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やったほうがいいこと(1) [演奏技術]

やってはいけないこと」というのを書いたので,それに対する応答記事です。

イナスな練習は止めた方が良い。というのが主旨でしたが,そうすると,何もしない事がイチバン良い事になってしまい,ミもフタもありません。もっとも,「気の乗らないときは,なるべく弾かない方が良い。」というのは,今から40年近く前,若き荘村清志さんのTVからのアドバイスとして良く印象に残っています。忠言・アドバイスの類はシンプルで短い程印象的です。あるレベルに到達した人がふと漏らす一言には,力があります。

て,ムダは省いた上で,やはりやった方が良い練習行為というのはあるでしょう。
スポーツの練習の様に,基礎練習から実践練習まで,メニューを決めてやるのは良いことだと思いますが,何分スポーツ経験はあまりないのと,やはりある程度決まった練習時間がとれないとメニュー方式も難しいのではいでしょうか?

ロフェッショナルな方々はそれぞれ練習メニューを持っているでしょうが,それは企業秘密でしょうし,練習しなくても,いつでもどこでもどんな曲でも弾けるという人も世の中にはいるようで,そちらもあまり参考にはなりません。無いものねだりしても仕方ありませんので,限られた時間内でどんな練習が有効かを考えてみます。むしろこちらの方が,多岐にわたり,「やってはいけないこと」よりも選択がむずかしいかもしれません。

読み段階でゆっくりゆっくりと弾き始めるわけですが,初見状態で弾ける曲は練習は要らない訳ですから,ここでは,各自のレベルに応じた,ゆっくり譜読みした後,何度も練習しないと仕上がらない曲を対象にします。

チの妻(ピアノ)は,「どんな曲でも譜読みは1回で終わる。」と言っていますので,そう言う人もかなりいるのかも知れませんが,譜読み段階でもワタシはいっぺんではアタマに入りませんので,何度か譜読み的作業を繰り返します。

事も最初が肝心で,弾き出す前に曲の構造分析などをしてしまうと効率がいいです。楽器を持ってしまうと弾く事のみに気が行ってしまいがちです。ワタシもあまり徹底していないですが,初期段階で構造をアタマに入れた曲は暗譜も容易だと思います。音で覚えるにしても,今どの辺を弾いているかというのが明確になっていれば安心です。

る程度アタマに入って来ても,ゆっくり練習が効果的な事は言うまでもありませんが,ただ無闇にゆっくり弾いても,時間がもったいないだけですので,有効なゆっくり練習をしないといけません。上手く弾けないところは,分析すると何通りかあるのではないでしょうか?

*速い動きについて行けない
こういう場合は楽器を持たないで,初歩的ですが,リズムたたきと声を出して(出さないでも頭の中で)歌うことが良いのではないでしょうか?ドレミで歌えればそれがイチバン良いでしょうが,アルペジオなんかは歌えるものではありませんが,適宜音をはしょっても鼻歌でもなんでもいいでしょう。拍子に入れられれば良いですね。

*拍子に入って歌えるけれども,楽器ではうまく行かない
この状態ですと,楽器の基礎練習が必要です。前にも書きましたが,以前見物したカネンガイザーの公開レッスンで,ソルの「魔笛」変奏曲の変奏やコーダにはジュリアーニのアルペッジオ練習が有効だと言っていました。

は,スケールですね。人によってはこちらの方が課題かもしれません。ジョン・ウィリアムスはギターは非常に速い演奏が可能な楽器と言っていますが,息の長い速いスケールはやはり困難です。動作を最小限にすること,それに絡んで運指を最適化することが先ず先決でしょう。大家の左手の運指には1や4をスライドさせるのが良く見受けられます。それで良く弾ける人はそれで良いのでしょうが,どうしても取って付けたようになり苦手です。まずは大家のねらいを吟味するのも必要でしょうが,自分に合った運指を考えるのも重要なことではないでしょうか。

ケールの基礎練習としては左右で違う指の組み合わせによるシンクロ練習が必要と思います。これは楽器を持たなくても机の上や下などで出来るのではないでしょうか?鍵盤で両手のスケール練習では,指かえの位置が左右で違うのが最初困難でしたが,慣れてしまえば当たり前になります。ギターのスケールも当然両手がシンクロしていないといけませんが,左右の指の組み合わせ数が多いのと,指の動きが右と左で表裏の関係になっているので,もっと難しいと思います。拍に入れるのはもちろんですが,上昇下降に<>などの抑揚をつけた,実際に使える練習が必要だと思います。あと,音質は上昇時は余り気にしなくても良い様ですが,下降が軟→硬ですね。

れからスラーです。速いスケールなどでは,一発スラーを入れると,俄然運指が楽になってすんなり行く場合も多いですが,逆にスラーだらけの譜面も苦しいものです。いずれも不要な力は抜く必要があります。下降スラーは力が抜けますが,上昇スラーや下降でも開放弦から下の弦にかかるのは弦を叩かないといけませんから,どうしても力が入ります。必要な力で叩いた後瞬間的に抜ければ良いのですが,なかなかこれが難しいです。叩いた後の音がスタカートになっていると思えばいいのでしょうが,譜面にはそうは書いてないので,意識しないといけません。

*左手がうまく押さえられない
これも,かなり多い技術課題ではないでしょうか?
ゆっくり押さえれば何でも無いものでも,曲の中で瞬間的にとなると,これが大変です。居合い抜きのように,目にも留まらぬ速さで移動・押さえ替えが出来る人は良いのでしょうが。ガイド指で持って行くのは標準的な技術ですが,移動の空中で押さえのイメージを作って行くというのもあるでしょう。
逆にゆっくりだと大変なのは左手のセーハですね。これは初中級の技術課題ですから,ソルの練習曲などで,必要最小限の力と指板のフィット感,曲中での左手の休ませ方などを研究する必要があるでしょう。

