がきっと付いていることでしょうが,オイラー格子で眺めることが出来る現在の私たちには別にその名前はあまり重要なことでありませんね。
オイラーは18世紀の人ですが,この考え方を発表したのは,1739年のTentamen novae theoriae musicae(たぶん「新音楽理論の試み」)だそうです。現在googleのeBookでも読めます。ラテン語で書かれているので,解説されたもの(たとえばこれ)しか読めませんが,7倍音に関しても考察しているようです。7倍音以上に拡張したのは20世紀のA.フォッカーですから,彼の先見性が分かります。彼の研究は包括的な理論ですから,何も3段の12純正音階に限ったものではないですが,他の音楽家発表の12音純正音階と合わせるために,こうされてしまったのではないか?とも想像されます。ほぼ同時期の純正音階と近いものがありますから。
他にもいろいろ考えられるでしょうが,前回から見て来たオイラー格子上での各種12音純正音階をまとめますと,オイラー格子上では,ピタゴラスが1段,キルンベルガーIが2段,対称・非対称型(あるいはオイラー型)などが3段,最後にあげたマッテソンやマールプルクのタイプが4段になっています。このように,オイラー格子上で見れば,各種12音純正音階の音の選ばれ方が分かります。
広い純正律の地平からどう12音を選択して来るかという問題に過ぎませんが,大ざっぱに言えば,五度重視音階はピタゴラスに対応する横長から三度重視音階に従って縦に重なっていくという事になります。
では5段,6段もあるのかという事になりますが,理屈上はあり得ますが,それを純正音階のままでやるのはムリでしょうね。五度圏上でシントニックコンマを4つ以上入れるなんて狂気の沙汰。3つでもあやしいですが,これに関してはミーントーン化で,解決しているわけですね。前にも書きましたが,平均的に圧縮して上下12段にしたのがミーントーンですね。
12音の純正律音階で足りない音が出てくると,いわば,純正音階の調律替えが必要になってきます。鍵盤では曲の途中で調弦を変える訳に行かないですから,ソナタ形式の様な長い変化に富んだ楽式(単一楽章内でも楽章間も)は12音純正律音階使用ではあり得なかったはずですね。
12音に切り出した純正律音階は,五度圏でも表記可能なわけですが,使用可能音や和音,その動きなどを一目で確認できるのがオイラー格子上で見る強みです。(つづく)
前回の記事で,純正律の広い音の地平からオクターブ12音を取り出すやり方と5度圏との関係について述べました。
あそこでとりあげたのは,非対称型音階と言われる一例でしたが,ここでは更に他の音階実現例も示します。2,3例示せば,その他いろいろは試せると思います。
英語版Wikiなどには,5リミット純正律音階のパターンとして前回挙げた「非対称型」の他に,「対称型」というのが書いてあります。Wikiですから正確な保証も無い訳ですが,既にオイラー格子上で色々見て来ましたから,「そう言う取り方もある」程度の事です。
以下のものは,対称型音階1と書かれているものです。
B |
F# |
C# |
G# |
D# |
A# |
E# |
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G |
D |
A |
E |
B |
F# |
C# |
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E♭ |
B♭ |
F |
C |
G |
D |
A |
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C♭ |
G♭ |
D♭ |
A♭ |
E♭ |
B♭ |
F |
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A♭♭ |
E♭♭ |
B♭♭ |
F♭ |
C♭ |
G♭ |
D♭ |
これを五度圏で表わすと,以下の様になりますね。
次のものは,対称型音階2と書かれているものです。
B |
F# |
C# |
G# |
D# |
A# |
E# |
|
G |
D |
A |
E |
B |
F# |
C# |
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E♭ |
B♭ |
F |
C |
G |
D |
A |
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C♭ |
G♭ |
D♭ |
A♭ |
E♭ |
B♭ |
F |
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A♭♭ |
E♭♭ |
B♭♭ |
F♭ |
C♭ |
G♭ |
D♭ |
これの対応する五度圏は以下のものです。
ちなみに,オイラー律というのは,ものの本には以下の様になっているようです。ホ長調基準の非対称型音階ということになります。オイラーの考え方の一実現例であることは確かですが。
B |
F# |
C# |
G# |
D# |
A# |
E# |
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G |
D |
A |
E |
B |
F# |
C# |
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E♭ |
B♭ |
F |
C |
G |
D |
A |
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C♭ |
G♭ |
D♭ |
A♭ |
E♭ |
B♭ |
F |
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A♭♭ |
E♭♭ |
B♭♭ |
