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オイラー格子でみる純正律~俗称「カノン進行」について~ [音律]

私なりに理解したオイラー格子を使って,純正律の性質を調べています。
前回は純正律の欠点と言われる,ピッチ変動について一例を説明しましたが,ああいうことはしょっちゅう起こるので純正律は使いものにならないのでしょうか?

オイラー格子上であのコード進行を追って行くと,ピッチが低下していきました。オイラー格子上で一段上がって左に4つ離れた「同名異音」は1シントニックコンマ分低くなっています。このコード進行を繰り返すと,シントニックコンマ×繰り返し回数分ピッチが下がる。というのがその説明です。

どうもあれは純正律の最もイタイところを突いたコード進行のようです。純正をあきらめるか?ピッチ変動を認めるのか?の二者択一を迫っているようです。しかし,果たしてイタイところを何度も何度も執拗に攻めるものでしょうか?

何度も同じコード進行を繰り返す例として,有名な「パッヘルベルのカノン」のコード進行,俗称「カノン進行」があります。あれは,同じ進行を28回も繰り返すので,純正律使用では厳しいのでしょうか?

そこで今回は,有名な「パッヘルベルのカノン」のコード進行(原調は一音高いD),
C-G-Am-Em-F-C-Dm/F-G-C

これをオイラー格子上で読み解いてみようと思います。

ではまず,Cコードです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


次は,Gです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


次は,Amです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


次は,Em。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


Fです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


Cに戻ります。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

ここまでは何ごとも起こりません。

次はDm/Fコードですが,ここは2通りの可能性があります。ひとつは,左側に行く方法ですが,それをやったら百年目。2度と戻って来られなくなってしまいます。純正は保たれてもピッチ低下を招くのでした。もしこれを28回も繰り返したら,底なし沼のように−602セントもピッチ低下してしまいます。その前何回かの繰り返しで演奏不能に陥るでしょう。

もちろん,現場の人はそんなバカげたことをする訳がありません。ここは右側でDAFをとるはずです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


すると,つぎのGで戻れます。もし左に行っていたら,こちらのGBDに戻って来られませんでした。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


無事ピッチ変動を起こさずにCに戻って来られました。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


どうでしょうか?このコード進行では,AとFを2種類使いました。すなわち,AmとFの時は普通のAとFを使い,Dm/Fの時だけ高め(約+22セント)のAとFを使います。これによって和音の純正を保ったまま,何十回繰り返してもピッチ変動も起こさずに俗に言う「カノン進行」を全う出来るのです。

もちろん,演奏はヴァイオリン主体で原調Dですから,BmとGの時は普通のBとG,Em/Gの時だけ高めのBとGを使えばOKな理屈です。私はヴァイオリンで弦楽合奏をやったこともありませんし,その技術もありません。実際に現場の声を聞いたわけでもありませんが,少なくともハモリが自然現象である以上,ハーモニーの素晴らしいアンサンブルの方々ならばこのテの事は自然に体得しておられるテクではないかと思うのですが如何でしょうか?(つづく)

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REIKO

なるほど・・・(ひたすら感心)何だかパズルみたいですね。
ひょっとして、弦楽や声楽アンサンブルの人達が、楽譜を見ながら「ここはどっちへいけば元に戻ってこれるか?」などと言いながら、ホワイトボードに書いたオイラー格子の上でマグネットを動かしながら相談してる・・・とか。(笑)

前記事内容とも関係しますが、私はこの「ピッチ変動」を「コンマ移高」という言葉で、「AからDを取ることが一回ある度に、Cに戻ると最初のCより1シントニック・コンマ低くなる」と理解しています。
↑↑↑・・・でいいですよね?(同じことですよね?)
それで、これとは逆に「DからAを取ることが一回ある度に、Cに戻ると最初のCより1シントニック・コンマ高くなる」と思ってるのですが、そうですよね?
つまり「低くなる」パターンしか聞かないが、「高くなる」パターンもあるはずだと。
例えばG⇒Dmなら、GBDのDからDm内のAを取ることになるので、その後の展開次第(笑)では、最初とは違うCにしか行けず、それが最初のCより「高い」ことになるんじゃないかと。
しかしその後、AからDを取るようなコード進行があれば、今度は「低く」なるので、プラスマイナスゼロで元のCに戻ってこれるはず・・・ですよね?
初心者用の無伴奏声楽曲などでは、そこまで考えて作曲してあると親切なのかな~?と思ったりしていますが、どうなんでしょうね。
記事に書かれている「ここは高めのAとFを使う」って、実際にはなかなかのテクニックが要ると素人目には思えるのですが。
それからこのカノン進行では、運良く二度目のCの後がDm/Fで、Cコードとの共通音が無く、右と左のどちらに行くか選択の余地がありましたが、もしC⇒Fm(!)と来てDm/Fだったら、強制的に左側ですよね。(笑)
こういうのは演奏者泣かせなのかな~?と思ったりしました。
いや~、オモシロイですね。(^ ^;)
このカノン進行は、「戻ってこれる」ように意図して書かれてるのでしょうか・・・?
by REIKO (2012-07-08 02:08) 