かし,アクロバットではなくて音楽をやっている訳ですから,メロディや和声進行が分りやすく自然につながることが必要です。物理的に考えたら,ポジション移動をともなう演奏において,音が全く途切れなく弾く事はどんな名人でも不可能です。ここは音楽的に考える必要があります。移動の箇所が,丁度息継ぎや,スタカートならば,むしろその途切れは音楽的にヨイわけです。中々一般論では示しにくいですが,フレーズの途中で移動が入る場合はわずかのアラストレが入る移動もヨシとしたいです。

近の現代ギターにも特集されていましたが,「禁じられた遊び」の「ロマンス」ですが,あの曲は何のそっけもなく,規則的なパターンで書かれています。ホ短調の前半は楽なので,技術的には初級レベルでしょうが,後半ホ長調になると俄然難しくなります。後半部は中級以上でしょう。完全な初級曲ならば,伴奏音も弾きやすい音でのみ構成されるはずですが,アレはメロディが淡々としていますから,伴奏も淡々と行かないといけないでしょう。淡々とメロディに合わせますと伴奏にやや難しいところが出て来ます。

半冒頭からの左手のストレッチから既に初心者や手の小さい人には厳しいでしょう。さらには3小節目から4小節目にかけて,B7の押さえのままでの,ミレ#レ#レド*レ#のシャープ攻撃への移行ですね。

ャープ攻撃の後の7ポジションへの大移動も大変です。この辺はよく解説されていると思います。この大移動はメロディの息継ぎ部分ですから,むしろ間があいた方が自然です。ここを息を吸いながら移動すれば自然ではないでしょうか?

がしかし!
メロディだけなら,それでOKなのですが,三連符のアルペッジオ伴奏音が間断なく鳴っています。これを途切れさせるワケには参りません!

の困難は,すでに2小節目から3小節目への移行の際にも発生しています。
Yepes編では,アルペッジオが下降パターン(①②③)なので,移動前最後の伴奏音G#はどうしても途切れます。
Yepes編.png

かい話ですが,A. Rubiraのオリジナルの①③②パターンだと,ここの移動前最後の伴奏音は②B開放弦なので,いわばペダルが効いて大丈夫です。
RubiraOrg..png

小節目から5小節目への大移動に際しては,アルペッジオパターンがどちら(ここは②③④もしくは②④③)であっても,F#,Aいずれも押弦音ですので移動の困難さは大差無いでしょう。ここは,メロディに寄り添っていた伴奏も息継ぎでふと立ち止まるイメージで良いのでは無いでしょうか。テンポ・ルバートがキライな人はここのF#,Aいずれか最後の伴奏音はスタカートにするしかありません。あら探しする様な聞き方はキライなので,あまり気にしたことは無いですが,大家の演奏を注意して聞いてみると良いかもしれません。だれでも弾く初中級曲と言っても,やはりこの辺の処理の上手さが演奏のポイントになるのではないでしょうか。

はり人気の高いマイヤーズの「カヴァティーナ」は冒頭からホ長調です。この調は開放弦が使え,楽な面もありますが,やはり左手の拡張や柔軟性が要求され,譜ヅラや聞いた感じほどにはやさしくないですね。この曲は冒頭から技術課題満載だと思います。

総論的な事を書くつもりでしたが,ドンドン細かくなってしまいましたので,この辺で止めて続編にします。
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アヨアン・イゴカー

やはり、一般論ではなく、細かい部分が書かれているので、とても参考になります。ギターと言う楽器の性格上、スラー、連続音を途切れなく響かせるには、いろいろな苦労、技術があるのですね。
楽器には、構造上、夫々強みと弱みがありますが、弱みはある意味ではその楽器の魅力でもあると思います。
by アヨアン・イゴカー (2012-06-17 23:19) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。

>楽器には、構造上、夫々強みと弱みがありますが、弱みはある意味ではその楽器の魅力

そうですね,弱点のない人が面白くないのと一緒で,弱点があることによって,より音を丁寧に扱うとか,気配りも発生するのだと思います。音による倍音の響きの不均等というギターのある種欠点を改善したのがイエペス式十弦ギターでしたが,演奏面では消音が大変になるという副作用を生んでいます。やはり6弦は6弦なりの良さがあるのでしょう。

それから,演奏の上手な人は,曲全体を大づかみに把握すると同時に,すごく細部にもこだわっていると思います。細かいところを仕上げた経験が,新曲にも生かされていくのだと思います。
by Enrique (2012-06-18 12:51) 

黒板六郎

倍音て話にはきーたことあるんですが、よくわかりません。もいっぺん読み直します。
細かいところを仕上げた・・・うむむ、痛いところ。なにせ暗譜した時点で、急速に興味をなくすヒトなもんで。たしかに映画なんぞでも、面白いもんはディテールというか小道具の使い方が実にうまいです。
まあなんにせよ、基本はギターに日々触ることでしょうなあ。
by 黒板六郎 (2012-06-18 21:58) 

Enrique

黒板六郎さん,コメントありがとございます。
倍音の話はチョット分りにくいでしょうかね。普通の音階も元をたどれば,2倍音,3倍音や5倍音を元に作られています。具体的にはハーモニクスですね。実音にも倍音は豊富に含まれていて,響きに重要な役割を果たします。演奏技術面でも倍音を利用する事はあります。
細部の仕上げに関しては,「この曲暗譜したから終わり」ではなくて,「細部の課題が次に取り組む曲にも重要」ということだと思います。映画の例えは面白いですね。監督ならぬ演奏者の腕の見せ所でしょうか。
by Enrique (2012-06-19 06:49) 

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