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「禁じられた遊び」前後半の調弦など(☆演奏付き☆) [演奏]

前回,「禁じられた遊び」の冒頭部分のみ取り出して,「純正度が高い」旨の指摘をしました。
セーハ部分の音も見ておく事も必要でしょうが,「禁じられた遊び」後半部はご承知の通り,ホ長調に変わります。ここを何とかしないといけません。

前回のホ短調調弦のままでは,上手く行きません。弾いてみると,かなりハゲシく音痴になります。平均律フレットで調弦のみ純正化したインチキ調弦の限界でしょうか?いうまでも無く,ホ短調では長三度間だった③②弦間がホ長調では短三度間にならないといけません(これは第3音と第5音との関係で主音と第3音の関係は長調が長三度,短調が短三度です)が,純正和音では長三度と短三度の違いが小さいのですね(というかこちらがホンモノなわけですが,平均律的和音に慣らされていますと,ざっくりと変わるのが長短だと思ってしまっています)。

前回のホ短調調弦を再記します(D音調整後)。
1E = 4 (+2.0)
2B = 3 (+3.9)
3G = 12/5 (+17.6)
4D = 1.7818 (+2.0)
5A = 4/3 (0)
6E = 1(+2.0)

この調弦のままで後半ホ長調に突入しますと,G#音が平均律音よりもそのまま17.6セント上昇してしまいます。純正G#音は,6E基準ですとオクターブ上の長三度ですから2×5/4=5/2(-13.7セント),この調弦中だと-11.7セント,開放G音もそのままの平均律シフトですから,つごう29.3セントぶん下げないといけないことが分ります。

やはりこのホ調調弦を再記しますと,
1E = 4 (+2.0)
2B = 3 (+3.9)
3G = 2.6487(-11.7)
4D = 1.7818 (+2.0)
5A = 4/3 (0)
6E = 1(+2.0)

ホ短調部分では③弦を1/6半音ほど上げ,ホ長調部分では1/8半音ほど下げないといけません。
演奏前にホ短調で合わせていれば,ホ長調への転調部分で半音の3割かた下げないといけないということです。ダカーポで短調部分に復帰する時も逆をやらないといけません。もちろん,フレットがそれ用になっていればそんなメンドウなことはする必要がないワケです。

ものすごく大雑把なことを言えば,平均律では間をとっているわけです。セント値自体もそうなのですが,現在では平均律を基準に考える事が多いので,上げるとか下げるとか言っていますが,本来の音の響きから言えば本末転倒の考え方なのですね。

ただ,転調部分で調弦を変えるなんて,この曲で想定されているわけはありませんね。
ではそんな事は必要ない純正律フレットの楽器が想定されているのか?
それも可能性は低いと思います。

なぜなら,長短を決定づける長短三度の伴奏音程がオクターブ離れていますのでくるいが目立ちにくく,メロディもオクターブ上で動いています。耳に残るのは繰り返し弾かれる伴奏音でしょうか。それもアルペジオです。響きの純正度を緩和する仕掛け満載です。

純正律フリークの方からしたらツマラナイ,無頓着な方は無頓着なママ,とは思いますが,平均律フレット楽器でも行けて,耳調弦ならばより響きが良く出来るところがポイントではないでしょうか?

途中で調弦変えすることが現実的でないとすれば,両方の響きの許容点で③弦を調弦するのがよりよいやり方と考えます。妥協するにしても,機械的な無批判無思考の妥協ではなく音で確認するという事が重要だと思います。

調弦での違いを実演しようかとも思いましたが,録音では差が分かりにくと思いますのでそれは止めて,長短三度の関係が純正律に近いミーントーンで弾いてみました。決してこの音律が使われたというわけではありませんので誤解無きよう。長短部分や伴奏音にのみ着目して下さい。


オリジナルで弾いていたのですが,録音しようと何度か弾くうちにイエペス編になってしまいました。
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REIKO

3弦が二本欲しいですね・・・(笑)
(分割鍵盤の弦楽器版!?)
又は ──── ↓↓↓
最近初めてハープ(ペダルで半音~全音をシフトできるモダン楽器)用の楽譜を見たら、実際に当該音を弾く前にペダルでシフトしておくタイミングが楽譜に書いてあって、なるほどと思いましたが、ギターにもそんな仕掛けがあって、あらかじめ設定したセント値だけ弦の張力を変えられたら・・・なんて、冗談半分に考えてしまいました。
それでミーントーンの「禁じられた遊び」ですが、やはり頭の中に出来上がっているこの曲の印象(特定の演奏を聴き馴染んでいるわけではなく、その辺?で鳴っている演奏の総合イメージ)とはだいぶ違いますね。
古風な感じというか、クラシック曲寄り?に聴こえます。
ピアノもそうなんですが、ポピュラー音楽って平均律の方が「それっぽい」んですよね。
モヤモヤするのでムードが出るとか・・・(笑)
ミーントーン⇒クッキリなので、覚醒しちゃいますね。
by REIKO (2012-07-01 16:53) 