F♭ |
C♭ |
G♭ |
D♭ |
対応する五度圏はこうですね。
非対称型や対称型,もしくはオイラー型と言われるものが,オイラー格子上で3段,五度圏上ではシントニックコンマ2つのタイプでしたが,歴史的に現れた純正律ではシントニックコンマを3つ入れるものがあるそうです。こちらは純正律というよりも,ミーントーンに近いもの(五度圏内でのコンマの「取り合い」は同じ)ですが,オイラー格子にハマる限り純正律音階といえるものでしょう。なお,ミーントーンは純正長3度純正にする為に4個分の5度を平均的に(4乗根で)縮めますから,その数学的扱いにおいては平均律と言えるものです(12平均律はオクターブを合わせるために12個分の5度を平均的に(12乗根で)縮めています)。
シントニックコンマ3つというのはオイラー格子上では上下4段にわたるということです。
以下のものは,歴史的には「マッテソン」音階というのだそうです。
B |
F# |
C# |
G# |
D# |
A# |
E# |
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G |
D |
A |
E |
B |
F# |
C# |
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E♭ |
B♭ |
F |
C |
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A |
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C♭ |
G♭ |
D♭ |
A♭ |
E♭ |
B♭ |
F |
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A♭♭ |
E♭♭ |
B♭♭ |
F♭ |
C♭ |
G♭ |
D♭ |
同5度圏は以下のものです。
以下のものは,「マールプルク」音階というのだそうです。
B |
F# |
C# |
G# |
D# |
A# |
E# |
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G |
D |
A |
E |
B |
F# |
C# |
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E♭ |
B♭ |
F |
C |
G |
D |
A |
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C♭ |
G♭ |
D♭ |
A♭ |
E♭ |
B♭ |
F |
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A♭♭ |
E♭♭ |
B♭♭ |
F♭ |
C♭ |
G♭ |
D♭ |
対応する5度圏は以下のものです。
現在の私たちはオイラー格子を知っていれば,歴史的に現れた音律家たちの純正系音律を簡単に眺めて,その利用範囲を一目で眺める事が出来ます。もちろん,他にもいろいろ作れそうですが,純正音階は純正音から取り出してこないといけませんので,ウェルテンペラメント程にはその種類は多くなりようがありません。オイラー格子上で12音の取り出し方によって,それぞれ調べれば歴史的な人たちの名前がきっと付いていることでしょうが,オイラー格子で眺めることが出来る現在の私たちには別にその名前はあまり重要なことでありませんね。
オイラーは18世紀の人ですが,この考え方を発表したのは,1739年のTentamen novae theoriae musicae(たぶん「新音楽理論の試み」)だそうです。現在googleのeBookでも読めます。ラテン語で書かれているので,解説されたもの(たとえばこれ)しか読めませんが,7倍音に関しても考察しているようです。7倍音以上に拡張したのは20世紀のA.フォッカーですから,彼の先見性が分かります。彼の研究は包括的な理論ですから,何も3段の12純正音階に限ったものではないですが,他の音楽家発表の12音純正音階と合わせるために,こうされてしまったのではないか?とも想像されます。ほぼ同時期の純正音階と近いものがありますから。
他にもいろいろ考えられるでしょうが,前回から見て来たオイラー格子上での各種12音純正音階をまとめますと,オイラー格子上では,ピタゴラスが1段,キルンベルガーIが2段,対称・非対称型(あるいはオイラー型)などが3段,最後にあげたマッテソンやマールプルクのタイプが4段になっています。このように,オイラー格子上で見れば,各種12音純正音階の音の選ばれ方が分かります。
広い純正律の地平からどう12音を選択して来るかという問題に過ぎませんが,大ざっぱに言えば,五度重視音階はピタゴラスに対応する横長から三度重視音階に従って縦に重なっていくという事になります。
では5段,6段もあるのかという事になりますが,理屈上はあり得ますが,それを純正音階のままでやるのはムリでしょうね。五度圏上でシントニックコンマを4つ以上入れるなんて狂気の沙汰。3つでもあやしいですが,これに関してはミーントーン化で,解決しているわけですね。前にも書きましたが,平均的に圧縮して上下12段にしたのがミーントーンですね。
12音の純正律音階で足りない音が出てくると,いわば,純正音階の調律替えが必要になってきます。鍵盤では曲の途中で調弦を変える訳に行かないですから,ソナタ形式の様な長い変化に富んだ楽式(単一楽章内でも楽章間も)は12音純正律音階使用ではあり得なかったはずですね。
12音に切り出した純正律音階は,五度圏でも表記可能なわけですが,使用可能音や和音,その動きなどを一目で確認できるのがオイラー格子上で見る強みです。(つづく)
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