Enrique

REIKOさん,良く見ていただき,ありがとうございます。
純正律に関してこのピッチ変動と言うのが私の中の懸案でした。「ピッチ低下」とは良く聞くのですが,上昇する事も当然あります。「コンマ移行」という方が標準的な言葉でしょうか。
まったくご指摘の通りですね。乗り換え点はAからDをとる時とDからAをとる時が乗り換え点ですね。この進行でも実は「何事も起こらない」とした前半でも,G→Amで高い方を使う進行もあるわけで,そうすると高い方に行きます。

全くの想像ですが,マチガッて高い方に行ってしまったら,イカンイカンと,今度は低い方に行く方も可能なわけで,なかなかスリリングです(笑)。

「高めのAとFをとる」
この件に関しましては,この図式からのみ言っている事なので,現場でそうしているのかどうか私も知りません(汗)。ただ,難しそうには見えますが,弦楽やコーラスでは音を自ら作っているわけで,むしろ音の関連性(5度や3度の)で乗っかって行ったほうがむしろ楽なこともあるのではないか?と思います。どのパートの音を聞くのか?自然にそうなるのか?その辺のテクは固定音程楽器人間には分りにくいですが。

理屈だけの話になりますが,弦楽器は単音でも3倍や5倍のハーモニクスも出ています。端的な例はクラリネットで,3倍,5倍,7倍(汗)しか出ません(これ,五度,長三度のことですね)。極論すれば,ちょっと耳を澄ませばユニゾンに近い感覚でハモっていける(はずな)ので,ちゃんと分った方がリードすれば,あの美しい管弦楽アンサンブルが出来上がるのだと思いますね(で,コンマ移行さえ注意すれば)。

和声論を良く知らないのに「和声進行」と言っちゃうとアカデミックの人に叱られそうなのでコード進行とポピュラー系のフリをしていますが,和声論ではその辺の事情も織り込まれて出来上がっているのだろうと思います。禁則とか。だから「規範音律」であることは間違いないと思いますね(笑)。

何分和声論知らないんですが,C→Fmは,いつ頃から使われているのですか?古典派以降は良く使われるのでしょうか?鍵盤用に取り出した純正音階ほどではないにしても,コンマ移行に関しては制約あるはずですよね。コード音/進行の拡大が調性の崩壊,ひいては規範音律である純正律の放棄にもつながってしまったのは音楽史の教えるところだと思います。

by Enrique (2012-07-08 08:49) 

REIKO

手元の本では「移行」ではなくて、「移高」となっています。
「移高」って変換候補に出ないですが・・・(^ ^;)
このページのずっと下、「Just Intonation」の項には「Commatic drift」とありますね。↓↓↓
http://www.dolmetsch.com/musictheory27.htm
ただ「コンマ」の意味を知らないと、何のことや?になってしまうので、「ピッチ変動」の方が分かりやすいかとも思います。
しかし「drift」とは上手く言ったものですね。
31に等分した平均律で、かなり純正律に近い音高が得られるなどとも書いてありますが・・・
53よりは現実的かと思いますが、それでも31・・・う~ん、ですね。
もっともMIDIの仕様では、チャンネルごとにエクスクルーシブで独自の音律設定ができるので、22セント違いの12音純正律のセットを複数「用意」すること自体は簡単です。
何か曲を鳴らしてみて、禁則にひっかかる箇所から別のセットを使うように曲のデータを移し替えればいいのかもしれません。
もっとも五度の禁則以外にも、12音に限った純正律内では、ピタゴラス短三度のような純正ではない音程も含まれているので、それは困りますね。
やはり「一部を切り取る」ので、ピタ短(笑)ができてしまうんですよね?