Enrique

REIKOさん,コメントおおきに!です。
3弦の件は,平均律フレットでやろうとするので,そう言う事になる訳です(汗)。kotenさんから突っ込まれそうですが,ちゃんとそのようなフレッティングにすれば全然ノープロブレムです(ミーントーンフレットでは3弦の第1フレットがちょうどそのようになっています)。オクターブ15音でも53音でも行けちゃうのがフレット弦楽器です(ノンフレットだと無限ですが,ちゃんと弦の固有振動で鳴るところで鳴るようになってますね)。
この曲では殆ど問題ないのですが,純正律ではD音が二つ発生しますから,むしろ4弦の方が2本あったほうがいいかもしれないですね。もちろんフレットはなんぼでも置けるのですが,開放弦に近い方(ゼロフレット)に細かいフレットを発生してしまうと指の太さからして押さえられないという問題がありますので。
「禁遊」は一般には映画音楽ですが,クラギ界では従来はスペイン民謡,最近ではアントニオ・ルビーラ作のクラシック曲という位置づけです。今回ミーントーンは純正律フレットの代用として使った訳ですが,「クラシック曲寄り」と感じてもらったとしたら成功でしたね!
by Enrique (2012-07-01 20:16) 

アヨアン・イゴカー

美しい演奏ですね。
映画の映像や、この曲を背景に広島の原爆を題材にしたNHKのラジオドラマを懐かしく思い出していました。被爆した少年が亡くなってしまう悲しい話でした。亡くなる時にこの曲が流れ、少年の私は悲しくて涙を流しました。
by アヨアン・イゴカー (2012-07-01 22:37) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
メロディや伴奏がシンプルで淡々としているので,余計に映像が目に浮かびます。私の演奏でそう感じてもらったならば光栄です。
音律の比較もやろうと思ったのですが,2パターン聞いてもらうのも気がひけて来ました。
by Enrique (2012-07-01 22:56) 

koten

お、やった、素晴らしい。久々の音源up、良い響きです。堪能させてもらいました。
 オイラー純正律の件ですが、Enriqueさんの説明を何度も読んでいる内に、オイラーの主張は「禁則5度の箇所は音程を変えて純正5度に修正すべき」と読めてしまうのですが、その理解で宜しいのでしょうか。だとすると「固定音程楽器業界」wから反発くるだろうな、とも感じてしまいます。禁則5度に関し、5度を4度に転回させたり、トリル等で何とか誤魔化す等の作曲上や演奏上の種々の工夫(つまり「現場の声」)に意味がなくなってしまいますので。
それと、何故に
>決してこの音律が使われたというわけではありません
と「言い切って」しまわれるのでしょうか? 使われていた「可能性」すらないのでしょうか。そうだとしたら「昔の人」は一体どのような音律を使っていたとお考えでしょうか。
 (キツイこと書いてしまいましたが、私としてはEnriqueさんに「これ、12ETなんか比べものにならないほどずっと綺麗でしょ?」的なことを書いて欲しかったんです、ただそれだけです。もっと「自分で作った音程」、「自分で設計した響き」に自信を持っていただきたいのです。)
by koten (2012-07-02 12:39) 

Enrique

kotenさん,nice&コメントありがとうございます。
聞いて頂き有り難いです。平均律でも調弦次第では良い曲かなと思いましたが,それでは芸が無いので(せめて)ミーントーンにしました。

純正律に関しては,その通りです。だからピッチ変動が起きるのです。特定の和声進行を繰り返すとシントニック・コンマづつ上下(普通はドンドン下がるのかな?)します。別にオイラーが「主張」したのではなくてそれが自然現象だからで,オイラー以前からそうやって来たわけです。言葉としては,禁則を純正に「修正」するというのはむしろ逆で,固定音程楽器では,むしろオクターブを閉じるために禁則を設けて「修正」しているわけでしょ。音程が自由になる声や楽器に禁則なんて無いんです。
ただ,いくら純正保ってもピッチがどんどん下がったり上がったりしても困ります。純正律前提の弦楽曲などでは,ピッチ変動を何回も無批判に繰り返えすわけがないですよね。上手く調整しているんですよ。たぶん。

>5度を4度に転回させたり、トリル等で何とか誤魔化す等の作曲上や演奏上の種々の工夫(つまり「現場の声」)に意味がなくなってしまいますので。

なぜ意味がなくなるのですか?上に書いた様に固定音程12音鍵盤楽器では物理的に出来ないから,一生懸命そういう工夫をするわけでしょ。分割鍵盤を使って処理するよりも,むしろ12音で工夫するのも独特な味があってヨイと。その努力は貴重でしょう。

「固定音程楽器業界から反発」が来たって,知ったことありません。自然現象は曲げられません。人間の都合と自然現象をごっちゃにするから,原発事故だって起こるんです。

>>決してこの音律が使われたというわけではありません
演奏に使ったミーントーンのことを言っているのですが,ミーントーンがこの曲に使われたとはまず考えられないですよね。「タマタマ合い」の範疇でしょう(ヴィラ=ロボスだってミーントーンでけっこう行けます)。かりに可能性があったとしても私はこのように書きます。kotenさんのスタイルとは違うかも知れませんが,私の流儀です。しいて言えば「19世紀ごろまで広く使われた音律ですが,この曲には」という但し書きが必要だっかも知れないですね。ミーントーンを否定している訳では全然無くて,現在純正律フレットの楽器が無いから代用的に使っているというのも,控え目に書いている理由ですね。
by Enrique (2012-07-02 19:38) 

Cecilia

素敵な演奏ありがとうございます。
こちらに演奏がアップされているのを知らずに前の記事を読んでいました。
ミーントーン合いますが、イエペスの演奏になじみすぎているせいか音色の色彩の違いが気になります。
by Cecilia (2012-07-06 15:48) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメントありがとうございます。
やはり演奏がないと,能書きだけでダマされたようなものですから,やってみました。演奏がミーントーンなので,ちょっと変わった響きに聞こえるかも知れませんね。
録音するにあたって,人の演奏もちょっと聞いてみましたが,人によりかなり違いますね。あえてロマンチックでない演奏に心がけました(笑)。
by Enrique (2012-07-06 17:15) 

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