>C→Fmは,いつ頃から使われているのですか

あっ、それは分かりません、ただ記事のオイラー格子を見て、もしこちらに行ったら・・・と思いついただけですので。
ですが「ドミソ」⇒「ドファラ」というコード進行で、「ラ」の代わりに「ラ♭」はあり得ますね。
ブルクミュラー「素直な心」の最後の方、左手に正にこれが・・・
それで音楽辞典を見ていたら、ルネサンス末期に多声音楽が極限まで表現に凝った例として、イ短調から嬰ヘ長調!!!に突然転調するマドリガーレの譜例が出ていました。
(最初「嬰ヘ短調」かと見間違えたくらいで・・・)
まだ平均律なんて無い時代ですから、これは器楽ではなく「人間の声」だからできる技でしょうね。
by REIKO (2012-07-10 01:41) 

Enrique

REIKOさん,再コメントありがとうございます。

自分なりに納得したので,それ以上調べなかったのですが,確かにdriftの方が的をついていますね。お手元の本ではどのくらい詳細な説明かですが,コンマ「移高」というのは高い方へ行くのを指しただけですから,コンマ「移低」もセットでないとマズイ(笑)ですよね。

それから等分律で精度を上げると必要ない音まで作らないといけませんので,必要な純正音を拾い出す方が良いか,多音の等分律が良いかイロイロ検討されたのでしょうね(それでとうとう。。。)。何分等分律はどの調でも行けるお手軽性がウリなわけですが。
31ETは良く検討していませんが,そんなに精度よくないと思います。53ETは53ピタゴラスとほぼ等しくなる上,最小刻みが22.5セントでほぼシントニックコンマなのが良い訳ですが,31ETは38.7セントですね。これで純正音程上手く表現できるのかしら?
MIDI仕様の件は良く知らないので,調べて考えてみます。
理屈上は,楽曲で使う音を全てオイラー格子上にバラまいて,その音を全部用意すれば完璧なはずですね。
ただオイラー格子上で沢山の音になったり,コード進行が飛ぶ様な曲は,純正律前提の曲ではないのかもしれませんが,それでも演奏は出来る理屈ですね。

>「ドミソ」⇒「ドファラ」というコード進行で、「ラ」の代わりに「ラ♭」はあり得ます

はい,少なくとも古典派以降は普通の進行だとは思うのですが,純正律使用だとコンマ・ドリフトの可能性がある訳ですね。

Am→F#はすごいことですが,リディア旋法だとFがなくてF#ですから,案外アリとか。。。
by Enrique (2012-07-10 14:53) 

ミタチ

調子に乗ってまた出て来たミタチです。
横から割り込んだりして失礼します。

53ETは純正律とピタゴラス律を表現できますが、31ETはミーントーンですから純正律ではないはずです。
純正律は53等分だけで可能です。このドリフト理論を明確に構築できれば、少なくともコンピュータでは純正律が可能となりますね。人間には無理だろうね。
色々な等分律が何故に「等分純正律」と呼ばれているのか分かりませんが、明らかな間違った表現だとしか言い様がありませんね。
kotenさんお勧めの、東川清一著「古楽の音律」を見てもやはりこうした記述ですから、これが一般的なのでしょうけどね。だって何等分しても純正律と呼ぶのなら、1200等分すればセント表示と同じですから、その中から12個を切り出せば12JUSTになる訳だし、全ての音律が含まれてしまうのですから、純正律が根底から崩れてしまいますからね。
この本に出ている「18世紀に愛用されていた55等分法に基づく純正律」なども、何言ってんだいこれはと言いたくなりますよ。アーロンのミーントーンのおよそ半分の純正内容だから、これはむしろ1/6コンマミーントーンですね。この手の本や論文の内容は簡単に信用しないほうがいいと私は思っています。

by ミタチ (2012-07-14 02:31) 

Enrique

ミタチさん,コメントありがとうございます。
31ETはミーントーンですか。それなら納得ですね。

>人間には無理

意識的にやるのは確かに難しそうな気はしますね。行きがかり上そうなるので,そこは注意するといったことは可能かと。
自然にやれば起こってしまうコンマドリフトをどう処理するかですね。
そのままやるか,コンマドリフト起こらない様にするか。後者は難しいと思いますね。

>色々な等分律が何故に「等分純正律」と呼ばれているのか分かりませんが、明らかな間違った表現だとしか言い様がありませんね

そうですね。厳密と近似,言葉の定義が入り乱れているので,全く矛盾した表現を平気でやってしまうのですね。
セント値というのも,1200平均律なわけで,これで全部やっているのも本当はヘンなわけなんですが,なかなかこれに気づく人も少ないですね。電子楽器にしろチューナにしろセント値ですし。純正律は本来比率な訳ですが,それを言うと机上の空論みたいに捉えられてしまいますし。

>「18世紀に愛用されていた55等分法に基づく純正律」
私は55ETなんて単なる計算マチガイだと思ったのですが,シッカリ本に出てますね。自分で確かめる人には害はないでしょうが,普通は立派な本に出ていれば信用してしまいますね。著者は純正律とミーントーンの区別も出来てないようですね。
by Enrique (2012-07-14 06:34) 

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